どちらのウワサ実験
御剣ひかる
まるでタンポポの種のように飛んでいく
心霊スポットと幸運スポット、ネットに情報を流したらどちらが早く多く拡散するか。
友達の間でそんな話題になった。
春休み、宿題もユルいもので、暇を持て余して集まった友人と談笑するうちに自然な流れだった。
「そりゃ心霊スポットだよ。怪奇現象特集の方がパワースポットとかの特集より断然回数が多いし」
「どうかなぁ。心霊特集みたいなのはその場で見て終わり、みたいな感じでしょ。いいジンクスの方は地味だけどずっと長く語り継がれるっていうか、信じる人は多いと思う」
なるほど、どっちもうなずける。
「それじゃ、試してみたら?」
「どうやって?」
「ネットでウワサを一つずつ流して、どっちの方が反応が多いか見てみたらいいじゃない?」
「面白そう」
わたし達はどんなウワサを流すか考えた。
場所は特別感のないところ、無名な方がいい。内容は重すぎないように、二つのバランスがとれるように。
心霊スポットの方は、海水浴場になってる浜辺から少し離れた崖の上――人の立ち入りは禁止されているところで、薄気味悪い人影を見た、というもの。
幸運スポットの方は、小さな公園の桜の木に「いいことがありますように」と願うと、その日に小さないいことが起こる、というもの。
「いいことの内容はどうする?」
「少額のクジが当たったり、店で買い物したらおまけで粗品がもらえたりとかでいいんじゃない?」
「具体的な利益があるとそっちの方が有利じゃない?」
「でも心霊スポットは場所の有利があるよ。桜の木は地元の人じゃないとなかなかいかないけど、崖はそばを通り過ぎるだけなら交通量多いし」
あれこれ考えてる間、みんなノリノリだ。
確かに、こういう軽いノリは悪くない。
内容が固まったので、友人のうち二人がそれぞれSNSで同じ時間にこの話を流すことになった。
積極的に試したいとは思わないけど、結果には興味があった。
三月二十二日の午後九時、友人たちがそれぞれのウワサをSNSに流した。
最初に動きを見せたのは心霊スポットの方だ。
興味ありのボタンが押され、数人に発言が拡散された。
そこからまるでたんぽぽの種が風に乗ってあちこちに飛んでいくみたいにウワサは広まっていった。
一方の幸運スポットは、数人が拡散したがそれ以上の広まりはあまり見られない。
『やっぱり心霊スポットの方が広まったね』
『まだまだ。幸運スポットの強みはじわじわ感だし』
『そのうち実際に崖の人影を見たって人も出てくるよきっと』
そんなやり取りをグループメッセージでかわして、わたし達はこのイタズラのような実験を楽しんでいた。
そして彼女の予想通り、自分も人影を見たと言い出す人がちらほらと出てきた。
そうなるとさらに最初の発言が拡散されていく。
『さすがに広がりすぎでしょ』
『見たって人、本当に見たのかなぁ?』
『まさかぁ』
一週間後、思っても見ない反応があった。
『テレビ局から返信来た。詳しく聞かせてほしいって』
えっ、そこまでっ?
『どうしよう? 実は嘘でしたって言った方がいい?』
『でもそうしたらあんたのアカ炎上するよ』
『いっそ見たって言い切っちゃう?』
あれこれ解決策を考えて、結局友人はアカウントをそっと消すことにした。
『元々フォロワーもそんなに多くないし、親しい人には新しいアカウントでつながりなおすよ』
『なんかごめんね。ここまで拡散するとは思わなかった』
ネットの発言は慎重にしなければならないね。
わたし達は大いに反省した。
それから一か月後。
『宝くじ当たったー。桜の木の話、本当でした!』
すっかり忘れてた幸運スポットにそんなレスポンスが入ってから、小さな公園は小さな幸運を願う人でにぎわった。
わざわざ隣の市からくる人もいて、地元の商店街はちょっとお客さんが増えたらしい。
やっぱり、同じ流すならいい話の方がいいね。
あらためて実感した。
(了)
どちらのウワサ実験 御剣ひかる @miturugihikaru
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