春、桜の下で。

青菜あお。

ここだけの話。

 雪が積もらないまま、冬が明けた。早咲きの桜がまだ3月の上旬にも関わらず、枝にティッシュをやんわりと包み込んだような花を咲かせ、雪の代わりと言わんばかりに我が物顔で桜吹雪を吹雪かせている。


 その道を歩く。隣で買い物袋を腕にぶら下げて、まるで子供のように燥ぐ馬鹿一名。「絶対映える!」だの「桜捕まえた!」だの、本当に同学年なのか疑わしい。辞めていだだきたい。こちらを幼稚園児が不思議そうに見ているぞ。結衣。

「早く帰るよ。」と結衣のトレンチコートを掴んで、引き摺りながら帰った。


 結衣とは大学の学部が同じだった。学部が同じだと、一緒にいる時間が長くなる。正直、結衣は周りから浮くくらいに明るい。一つ一つ声は大きいし、さっきみたいに何時も子供じみたままで、背は低い癖に動きも活発で。…煩い。


 それでも私は、結衣と一緒にいる時間が楽なんだと気付いた。一緒に昼食を取ると、ずっと喋ってる。私が無言でも何かと喋ってる。そんな結衣の話を聞くのが好きで、一緒にいるのが好きで。たまたま、同じ最寄りに住んでいたのもあって。仲がいいからって同居してみて。私は、「愛してる」とか、「大切な人とか」口に出して、面と向かって、言ったことは無いけれど。暗黙の了解で付き合っている。私もその関係に居心地が良くて、彼此、高3以来、彼氏など作っていない。勿論作る気はない。


 一方、結衣からの、らぶこーる。は途轍も無く多い。

 今日の朝も、結衣の重みで起こされた。何かと思えば、結衣が全体重をかけて、私に覆い被さって、「おはよ、マイダーリン。」などとほざいていた。勢い良く起き上がった私に、結衣はベッドから転落。こんな事が日常茶飯事で。歯を磨いていれば後ろから抱きつかれ、気付けば平気で私のコップに入っていたコーヒーが飲み干されている。


 それでも、そんな日常があるからこそ、相思相愛の証なのかも知れないと、納得している。


 私は、世に言うエリートキャリアウーマンをいる。同僚から「舞子が廊下を歩いてるだけで、喜ぶ人間が沢山いるんだよ」と褒め言葉を頂いた。「足細いし、スタイル良いし、美人だし。良いなぁ。羨ましいなぁ、舞子。」と。何が羨ましいのか。何もわかってない癖に。


 小中と男子よりも背が高く、ノッポだの、巨人だの、言われ続け。挙げ句の果て、中学の卒業式に誰の母親か分からない、知らない人に「貴女本当に女の子?」と面と向かって言われた。理由は顔にある。生まれつきくっきりとした二重に、キッと上がった目尻。睫毛は平均より長い。鼻も、不自然に高い。部活の都合上、髪の毛を短く切っていたせいか、後輩からは、「女の先輩とつるんでる男子」と言われた。ダブルでも、整形顔でもないのに。高校では、髪を伸ばせば、一目置かれ。友達ができるわけもなく、誰かと話せば、褒められるばかりで。影では悪い噂が一切合切、一人歩きして。女の子らしい全てに事柄に興味が持てなくなった。


___私は自分の顔が嫌いだ。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春、桜の下で。 青菜あお。 @aona_anoa4090

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ