播種性魔人
克全
第1話
「駄目だ、切りがない!」
「諦めるな!
できるだけ間引きするんだ!
ここで時間を稼いで、魔力の回復を待つんだ!」
勝人は見切りが早い。
その見切りで神々のギフトもないのに今日まで生き延びてきたのだから、普段ならそれを信じて撤退しただろう。
だが今回は駄目だ!
今撤退したら手の施しようがなくなる。
ようやく魔族や魔獣を叩ける体制が築けたのに、ここで引けばそれが崩壊してしまうだけでなく、民を養う耕作地まで放棄する事になってしまう。
俺だって馬鹿ではない。
勝人が勝てないと判断する理由も分かっている。
こんな敵は初めてだ。
斃したら身体が弾けて種を蒔くのだ。
自分と同じ魔人が育つ、魔人の種だ。
その性質だけを見れば、魔人というよりは魔樹と言うべきかもしれないが、見かけは魔人と同じ人型で、武器を手に襲い掛かってくる。
対抗して攻撃したら、破裂して周囲に種をまき散らし、あっという間に増殖して襲いかかってくる。
対して強くないのだが、一度分裂させてしまうと一体が百体に増殖する厄介な敵なのだ。
最初の迎撃に間違ってしまった。
最初の敵を焼き払っていれば、こんな数まで増殖させる事はなかった。
だが、魔族軍を皆殺しにすると意気込んでいた将兵の前に、一体で現れた敵に斬り付けない兵士などいなかった。
もう誰が最初にこの魔人に斬りかかったのかは分からない。
そいつがまだ生きているのかすらわからない。
百が万の敵になるまで瞬く間だった。
物の分かって将が勝人のように攻撃を止めさせようとしたが、一瞬の間で万に達した魔人に狼狽した兵士を止めることなどできなかった。
十万を超えるまで増殖したころに、一斉に斃そうと広域火炎魔法を使った魔法使いが現れ、ようやく魔人が火に弱い事が分かった。
ここで一切の物理攻撃を止め、火炎攻撃だけに切り替えることができれば、損害を限定して全滅させる事ができただろう。
だが、平静を失った将兵に、襲い掛かる魔人に反撃するなといっても、言う事を聞くはずがない。
火炎魔法で焼き払っても、それと同じだけの魔人が増殖してしまった。
「おい!
もう魔力が限界だろう?
とにかく引け!
先に引いた連中に松明を用意させている。
これ以上大地の力を奪わせる訳にはいかんぞ」
勝人はなんて冷静なんだ。
俺は魔力で焼き払う事だえっ考えていたけれど、松明で火をつければいいのか!
だが大地の力を奪うとはどう言う意味だ?
「ああ?
分からんのか?
地面を見ろ、地面を!
まるで砂漠のようになっちまってる。
あれじゃあ種を蒔いても作物は育たねえよ。
どちにしてもこの辺りは放棄するしかねえ。
ほんと酷い魔人を創り出しやがって、まるで癌細胞の播種性転移じゃねえか」
勝人の言っている意味は分からないけれど、この魔人のような癌があるのか?
「難しい事は分からないが、もう小麦が収穫できないのか?」
「ずっと駄目なのか、魔人を焼いて灰を荒れ地に撒いて何年か耕せば、元の豊かな大地に戻るのか、やってみなければわからん。
だがもうこの辺りは大軍を置くのは無理だ。
屯田ができなければ、女子供が餓える事になる。
だからさっさと逃げるぞ!」
「分かった!」
逃げると決めたのなら、魔力を温存する必要はないだろう。
できるだけ多くの魔人を焼き払ってやる。
「余計なことを考えるなよ!
光次の魔力の使いどころは考えてある。
一世一代の舞台を整えてやるから、今は大人しく逃げろ!」
播種性魔人 克全 @dokatu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます