神樹は巡る

シュタ・カリーナ

第1話

 ぼくはひとりぼっちだった。

 辺境の地にてたった一人佇んでいた。

 数千年なんてものじゃない、数万年数千万年と生きてきた。


 ぼくは神樹。

 動くことはできない。

 周りには多くの植物たちや動物たちがいるけどぼくを神聖視して話しかけてくれない。


 そうだぼくの種を世界に飛ばせば色々な人と触れ合える。

 そう思ったら行動はすぐだった。

 一年で種を作って、種を風に乗って飛ばすだけ。


 ぼくは多くの種と意識を共有する。


 ◇◇◇


 神樹がどんどん遠ざかっていく。

 森を越え、山を越え川を越え海も越えた。

 気持ちい。世界はこんなに広かったんだ。


 ぼくは風が吹くままに飛ばされる。そして運良く人の住んでいる街の中の林に落ちる。


『初めまして! ぼくウラタっていいうの! 仲良くしてくれるかな!』


 ぼくは周りの木々や鳥たちに話しかける。


『おやおや、新しい子が来たね。初めまして、私はカラナだよ』

『おいおい新人か!? 俺はグルコだ!』


 みんなはぼくを神樹だと気づいていないのか優しく話しかけてくれる。ぼくが大きく成長するまで数百年。いつかぼくが神樹だとばれて仲良くしてくれなくなるかもしれない。だからぼくが神樹だと隠さなければ。


 数ヶ月して芽が出た。

 あれから皆んなと楽しいお話をした。あの人間は怖そうに見えて優しいだの、あそこの家の料理は良い匂いがするから絶対に美味しいだの、あのおじさんはいつも餌をくれるだの林に棲まう木々や鳥たちが雑談をしていた。

 ぼくは楽しかった。こんな日常を求めていた。


 数年が経った。


『ウラタは成長が遅いね』

『普通の木とは違うかもしれんな!』

『そんなことないよぉ』


 ぼくはなんとしても神樹だと隠さなければいけない。


 それから数十年が経ち、ようやく一メートルほどまで成長した。

 木の幹もしっかりでき始め神樹だとよく疑われるようになった。


『やっぱしお前神樹なんじゃねーのか?』

『ち、違うよっ。ぼくが神樹だなんてっ……』


 百数十年がたった。


『やっぱりお前神樹だったんだな』

『……』


 ついに神樹だとばれてしまった。

 他の種に意識を戻そうかな。


『なんでこんなところに神樹が?』

『ごめんなさい。いろんな人と友達になりたくて……今まで騙しててごめんなさい』

『……友達が欲しかったのか。それならそうと言ってくれればよかったのに』

『……え?』

『俺たちはずっと友達だろっ。神樹だろうかなんだろうが関係ない。同じ木なら友達だっ』

『そうだよ私たちはずっと友達だよ』


 ぼくは感動する。

 そんなことを言ってくれて嬉しい。

 もっと皆んなと遊んでいよう。


 この街に落ちてから数百年が経ち、樹高も他の木を追い越し神樹だと人間たちにもバレるようになった。すると人間たちはぼくがいる林に足繁く通うようになり憩いの場となった。

 ぼくも人間と会話ができるようになり楽しい時を過ごす。


 ◇◇◇(他の種の場合)


 風に乗って山を越えてとある森の中に落ちた。

 その森には多くの植物と動物、獣人とエルフたちが共存しており楽しそうな場所だった。


『は、初めまして! ぼくアラタっていうの! よろしくね!』

『ん? 新しい子かい? そうかいそうかい歓迎するよ坊や』


 優しい老齢の木だった。年は六千年だという。

 とてもとても大きかった。

 しかも獣人たちやエルフたちも森を大事にしていて楽しかった。

 動物たちもぼくに構ってくれるようになり楽しい日々を過ごした。


 数十年がたった。

 成長の遅いぼくを怪しむようになった。心配した動物たちやエルフたちが色々していた。


『もしかして、坊やは神樹の子かい?』

『……』


 おばあさんにばれてしまった。


『そうかそうか、数十年前の噂は本当だったのか』

『噂?』

『ああ風たちが『神樹様が種をとばした』って騒いでたからね。そうかそうかあえて嬉しいよ』

『今まで騙しててごめんなさい』

『いいよいいよ。他の子たちにはばれたくないんだろう? 私も黙っておくよ』

『ありがとう、おばあさん』


 おばあさんはとても優しい。


 それから数百年がたったある日、おばあさんが燃えた。

 人間たちが資源を求めてこの森を襲ってきた。

 そして真っ先におばあさんが狙われて火矢で打たれた。


 燃える燃える、森が真っ赤に燃える。

 動物たちが逃げ出し、獣人が逃げ出し、エルフが逃げ出し、一部は人間と戦い、殺されたり捕まった。


 許さない、ぼくの家族を……


 ぼくは神樹だ。

 何もできないわけじゃない。ぼくが家族を守るんだっ。


 ぼくは成長途中だったが無理やり成長して枝を伸ばして人間たちを襲う。

 枝で混乱させつたで人間を縛り殺す。


 ぼくは神樹としての力を引き出す。

 ばれたって構わない、彼らはぼくの家族なんだ。


 そして人間たちを全滅させた。

 殺されたものたちはぼくが生き返らせた。

 燃えていた森も治した。だけど、すでにボロボロだったおばあさんはどうすることもできなかった。


『坊や、他の子たちを任せます』

『おばあさん……だめ、ぼくが治すから……まだ死んじゃダメ』

『いいのよもう十分に生きたから。普通の木はね千年も生きればいい方なの。みんなもこの子を一人にさせないであげてね』


 おばあさんはそう言って亡くなった。

 森が、動物が、獣人が、エルフが悲しむ。


 おばあさんがこの森を守っていたように今度はぼくがこの森を守らなきゃ。

 みんなぼくの家族なんだから。


 ◇◇◇


 神樹は笑った、泣いた、怒った、悲しんだ。

 初めての喜怒哀楽。外の世界は楽しいかった。いい人もいれば悪い人もいる。


 ぼくはまた種をとばして世界を知る。


『初めまして! ぼくは――』

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