世界の終わりと果実の種

響華

世界の終わりと果実の種

 これから世界が終わるって状況で、それが自分ではどうしようもない理由ならば、結構楽観的というか……自分には関係していない事のように受け入れられるようで。


「いやぁ、近くで見ると結構綺麗じゃない?」

「……まじで? 俺は悪趣味なデザインの爆弾にしか見えない」

「それはそれで独特な感性の気がするけど」


 隣にいる彼女の言葉に対し、俺は目の前のそれを眺めながら受け答えする。ぽんぽんと叩かれる背中、彼女の方を向かずに答えたのが少し気に入らなかったようだけど、あれを目の前にしてすぐに他の物に目を向けられる方がおかしいと思う。


 巨大な亀のような物に、同じくとても大きな、なんというか……果実のような真っ赤な物が置いてある。というか、実際あれは人為的に作り出された果実であるらしい、大人の人がそう話していたのを偶然目撃していたからだ。

 以前までは銃を持った人が周りを囲んでいたのだが、今日になって突然いなくなった。もうこれを警備する必要はないということだろう。


 その亀の周囲に集まる人は、明らかに近くの街に住んでいる人の総数より多い。そのうちの何人か……恐らく外から来た人は傘をさしていた。


「ねぇ、きっと傘をさしてると安全だと思うの」

「俺もそう思う、少し移動しよっか」


 そんな会話を挟みつつ、俺と彼女は傘をさしている男の後ろに移動する。露骨に嫌そうな顔を向けられたが、わざわざ口に出して言うほどのことでは無いと思ったのだろう、特に何も言わずに男は前を向き直す。


「ねぇ、知ってる?」

「なにを?」

「おじさんが教えてくれたんだ、あれはね……私たちの見てるこの世界を、終わらせるためのものらしいの」


 わざと溜めて驚かせるように、喋り方に彼女の性格が出てる気がして、思わずクスリと来てしまった。なんで笑うのーと頬をふくらませる彼女を宥めながら、俺は頭の隅で考える。

 世界を終わらせるもの、ならたしかに警備されててもおかしくは無い。こんな所に用意してあったのも、他の国から見つからないようにするためだろうか。


「ねっ、世界が終わったら何がしたい?」

「こういうのって、世界が終わるなら何がしたいって聞くもんじゃないの?」

「だって、もうすぐ終わるでしょ? 生まれ変わって、前世の記憶が戻ってきた時にはもう世界は木々に覆われていたとかだったら、何がしたい?」


 そんなふうに聞かれると、思わず考え込んでしまう。


「……それってさ」

「うん」

「目覚めたら、俺一人しかいないってこと?」


 俺がそう聞くと、彼女はふふっと笑いながら得意げに、


「じゃ、私が一緒にいてあげる」


 なんて言った。

 足元の砂を軽く蹴る、辺り一面砂の大地では、蹴っ飛ばした砂がどこにいったかなんてわからない。


「……なら、それだけで充分かな」


 世界が終わるなら、そんなセリフもどこかに消えるかな。なんて考えで照れを隠していると、彼女はなら大丈夫かな、なんて静かに笑った。


 パァン。

 そんな破裂音、さっきまであった実が弾け飛んだ音だ。世界が終わる、どんなふうに?

 そんな思考を巡らせていると、空から何かが降り注いできた。それは傘に弾かれて、俺達に当たらずに地面に落ちる。

 ――種だ。




 後から聞いた話では、広がる砂漠を緑化する計画が世界でされていたとかなんとか。そのために作り出されたのが、あの急速に育つ植物の種をばらまく装置だったらしい。

 そんな感じで、俺の見ていた世界は一瞬のうちに終わってしまった。彼女は……というか、一部の人はこのことを知っていたらしい。将来的に子孫が増える選択をしたんだとか。


 世界の終わりが確定してて、自分ではどうしようもない理由ならば、結構楽観的に物事を受け入れられるものだ。だから、今俺にとって問題なのはひとつ。

 彼女の問いかけが、事実上の告白なんじゃないかってことだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界の終わりと果実の種 響華 @kyoka_norun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ