1章-35話 宝物庫
城内は広い。手分けして探すことになり、一人になったシンヤは所々崩れている壁を避け、地下に降りる階段がないか探し始める。宝物庫といえば地下だろう。そう思ったシンヤは手始めに階段を探すことにした。
なぜこんなにも建物をでかく作ったのかと、内心で製作者に文句をつけながら広い通路を一人歩く。
まだ暗くなるには時間があるとはいえ、この調子で探索していればあっという間に日が暮れる。他の二人は宝物庫の場所こそ知らないが、場内は熟知しているのだろう。シンヤは見たこともない場所を、一人で歩くことに不安を感じていた。
「どこをどう探していいものか……」
いつしか、ただ歩いて周囲を見渡すだけになっていて、もし宝物庫を隠しているのなら、この行動自体が無駄骨なのだろうとシンヤは思う。
1時間程度歩き回り、他の二人に期待して、城の入り口、広いエントランスにある上り階段の下に戻ると、クロエ達もすでに戻ってきていた。
「そっちはどうだった? わたしの方はダメ」
「おれの方も、階段の一つも見当たらないよ」
「こっちは地下牢以外の階段は見当たらなかった」
想像通り全員収穫は無い。目に見える地下でないのであれば、あとは隠してあるかだが……。
『こ……ゃ』
「ん……?」
考え込んでいるシンヤに人の声が聞こえる。
「どうしたの?」
「いや、さっきクロエ何か言った?」
「わたし喋ってないわよ」
誰もいない城内で聞こえた人の声、シンヤはクロエが何か言ったのかと思ったが違うらしい。気のせいかと思っていると。
『……ヤ、こ……ゃ』
まるで壊れたラジオのような途切れ途切れの声が、またもシンヤに聞こえる。
「ねえ。声が聞こえるんだけど……」
「声? 聞こえないよ。シンヤ大丈夫? 疲れたの?」
「どうした? とうとう頭もいかれたか?」
「頭もってなんだよ。他もおかしい見たいに言わないでくれっ。……頭も正常ですけどねっ」
どうやら他の二人には聞こえないようで、シンヤが幻聴を聞いたとでも思ったのか心配する声をかけてくる。ここは魔法のある世界だ、幻覚や幻聴、気づいたら頭がおかしくなることもあるのかもと、二人の言葉を聞いてシンヤの脳裏に悪い考えが過った。
『こっち……』
今度はしっかりと言葉として聞こえる。女の子の声だろうか、どこかで聞き覚えのある声が、シンヤを呼ぶように耳ではなく頭に響く。
「こっちって……どっちだよっ」
「シンヤ。……本当に大丈夫?」
「少し休むか……」
脳内に響く声に、つい大きく声に出して突っ込みを入れてしまうシンヤを見て、二人はさらに心配そうな顔で話しかけてくる。
「いや、ちがう。違わないけど……頭の中に声が聞こえるんだ……こっちって」
周囲を見渡すが当然誰もいない。何気なく階段を上ってみると言葉が変わる。いきなりうろうろと歩き回るシンヤを見て、クロエ達も何かあるのかと黙って見守ることにしたようだった。
『ちが……い』
違うらしい。進む方向を間違うと教えてくれる。頭に響く声は、進むべき方向に向かうと黙るようだ。
「ここは会議に使われていた部屋よ」
「ここ……みたいだ」
電波の悪い道案内に四苦八苦しながら進み、一階の広間に案内される。他の部屋と同じように破損個所が目立つ部屋に入ると、クロエが説明してれた。
『おく……かべ……ゃ』
辛うじて理解できる声を頼りに、部屋の奥へと進み、壁を調べる。
「ここに何かあるみたいだけど……」
レンガ造りの壁を三人で調べてみると、破れた国旗が張ってある裏にくぼみを見つけた。そのくぼみを弄っていると、何かがずれる音がして、壁が引き戸のように横に動く。
「これは……?」
「頭がおかしくなったわけでは無いのだな。お前にだけ聞こえる声というのも気にはなるが、今はこの先に向かおう」
「もしかして本当に頭がおかしくなってたと思ってたの? リュートは……」
一言余計に言葉を発するリュートに、少々の苛立ちを感じながらも、シンヤは隠し通路を進み始める。
クロエが魔法による明かりを灯すと、通路の先はすぐに階段になっていて、地下へと続いているようだった。
薄暗い階段を下りていくと、隠し通路の中は、湿気の匂いが充満しており鼻をつく。階段を下りると、すぐに両開きの大きな扉があり、その扉には鍵がかかっていた。
分厚い扉を前にして、なんとか開けようと頑張ってみたものの、シンヤがどんなに蹴っても扉はびくともしない。
「どいてろ……」
シンヤを下がらせたリュートが、剣に力を籠め一閃、次の瞬間、扉自体が斜めに切り裂かれ、崩れ落ちた。
「うわぁ……」
不条理な力を見て、シンヤは感嘆とも落胆ともとれる声を出すと先を行く二人を追いかける。
扉の中は宝物庫というほど金銀財宝があるわけではなく、古い絵画や装飾品、槍や剣といった武具等が綺麗に並べられていた。
「宝物庫っていうよりは、倉庫みたいな感じがするけど」
「ほとんど開けなかったみたい。お金を管理していたのは別の場所だったし。でもここに魔石があると思うの」
見た通り高価な物をしまっておく為の倉庫だったようだ。
『こっち』
部屋の中を見て回っていると脳裏に先ほどの声が響く。
「こっちって、どこだよ。ここじゃないのか?」
『おくに……』
「まだ声が聞こえるの?」
「うん、今度は奥に来いって。ごめん、ちょっと見てくる」
先ほどよりもはっきりと聞こえる声を頼りに、明かりを別に用意してもらったシンヤは、部屋の中を探索していき、薄暗い室内を奥へ奥へと誘われる。
部屋の突き当りまで来ると、また壁を調べるように言われ、広間の時と同じような仕掛けを動かし、壁を動かす。
隠し宝物庫の隠し部屋、さすがにこれ以上は無いだろうと中に入ると、そこは人一人が入れるほどの小さな小部屋だった。
中央には台座が置いてあり、そこには控えめな装飾のある箱が鎮座している。シンヤはおそるおそる手を伸ばし、箱を手に取り蓋を開けると、中には指輪が入っていた。
指輪は飾り気の無いリングに、小さな琥珀色をした宝石が中心に据えられていて、その美しさに男のシンヤでもつい見入ってしまうほどの物だった。
『やっと見つけてくれたのじゃ』
「うわっっ!」
指輪に見とれているシンヤに、先ほども聞こえていた声が聞こえ、驚いて指輪を取り落としそうになる。
「あぶなっ」
『良かった。間に合ったのじゃ……』
落ちかけた指輪を握りしめると、脳裏に響く声がはっきりと聞こえた。
「誰だ?」
『わしは……』
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