駄菓子で作ったカツカレー
Giya
第1話
夢を見ました。
甘く、切なく、ほろ苦い思い出。
青春と呼ぶには、あまりに幼すぎる日。
あの頃の僕らは、お使いのお駄賃で貰った小銭で、駄菓子屋に行くのが唯一の娯楽でした。
駄菓子屋のおばちゃんは、頑固でうるさいけど、とても優しかった気がします。
ある日、駄菓子の、平たく伸ばしたカツが、とても食べたくなりました。
でも、手元にある小銭では、買えません。
中身は豚肉だと思い込んで、どうしても食べたくて……
おばちゃんの目を盗んで、持って帰ってきました。
ドキドキしながら開けて食べた味。
紛れもなくソース味。
紛れもなくフライ。
でも、豚肉じゃない。
だいぶがっかりして、それきり忘れていました。
小学校の調理実習の準備で、突然そのことを思い出しました。
思い付くままにノートに落書きしたのが、
「駄菓子で作ったカツカレー」
平たく伸ばしたカツと、平たく伸ばしたせんべいのようなごはんもの、それにカレー味スナック。
それらを何段も重ねて、カツカレーにしてみる。
そんな落書きでした。
書いたら、下らなく思えて、その落書きは教室のゴミ箱に捨てた、と思います。
その頃、ほんの少しだけ片思いをしていた子が、転校していきました。
それからだいぶ経ったある日。
その頃を青春と呼ぶ、あの夏の日。
突然彼女と再会しました。
随分と綺麗になっていました。
眩しかったです。
たまたま逢った彼女と、お互いたまたま時間があったので、立ち話をしました。
彼女は、父親の仕事の関係で、いろんな街を廻ったそうでした。
僕は相変わらずでした。
それじゃ、とそれきりのつもりでしたが、追いかけるように彼女が言いました。
「今度また、ね。この街に帰ってきたから。」
次に彼女に会ったのは、とある夏季講習でのことでした。
僕は本当はそんなのに行きたくなかったけど、たまたま気が向いて行ってみたら、彼女が居ました。
こちらに気が付いた彼女は、にっこり微笑んで、手を振ってくれました。
帰り道、彼女が言いました。
「ね、覚えている?駄菓子で作るカツカレー。今から作ってみようか?」
僕は、突然のことに、何が何だかさっぱりわかりませんでした。
買い物に付き合っているうちに、ようやく、あの駄菓子屋さんのこと、それに落書きのことを思い出しました。
でも、なんで彼女がそれを知っているのか?
もしかしたら、捨てたはずの落書きは、彼女が持っていた、のかもしれません。
以前は憧れであった、平たく伸ばしたカツや伸したごはん、それにカレー味スナック。
彼女の手には、それらの束がありました。
「あの頃想像していた味とは、ちょっと違うかもしれないけど、何度か試してみたから」
彼女は手際よくそれらを切り分け、鍋に入れ、水を足し、火にかけました。
調味料を少々と、彼女が思い詰めたように見つめる鍋に、他の何かがこぼれ落ちた気がしました。
出来上がったそれは、見た目は何だかわからないもの。
でも、食べたら、あの頃想像した通りの味になってました。
きっと、元の駄菓子だけでは、あんな味にはならなかったでしょう。
「おいしかった?それとも、がっかりした?」
「思った通りの味だった。おいしかった」
「そう?よかった」
彼女は、にっこりと微笑んでくれました。
その後のことは、よく覚えていません。
ただ、何か事故があったこと、それに巻き込まれて彼女が救急車で運ばれたこと。
それだけは覚えてます。
とても哀しかったから。寂しかったから。切なかったから。
そんな、思い出があるんです。
だから、僕はこのカツカレーが食べられません。
泥棒をして、騒ぎになって、女の子を殺してしまって、逃げ出した僕には。
きっと食べちゃいけないんです。
僕には食べる資格が無いんです。
僕のせいなんです…………
………………
駄菓子で作ったカツカレー Giya @Giya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。駄菓子で作ったカツカレーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます