四節 進むか留まるか
石油製品のダウンの赤いジャケットを羽織り、その下にプラスチックの鎧の様な黒いシャツと青いジーパンを纏った天使の少年、その解説を聞きながら僕は天の図書館を進む。
彼の後ろを歩く途中で、何か面白い物は無いかと覗いた本棚は、驚いた事に私の興味を引くものであった。
濃いブラウン系の木目に隆線の曲がりくねった曇りガラスの扉、開いた先には無数の目玉を動かす炎の柱と、白い陶器のカップを片手にコーヒーを嗜む女将さんがいた。
「案内人より統括者エノクに通達、巫女が最初の試練を開始、相手は客人神ではなく半妖の兄のようだ、さて我々も準備をしなければならないな。」
炎の柱が伸びる様な低いエコーのかかった声で話し、光源の元に近づき溶けるようにその場から消える。
「どうでしたかこの図書館は、管理人以外は素敵な場所でしょ。」
いじわるそうな笑みで彼女は笑う。
「機会があれば何度でも足を運びたい。」
私の嬉しそうな言葉に、天使の少年は最近の人にしては珍しいと少し嬉しそうにうなずく。
「やはり落ち着いて文字を読める環境を提供する場であるべきだよ、漫画や映画を追加する予定だったが無くても良いんじゃ……冗談だ、睨まなくてもちゃんと導入する。
それらが面白いのも素晴らしい物であることも知っているし、気に入ったから手を抜くつもりは無い、だが活字離れの激しい外の住人にも文字から想像する楽しみを知って欲しいと私は思うのだ、私は古い人間だからな、それで何の用かな?」
「私の代わりに案内を頼もうと思っていたの、貴方はそう言うの得意でしょ。」
その言葉に目の前の少年はため息をこぼす。
「僕を航海s……、案内掲示板扱いとは、絶妙に古いかそれでどこへの案内を頼もうというのだ、見た所そやつは外の世界の住人だろう、帰せとは言わぬのだな。」
「彼はこちら側の住人でも有るのだから、それに今なら本人に聞いてもらった方が良いわ。」
少年は私の方を向くと、その片目に魔法陣が浮かんでいた。
「本のページを開いてしまった様な気分だ、閉じていれば隔たれているのに開けば別世界、全くこれだから読書は面白い、良いだろう僕も続きが読みたくなった。」
電子的なSF的天使の輪を展開し、少年は再び私の目を見る。
「フムそうなるか、揺れ動いて、ならかつて私を挟めば、ページをめくるかは君しだい改めて聞こう、汝が目指す先はいずこや。」
周囲の風景が変わり始める。
星空へと変わり、砂丘が現れ、岩山の向こうに巨大ないくつかの火柱が輝く。
私は割れた海の底にいた、海水に視界を塞がれた、海が割れた、次の瞬間には僕は濃霧に包まれ、太鼓橋の真ん中に立っていた、このまま進めば帰れると、何故か私は分かってて、家族を、学校生活を、走馬灯の様に眺めていた、目の前には自分の首が入っていたのであろう首桶が転がっている。
僕はヒョウタンと盃を取り出す、かつての自分、その力の象徴とてヒョウタンと盃を出してみた、かつて酒呑童子は首だけになってもかの英雄の隠れ兜を奪ったのだと言う、略奪の栄誉は英雄だけの物では無いと示したその首なら、勝者からすらも神の神器を奪った大妖怪なら全てを持って行ってくれるだろう。
「これを置いていけば、もう悪夢を見ることも無い。」
そう確信を持って言えた、前世との縁を切れば悪夢を見る事は無い、ページを隔ててそれでおしまい、ここを目指した理由も無くなった、それに楽しかった、それでいいじゃないか、奇妙な体験をして思い出として薄れさせてしまえば良い、何を探しているかも分からないのにここに留まるのは正しい事なのだろうか?
私は……、僕はその首桶を手に取り振り返った。
オカルトをかじる者なら、神話をかじる者ならここで振り返る事の意味が分かるだろう。
駆ける、駆ける、その姿は異形へと変わりその空間を離脱した。
再び日は暮れる。僕は旅館の布団の中、窓から入る夕日で目を覚ました。
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