拡散する種

杜侍音

拡散する種


「後、何人くらいなんだろうな……」

「さぁ……分からねぇ。ただもうすぐ人類は滅びるってことだけは分かるよ」


 世界は二年前から、謎の寄生植物による攻撃で、人類が次々と乗っ取られてしまい、今では滅亡の危機に瀕していた。

 南米が原産のこの植物は人の脳に根を張らせ、別の人間に襲いかかることで傷口から種を入れ仲間を増やす。

 首ごと伐採されるか、炎で全身丸ごと燃やされるかしないと寄生された人間が止まることはない。現在、地球カーストで一番上に存在している。



「俺さ……女の子に逢いたいんだよね」

「は? 何言ってんだよ、俺もだ」

「だよなー。オッサンしかいねぇもんなー」

「まぁ、みんな隠れてるからなー」


 こんな世界にも関わらず呑気に話す男二人。


「なぁなぁ、どんな子がいい?」

「え? そうだな、俺は黒髪のロングで」

「うんうん」

「柔らかいムチムチなお姉さんがいいな〜」

「バカか、そんなやつ今いないだろ」

「えー、いるだろ」

「人類は二年間も逃げ隠れ続けてるんだぞ。ろくに飯も食えないからムチムチじゃなくてガリガリしかいないだろ」


 この寄生植物の厄介なところは、他の植物に自分の種を隠したり、動物にも寄生することが出来ること。つまり人の食べるものは既に加工されたものに限られるということだ。


「お前はどんな子がいいんだよ」

「俺は別に見た目とかじゃねぇよ? やっぱり中身だろ」

「今の時代、中身関係あるか?」

「バカか、中身は見た目に現れるんだよ」

「例えば?」


 一人の男はしばらく考えてから、絞り出すように声を出す。


「……声がいいとか?」

「中身かそれ?」

「いや知らんけど。けど、『キャ〜』の声が甲高いのが好きなんだよ」

「あー、そういやお前昔から特撮とか好きだったよな。確かに特撮でよく聞くもんなぁー」


 ただ今となっては特撮の新作を見られることはない。

 だが彼は信じている。事態が落ち着いたら、誰かが新作を作ってくれると。


 その時、お腹の音が鳴った。


「……腹減ったな」

「最近、食べれてないからな。食べれたとしてもお腹いっぱいになんて出来ないし」

「一口ちょっとかじることしか許されてないもんな。もっと活きのいいのが食べたいよなー」

「しょうがないだろ。今は共食いとかになっちゃうんだから」

「新たに食べられるような奴を見つけないとだよな」

「いや知ってるか? それが研究の結果により俺らでも食える食べ物が開発されたらしいよ」

「マジか!」


「うるせぇ! 黙って見張ってろ!」


 楽しく会話していた所に現れたのは、ガタイのいい男だった。肉体派でどんな攻撃だろうと怯むことなく進める頼れる人である。


「「せ、先輩!」」

「夢物語を語るのも良いけどよ、お前らがピーチクパーチク喋ってたせいで、侵入者がいたらしいぞ」

「「え!?」」

「ったくよ、とんだ失態だ。だが、味方の可能性もある。味方だったらチームに引き受ける。しかしもし敵であれば確実に仕留めるぞ。見逃したお前らの責任になるから、お前ら二人でやってみろ」

「出来るかなぁ……」

「ほら、つべこべ言わずに行ってこい」


 先輩に教えてもらい、侵入者がこれから通るとされる道まで先回りする。

 物陰から見ると、そこにいたのは黒髪ロングのムチムチの女性だった。


「ムチムチだ!」

「バカか! あれはどう見ても敵だぞ。俺らでやるんだ。幸いにも他に仲間はいなさそうだ」

「おう!」


 ムチムチ好きの男は興奮気味に向かった。


『アァーッ』

『アアァァァーッ!!!』


「キャ〜!!」


(お、俺好みの悲鳴だ)


 男二人は見事な挟み撃ちで、女一人に噛み付き寄生させて、そして仲間に引き入れることが出来た。





「──ちょっと、あの時あなた強めに噛んだでしょ」

「ご、ごめん……」


(中身はキツイ人だった……)


 ムチムチ女性を同じ仲間にすることは出来たが、後輩にあたるこの女性に二人は尻に敷かれることとなる。

 人類滅亡までもうすぐだ。

 きっと、もうすぐ共食いにならないよう寄生されない食べ物が開発され、たらふく食べられるようになるその日まで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拡散する種 杜侍音 @nekousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ