拡散する種は大嫌い。

水谷一志

第1話 拡散する種は大嫌い。

「僕は、『拡散する種』は大嫌いだ…。」


ここは、とある村。この村の人間はみんな貧しく、ひもじい思いをして暮らしていた。

そして、その村には一人の少年がいた。

ちなみにその少年は4人兄弟で、父はいつも出稼ぎに行って家にはほとんどいない。

そのためその少年は、いつも内職などをする母を手伝っていた。


そしてその村に、とあるウワサが拡散する。

それは…。

『種』と呼ばれるものが、この村に入ってくるかもしれない、というウワサだ。

ちなみにこれは他の同じような村の話らしいが、その『種』を持った人間はその村から出て行き、別の所で暮らさなければならないらしい。

また、それはその本人だけでなく、家族も一緒に別の所に行くらしい。

何でも、その『種』を扱う「偉い人」は、

「これは、『種』を受け取った人を含め皆さんがより良い生活を送るための第一歩となる対策です。

 言うならば、いい生活を送るための《種》をまいているとも考えられるのです。

 ご理解願います。」

と別の村で言い、その家族を連れ去ったらしい。


「『種』か…。何か怖いな。」

少年はそのウワサ、『種』に対して、漠然と恐怖を抱いた。

「それに、僕はこの村が好きだ!確かに僕の家にはお金があんまりない。でも、父さんが帰ってきて、母さんや兄さんたちがそろってみんなでいる時のこの村が、僕は大好きなんだ!だから僕は連れ去られたくはない。」

それは…、この少年の切なる願い、希望であった。


そんな中、この村にも『種』がやってきた。

何と隣の隣の村の一家が、偉い人に連れて行かれたのだ。

そして…、その連れて行かれた家族は、

「みんなに悪いから。」

と言うことで、何も言わずその村を出て行った。


そして…、このタイミングで母に異変が起こる。

「ゴホッ、ゴホッ…。」

母が、咳をするようになったのだ。

「母さん、大丈夫?」

少年は心配するが…、母は

「大丈夫だよ。」

と繰り返す。

しかし、母は明らかに疲れている様子である。

「母さん、僕がついてるからね!

手伝いでも何でもするから!

ゆっくり休んでね!」

少年はその日から、今まで以上に手伝いなどを頑張った。朝はとにかく早く起き、母の分も含めたご飯を兄たちと共に作る。そして母のために氷を用意し、母の頭に置いて看病を行う。

…しかし父は、ここ数日帰ってこない。

「父さん、早く帰ってきてよ…。」

少年は母の前など顔には出さなかったが、一人の時に、弱気になって泣くこともあった。


そして、その時はやってきた。

「偉い人」たちが、少年の家にもやってきたのだ。

そして…、そこにはなぜか父の姿もある。

そう、「偉い人」は父と共にいたのだ。


そして、「偉い人」のうちの一人が、こう母親に話しかける。

「奥さん、大変でしたね…。

でも心配はいりません。少し【風邪をこじらせただけ】みたいです。

疲れがたまっていたのでしょう。」

そして他の「偉い人」が、母にこう話しかける。

「みなさんよく頑張られました!

私はこの【難民キャンプ】から出るプロジェクト、【幸せの『拡散する種』】のNGOの人間です。

あなたの旦那様が仕事を頑張られ、ある程度の資金がたまりましたので、こうして伺った次第です。

もちろんこちら側もある程度の資金援助はさせて頂きます。

明日から、ご家族の皆様はマイホームで暮らして頂くことができますよ!

…その前に、奥さんの通院ですが。」

「ありがとうございます!」

父親と母親が、その「偉い人」たちに頭を下げる。

最初少年は大人たちの言っていることが分からなかったが、その難民キャンプからマイホームへの移動の際、父親などに説明を受けてようやく今起こっていることが理解できた。

「【種】か…。最初は怖いものだと思ってたけど、いいものだったな!

この【種】が、世界中に拡散しますように!

僕たちみたいな【難民キャンプに暮らす人間】が、いなくなりますように!」

少年はそう思い、初めてのマイホームへと向かった。 (終)




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拡散する種は大嫌い。 水谷一志 @baker_km

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