1章-36話 指輪の少女
『わしはアウラ、故あってこの指輪に封じられておる。……正確には違うのじゃが』
「アウラ? ……っ!」
その名前を復唱したシンヤの頭に痛みが走る。聞き覚えのある名前のような気がするのに思い出すことが出来ない。この世界に来てからというもの既視感が多い、知らないはずの名前や物を馴染みがあるように感じるのだ。
『わしはお主のことをよく知っておるよ』
「なんなんだよお前、なんでおれのことを知っているんだよっ」
親しげに語り掛けるその声は、嘘をついているようには聞こえない。しかし、どう思い返してもその独特な喋り方の人物は、シンヤの記憶に無かった。
『今は話せぬのだ……わかってほしい』
「……それで、なんでおれをここに呼んだんだよ」
アウラと名乗る指輪は、神妙な声で囁く。納得できる説明は何もないのだが、いつまでもここにいても仕方がないと、シンヤは話を切り替え問いかけた。
『見ての通りわしは現状指輪じゃ。動くこともお主以外に言葉を届ける方法もない。じゃから、ここから連れ出してもらおうと思っての』
「そう言っておれを騙そうとしてるんじゃないのか?」
『それは無いのじゃっ! 少なくともお主を
まず自分にしか声が聞こえない時点でとても怪しい。実は悪魔かなにかで、シンヤを取り殺そうとしているのでは? などという考えも浮かんだのだが、アウラの悲痛な叫びがそれを押し流す。
自分自身もクロエ達に救われた身だ。いくら声しか聞こえなくとも、信じてあげたいと思うのは、やはり偽善なのだろうか? そう思いつつ、シンヤは姿さえ見えないアウラを、どう扱っていいのかわからなかった。
「どうするかは後で考えるよ。でも今はクロエ達のところに戻るけど、どう説明すればいいんだろ?」
『インテリジェンスアイテムとしてでも伝えてくれれば良い。下手気に正直に言っても、信じてもらえんどころか説明ができんから、不信感しか生まれんじゃろ』
「インテリ……なんだって?」
『インテリジェンスアイテムじゃ。ようは知性を持つ道具じゃな。希少じゃが実際に存在するぞ。一応今のわしもその部類に入るからの。レアじゃ、超レア、大事にするのじゃぞ』
「お前意外と厚かましいな……」
調子のいい指輪の少女が自信の説明を指示されるが、いつまでもこの小部屋にいても、クロエ達を心配させるだけだと、シンヤは来た道を戻る。
「シンヤ大丈夫だった? この先には何があったの?」
宝物庫の入り口ではすでに目的の物を手に入れたのか、リュートが大きな荷物を担いでいて、クロエはシンヤに気づくと、すぐに駆け寄って声をかけてくれた。
「大丈夫だよ。この指輪が隠してあっただけみたいだ。そっちは? 魔石は見つかった?」
「魔石はすぐ見つかったよ。それより綺麗な指輪ね。シンヤの聞こえた声と関係があるのかな?」
「ああ、どうもこの指輪にアウラって子が封印されてるらしいんだ。自分で言ってたよ」
クロエは質問に軽くリュートを指し示すと、シンヤの掌にのる指輪を摘まみ上げ、まじまじと見つめる。
興味津々なクロエの問いに、アウラとの約束をすぐに破ってシンヤはすぐに打ち明けた。
『それはないのじゃっ。お主裏切ったのっ?! この裏切り者~!』
「うるさいっ。別に悪さしないならクロエ達に話したっていいだろう? それにクロエは嘘を見抜けるんだからすぐバレるんだよっ」
脳内に響くアウラの叫び声に耳を抑えながら言い返すが、頭に直接響く声は収まらない。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
「この指輪の奴がおれの頭で叫ぶんだよ、うるさくて」
いきなり怒鳴りだしたシンヤを見て、驚いたように心配してくるクロエに慌てて言い訳をする。
『ひどいのじゃ、嘘つきなのじゃ』
「うーるーさいっ。最初に嘘を伝えようとしたのはお前だろっ。クロエには嘘ついたってバレるんだから、正直に話すのが正解なんだよっ」
「なんとなく、指輪が話した内容がわかるわね。女の子の声だって聞いてたから、アウラちゃんでいいんだよね。わたしの声は聞こえているの?」
傍からは壮絶な独り言にしか聞こえないシンヤの話で、内容を理解したクロエはアウラに話かけてみることにした。
『聞こえておるのじゃ。外界の事はシンヤを通して全てな。……あとアウラちゃんはやめるのじゃ小娘』
「聞こえてるってさ。あとちゃん付けはやめてほしいみたい」
小娘扱いしたことは伏せながらクロエに伝える。
「じゃあ、アウラ。貴方の声はシンヤ経由じゃないと聞こえないってことね。……興味深いわね。インテリジェンスアイテムは見たこともないし、シンヤだけってことは何か理由があるのかしら? それにどうしてこの城に置いてあったの? 宝物庫の隠し部屋なんて聞いたこともなかったし、それに……」
「クロエ……。話は後にしろ。今外を見てきたがもう日が暮れる。ここで野営の準備だ。ちょうどこの場所なら泊まるのに適しているだろうしな」
初めて見る意志ある指輪に興味の尽きないクロエだったが、いつの間にか外を見てきたというリュートに、話を止められてしまう。
城内とはいえ宝物庫の外はところどころ天井も崩れており、屍人が湧く可能性がある。その点ここなら地下で空気の通りもある、その上屋内で屍人も湧かない。クロエ達は安全と判断しここで一夜を明かすことに決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます