花は夜歩く

クロロニー

花は夜歩く

 あー、次わたしの番? マジかー、わたしこういうの苦手なんだよね。怪談話って言っても普段そういうのあんまり触れてないし、どう話してもあんまり怖そうにならないっていうか。

 うん、だよねだよね。実際わたし幽霊とか怖いって思ったことないし。わたしが苦手なもの……? あ、でも、わたし植物って結構苦手。ほら、なんかじっと見てると気持ち悪くない? なんか不自然に綺麗っていうか、整いすぎてるっていうか。集合体恐怖症?ってやつなのかも。離れてぼやっと見てみると確かに綺麗かもしんないけど、近づいてジッと見てると結構グロテスクだよね? え、わからない? 今度ジッと見つめてみてよ! 一時間くらい! 絶対「うわっ、気持ちわるっ!」ってなるから! あと食虫植物とかもやってること気持ち悪すぎて無理無理。……だよね! なんかどんどん成長して食人植物とかになっちゃいそうで、うえぇってなるよね。なんか植物のくせにたまに動物っぽいところあるから植物ってほんと無理。いやいや、食虫植物だけじゃないって! 話してて思ったけど、わたしにとってのホラーってなると植物のことになるのかなぁ、やっぱり。あ、じゃあ怪談じゃなくて体験談みたいなものでもいい? 言ってみれば他愛のない体験なんだけど。

 実はうちのママ、結構花好きで。家の庭に花壇あるの。あ、うち一軒家だから庭があるの。今度遊びに来てよ! でね、あれは小学生の頃だっけ。あ、うん、そうだそうだ。アサガオの自由研究やってたんだった。花壇にアサガオと一本の花が植えてあったの。なんていう花かは知らないけど、わたしがトラウマになるくらい気持ち悪かったのは覚えてる。何が気持ち悪かったかって、そのいつ見ても萎びたように下向いてるお花もそうなんだけど、なんか今にも動きだしそうな雰囲気あったのがめっちゃ気持ちわるかったの。実際、毎日アサガオの絵を描くたびに「あれ、こいつ昨日と別の場所に咲いてね?」ってそんな違和感がずっとあったの。だから一度アサガオの絵を描くついでに位置関係を定規で測ってみたの。すると次の日やっぱり三センチズレてた。怖くなってパパに言ってみたんだけど、パパはわたしの測り方がおかしいみたいなこと言ってくるし、ママは「そういうものよ」としか言わないし、誰も信じようとしてくれなくて、すっごく腹が立ってもう泣きながら座り込み運動よ。でもそのうち飽きて今度は庭で夕食ボイコット運動。誰も気にしてくれなかったけどね。

 で、ここからが本題。誰にも信じてもらえなかったのが悔しくて、その変な花の正体を暴いてやろうって思って夜中ずっと花を見てたの。そしたら夕陽が完全に沈んだあたりからかな。下向きに咲いていた花の色素がどんどん茶色くなっていって、花弁が干からびたように皺くちゃになっていって、どんどん萎んでいって、そして花がポトリと土に落ちたの。それで茎もどんどんぐにゃぐにゃになっていって、茶色くなっていって、サラサラと風化していったの。しばらくすると花の落ちたところから花がなくなってて、その代わり一本の芽が生えてきたの。その一本の芽は夜の間にどんどん成長していって、そして朝日が昇る頃には昨日見た花と寸分も違わない花が一輪咲いていたわ。

 そう、その花は毎晩毎晩二足歩行するかのように一歩ずつ一歩ずつ移動していたの。きっと早送り再生をするとその気持ち悪さがわかると思うわ。花壇を踏破するかのように、一歩ずつ、一歩ずつ、足の代わりに茎を動かし、ね。

 その花、次の年は花壇一面に咲いていたわ。きっと花の中に大量の種があったのよ。花の遺伝子からクローンの花を咲かせていって、大量の種子を拡散させつつ土全体に根を張っていたの。そしてそうやって密かに拡散させた大量の種に栄養を与え、次の年に一面の花を咲かせたの。わたしが植物を気持ち悪いと思うようになった原体験ね、きっと。

 あ、ママって先祖代々魔女の家系らしいんだけど、たまに変な植物植えるの。んで、たまに食人植物とか植えるから出来るだけ花壇には触らないようにしてるってわけ。でも、おかげで大迷惑よ。パパもアサガオに水あげようとしたせいで死んじゃったし。もし花が好きなら今度庭に案内してあげる。見たことない花がきっと見れるよ。

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