1章-2話 気づいたら草原だった
「……えっ?」
黒い影に飲み込まれたシンヤは、閉じていた目を開き、自分の身体をまさぐる。
「異常はない。刺された傷もなければ身体も動くし、服も家を出るときに着てたやつだけど、今のは、夢? ……って、スマホがないっ。っていうか財布も、鍵も、何もないじゃないかっ!?」
身体に異常がないことに安堵するが、家を出る際に持って出たはずの、財布や家の鍵など、手荷物が何一つ残っていない事に気づく。
「まじかよ、おれの全財産がっ」
給料日前ということもあり、財布の中にあるお金がすべてだったが、その財布や携帯電話どころか、着ている服以外の物を何一つもっていなかった。
周囲の景色を見て、先ほどの公園とは、また違う場所にいることに気が付く。
「今度は草原? 死んだってのが夢で、夢遊病で勝手に歩いてきたとか? いやいや、そんなわけないはず。てことは誘拐でもされたか?」
理解の出来ない現象に、シンヤは一つ一つ分かることを口に出して確認していく。
周囲を見てみると草原が広がっていて、かなり遠くに複数の家が確認できた。
「落ち着け。さっきのが夢だとしても今が夢とは限らないし……」
自分に言い聞かせ、家の見える方角へと足を向ける。電話さえあれば家に帰れる可能性もあるのだ。
そこまで遠くないだろうと高を括っていたが、実際には数キロ歩いてもまだ遠い。足首程の草が広がる緑の絨毯を踏みしめながら、見知らぬ土地を黙々と歩く。
空を見上げれば太陽は中天、真上に来ており時間的には昼頃なのだろう。
「おっかしいな、仕事が終わってから眠った記憶は無いんだけどなぁ」
睡眠どころかまともな休憩すらとっておらず、精神的にも肉体的にも疲れているはずなのだが、シンヤは不思議にも眠気も疲れも空腹すら感じていなかった。
そのまま歩き続けると村が蜃気楼で消えてしまった。ということもなく、無事に小さな村と思われる場所の入口にたどり着いた。
柵で囲われている村に人影はなく、柵自体も何かに襲われたのか、へしゃげていてその意味をなしていない。
「すみませーん。誰かいませんかー」
恐る恐る村の中に入り、声をかけながら歩くが返事はない。そのまま奥へと進み、見えてきたのは、まさしく廃墟と表現するのが正しい建物達。
およそ数十件ある民家のそのほとんどが、倒壊していて、まるで戦争でもあったかのような状態だった。その倒壊した建物には蔦が絡みついており、かなりの年月放置されていたことがわかる。
「おいおい、こんな小さな村でいったいなにがあったんだ」
村の中心付近の広場まで来てみるが、やはり人の気配はない。せめて役に立つものはないかと、比較的崩れていない民家に入ってみるのだが。
「どんな田舎だよ。テレビもなければ電化製品の一つもない、それどころか電気も通ってないよな。……外に電柱もないし」
屋内もかなりの月日放置されていたのか、荒れ放題になっていて、使えそうなものは何もない。
村の中を粗方調べ終えたが、他の家も似たような状態になっていて、めぼしいものは何も見つけることができなかった。
「なにもないって、どうすりゃいいんだよこの状況」
村の中央にある広場まで戻ってくると、シンヤはそこにあった井戸に、もたれかかると座りこんでしまう。
「だれだっ!」
途方にくれていると、いきなり横から威圧するような大きい声が、シンヤの耳に飛び込んできた。
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