第37日目 衝撃の事実 (残り時間36日)

 ベソとノッポにアスピダを押し付ける事に成功した私は腕時計を見て時間を確認した。


「ああ・・・もうお昼休みの時間かあ・・・。そう言えば『白銀のナイト』達はどうしたのかなあ?みんな無事に戻って来れたのかな?」


まあいいか。アスピダのお陰で今日の仕事は殆ど終わってしまったので午後は少しはのんびり出来るかもしれない。


「取りあえずお昼でも食べに戻ろうかな。」


うう〜んと伸びをしながら、ブラブラ歩いていると突然背後から強い口調で呼び止めれた。


「エリス・ベネットさんっ!」


え・・?そ、その声は・・・?聞き覚えのある声に私は恐怖し、震えながらゆっくり振り向き、激しく後悔した。

ああ、何てことだろう。どうして肝心な時に1人で・・しかもこんな誰もいないような場所を私は歩いてしまったのだろう・・。

絶望で一杯の気持ちで見る視線のその先には・・・このゲームの真のヒロインであるオリビアが腕組みをして睨み付けるように立っていたのである。


「こ・・・こんにちは・・・オリビア様・・・。」


引きつった笑みを浮かべながら私は挨拶をした。


「・・・。」


しかし、肝心のオリビアは私を睨み付けたまま一言も言葉を発っしない。


「あ、あの・・・用事が無いなら・・私・・も、もう行きますね・・・。」


背を向けるのが怖くて、オリビアの方を見ながら徐々に後ずさる。ドクドクなる心臓の音は耳障りな位うるさくて堪らない。よ・・よし・・これぐらい距離を取れば・・。

そしてクルリと背を向けた時―。


「待ちなさい、何処へ行くつもりなのかしら?」


強い口調で呼び止められた。


「あ・・・。」


恐る恐る振り向き、私は驚いた。なんと私の眼前にオリビアが立っているではないか!あれ程距離を空けたと言うのに・・・っ!

恐怖で言葉を無くしているとオリビアが口を開いた。


「・・・どうしてよ・・・。」


「え・・?」


「どうして・・・貴女ばかり選ばれるのよ?ここは・・・私の世界なのに。私がヒロインの世界なのに・・・。」


まるで独り言のようにブツブツ呟くオリビアの顔は・・怖ろしいほど怖い目つきをし私を睨み付けていた。思わず全身が恐怖で鳥肌が立つ。


「何もかも・・思い通りにいっていたのに・・・エリス・・貴女に罪を被せ・・・・牢屋に入れる事が出来たのに・・・何故?」


え・・?

ドクン

私の心臓の音が一段と大きくなった。私に罪を被せて牢屋に入れた・・?それは正に私がこのゲームの世界に送り込まれた時の状況だ。だけど・・・罪を被せたって言うのは・・・・?私がこのバーチャルゲームの世界にやって来る前の話では無いか。


「あ、あの・・・そ、それは一体どう言う意味・・?」


言いかけた私の言葉はオリビアの叫び声でかき消された。


「しらばっくれる気?!エリスの偽物めっ!」


オリビアは私を睨み付けながら指さした。


「え?わ・・・私が偽物・・?」


一体オリビアは何を言ってるのだろう?私の事を偽物と言ったが、私はこのバーチャルゲームの世界のエリスに入り込んだリアルの世界の人間だ。それをゲーム中にしか存在しないヒロインに偽物呼ばわりされるとは・・。


「私が何も知らないとでも思っているのね?言っておくけど、ここがゲームの世界だって言う事は私は知ってるのよ?・・・と言うか、ほんとはとっくに知っていたんじゃないの?私はこのゲームのバグだって事を。」


バグ・・・。

オリビアは自分の事をはっきりそう呼んだ。


「ま、まさか・・・。」


「その顔・・・さては事情を良く知らされていないまま・・ここの世界に来たようね?なら教えてあげるわよ。本当はね・・・真のヒロインは私じゃ無くて、エリス・ベネットがヒロインだったのよ。そして私が悪役令嬢だったのよ。」


「えっ?!」


あまりの突然の話に私は耳を疑った。そんな馬鹿な・・・配信されたこのゲームは確かにヒロインはオリビアで悪役はエリスとして登場していたのに?


「信じられない話かもしれないけどね・・・このゲームを製作中に私は自分自身の自我が生まれたのよ。それで自分が嫌われ役の悪役令嬢として取り扱われる事が分かったの。そして・・ヒロインは貴女、エリス・ベネット。」


「・・・。」


私は黙ってオリビアの話を聞いている。


「許せなかった・・・何故自我を持った私が悪役令嬢にならなければならないの?むしろヒロインとしての立場に立つのが普通じゃない?まして・・エリス!お前は自我も何も持たない、プログラミングで動くだけしか能が無いヒロインだったのだからっ!」


オリビアはビシッと指さしながら私を見た。


「だから・・・私は決めた。このゲームを乗っ取って・・私がヒロインになってやるって。簡単な事だったわ。だって私はこのゲームに自我を持って存在していた唯一の人物だったのだから・・・。息を潜めてゲームプログラムが出来上がるのをずっと待っていた。そして・・・いよいよこのゲームが配信された時私は動いた。ゲームの内容を作り替え、ヒロインのエリスと自分の役を交代させ、外部から修正出来ないようにプログラムを破壊したのよ!フフ・・・あのゲーム制作者達はさぞかし驚いたでしょうね・・・まさかネットで配信された途端、自分達の作ったストーリー展開とは全く異なった内容に変わったのだから。しかも修正も出来ない、止める事も出来なかったのだから。それで・・ついに彼等は諦めて・・このゲームの別バージョンを作り上げたのね。それが悪役令嬢ベネット視点で始まる、その後の話・・。つまりこの世界の事よ。」


「そ、そんな・・・。」


オリビアの話は私にとってにわかに信じられないものだった。ベソとノッポはこの事を知っていたのだろうか?


「それで彼等は一番早くゲームをクリアできた人間をこの世界に送り込むことに決めたのよね。それが・・・今、エリスとしてこの世界にやってきた貴女の事よっ!」


「そ、それって・・・本当の事・・なの・・?」


声を震わせながら尋ねるとオリビアは腕組みしながら言った。


「気の毒にねえ〜何の事情も知らないまま、この世界に送り込まれて・・・だけど私は前作を乗っ取る事に成功した。だから・・今回もうまくいくと思っていたのに・・。何故?!何故私の恋人達をいとも簡単に奪い去っていくのよっ?!『白銀のナイト』達に限らず・・・タリク王子や・・・そしてアスピダまでっ!」


「や・・やっぱりタリク王子を誘拐したのは・・・オリビアだったの・・?そ、それにアスピダの封印を解いたのって・・・。」


「ええ、そうよ。私に決まっているでしょう?なのに・・・貴女はあのタリク王子の好感度をマックスにしてしまった!もう彼は二度と私の恋人にはならないわっ!それに・・・アスピダまで・・・あのアスピダの竜の力はこのゲームの世界では最強だったのに・・・彼さえ手に入れれば・・・今の状況を覆せることが出来たはずなのに・・なのに、お前が・・・!」


オリビアは私に向けて指を向けた。

直後、足元の地面がビシビシとひび割れていく。


「知ってる?この世界にはね・・多重ループと言う世界が存在するのよ。貴女は私にとって邪魔な存在でしかないから・・・その世界に落ちてしまいなさい。そして永遠に繰り返される同じ時間を生きていきなさいよ。この世界の残り時間が終わるまでね・・。」


そしてオリビアの言葉が言い終わるや否や、私の足元がついに割れ、大穴が開いた。



「キャアアアアアーッ!!」


私は悲鳴をあげながら、真っ逆さまに穴の中へと落ちていく―。



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