多重ループ空間 第?日目 ①
ジリジリジリ・・・・!!
う〜ん・・・目覚ましが鳴っている・・・起きなくちゃ・・・。
寝ぼけ眼を擦りながら目覚ましをバチンと止めて時間を見る。朝の5時かあ・・・。
エタニティス学園の使用人の朝は早い。少ない人数で仕事をまわしていかなけければならないから大変だ。私はここに配属されてまだ日が浅い。新人は特に仕事を多く振られてしまうから、他の使用人達よりも早起きをしなくてはならない。
真っ黒のワンピースに白いエプロンを身に着け、長い髪をポニーテールに結ぶと私は部屋を出た。隣の部屋に住む同じく使用人のアンは私よりも1年早くここで働いている。そして全員知っているところだが、厨房で働くガルシアとは恋人同士なのだった。
「アンったら・・・まだ寝てるのかな?」
アンの部屋の前に立ち、試しにドアをノックしてみる。
ドンドンドンドン・・・・
叩き続けても一向に起きてくる気配は無い。かくなる上は・・・。試しにドアノブを掴むと、やはりガチャリと回せた。
このアンと言う女性はどうも注意が欠落しているようで、いつも部屋の戸締りをしないで寝ている。部屋の中はだらしなく散らかっているし、酷い場合は制服も紛失した事があるのだ。
「アン〜入るわよ・・・。」
部屋のドアを開けて、遠慮なしにずかずかとはいりバッと布団をはぐと、そこには枕を抱えて幸せそうに眠るアンの姿が。
「ちょっと!アンッ!いい加減に起きてっ!朝の仕事が遅れちゃうっ!」
ユサユサ揺すぶると、ようやくアンは目を覚ました。
「ああ・・・おはよう、エリス。」
アンは目を擦りながらようやく起きた。
「やっと起きたね、アン。それじゃ私は先に厨房へ行って朝の手伝いをしてくるからアンも急いでね。」
「はいはい、分かりましたよ〜。」
ベッドの上にいるアンを残すと急いで別棟にある厨房へと向かった。
「おはようござます、ガルシアさん。」
厨房のドアを開けると、挨拶をした。
「おう、お早う、エリス。なんだ・・・またアンは一緒じゃ無いのか?」
ガルシアは大鍋のスープをお玉でかき混ぜながら尋ねて来た。
「はい、でもここへ来る時に声を掛けて来たのでじきに来ると思いますよ?それで今朝は何をすればいいですか?」
「ああ、それじゃそこのピーマンを洗って輪切りにして種を取ってくれるか?それが済んだら今度は玉ねぎの皮をむいてくれ。」
「はい、分かりました。」
その後黙々と作業を続け、ピーマンの処理が終わる頃にやっとアンがやって来た。
「こら!遅いぞ、アンッ!」
ガルシアがコツンとアンの頭をこずく。
「ごめんね〜エリス。二度寝しちゃったよ~。」
舌を出しながらアンがやってきた。
「全く・・いつもの事だし・・。それじゃすぐに玉ねぎの皮むきしてくれる?」
「了解ッ!」
その後2人で黙々と玉ねぎの皮むきを終えると、2人でリネン室へと向かう。
「ほんと、毎日毎日馬車馬の如く働かされて嫌になるよね〜。もっと使用人を増やしてくれるいいのにさ。」
「うん、そうだね・・・。」
2人で大量の洗濯物を持って、洗濯場へ持って行き、汚れ物を放り込む。でも洗濯物は楽出来るから嬉しい。この魔法の洗濯機?が無ければ私達の仕事は5倍増しになっていただろう。
「よし!今の内に朝ご飯食べに行こうか?」
アンに誘われ、私達は一緒に職員食堂へと向かった―。
今朝のメニューはテーブルパンにハムエッグ、サラダにオニオンスープだった。
食堂へ行くと既に私とアン以外の全使用人が食事をしていた。
「何だ?お前達・・・・まだ仕事していたのか?要領が悪いなあ・・・。」
私はどうもリーダーのトビーに嫌われているようだ。露骨に私の方を睨み付ける様に言われると、気分は良くない。
「はい、すみませんでした。」
一応、口先だけで謝ると近くに座っていたダンやニコル、それにジョージまでこちらを睨み付けている。
う〜ん・・・それにしても私は何故ここまで男性使用人達から毛嫌いされているのだろうか・・?解せぬ。やはり元、伯爵令嬢だからなのだろうか・・?
一方の女性従業員達はアンを除き、何故か皆から存在を無視されたような扱いを受けている。でも嫌みを言われたり、睨まれたりするよりはずっとマシかなあ・・?
兎に角、私にとってこの場所は居心地が悪い事に変わりはない。
「ご馳走さまでした。」
ガタンと席を立つとアンが声を掛けてきた。
「え?エリス。もういいの?」
「うん、今から学食に行って食器洗いしてくるよ。」
そして食べ終わった食器を持ってシンクで手早く洗うと足早に学生食堂へ向かった。何せ・・・早く行かなければ彼等に遭遇してしまうかもしれないからだ。
廊下を足早に歩き、学生食堂へ向かっていると・・・運が悪い事にオリビアと『白銀のナイト』達の集団に会ってしまった。
ああ・・・最悪だ。心の中で溜息をつくとサッと廊下の隅によって頭を下げた。
そんな私の姿に気付いたのか彼等が言葉を投げつけて来る。
「何だ。お前かベネット。全く・・朝っぱらからお前に遭遇するとは運が悪い。」
ジロリと言うのは魔法が得意なエリオット。
「相変わらず、チビな女だ。」
アベルは憎々し気に言って来るし、エディに関しては私の存在など完全無視だ。
「ベネット、目障りだから余りこの辺をうろつかないようにな。」
アンディはオリビアの肩を抱きながら言うし、フレッドに至っては剣を握りしめながら私を威嚇するかの如く睨み付けてくる。
「早く食器洗いにった方がいいよ。大分たまってるからね。」
白銀のナイト達の中では一番まともなのはアドニスなのかもしれない。私はアドニスの言葉にペコリと頭を下げた。
ジェフリーは私を一瞥しただけである。
彼等が通り過ぎるのを頭を下げたままじっと待つ。
そして彼等が通り過ぎたので背を向けて歩き出した時・・・・。
「エリスさん。」
突如としてオリビアが声を掛けてきた。
「はい?何でしょう?」
するとオリビアは意味深に言った。
「どう?この世界は・・・気に入った?」
「え・・?この世界・・・?」
一体彼女は何を言ってるのだろう?
「この世界はね・・・私にとってはまさしく理想の世界なの。やはりこれが本来あるべき姿なのよ。貴女は一生この閉ざされて世界で生きていくのよ。どう?」
オリビアは手を広げながら恍惚とした表情を浮かべている。
「え・・・?」
オリビア・・・『白銀のナイト』達を統べるこの学園の聖女・・・。そして絶対的な権力の持ち主・・・
一方の私は・・・私は元・・・伯爵令嬢のエリス・ベネット・・・でも今はオリビアに酷い嫌がらせをした罪で『白銀のナイト』達によって裁かれ・・今はこの学園の使用人として働いて・・。
あれ・・?でも私はオリビアに一体どんな嫌がらせをしてきたんだろう・・・?
どうも頭がぼんやりして考えがうまくまとまらない。思わず頭を抱えると、オリビアがフッと笑った。
「あら、御免なさいね。エリスさん。忙しいのに引き留めてしまって、早く仕事に向ったら?」
「あ、はい。そうですね。行ってきます。」
頭を下げると私は足早にその場を去った。
「ふう〜・・・。今日も1日良く働いたなあ・・・。」
自室に帰り、自分の両肩をトントンと叩きながら私は溜息をついた。
「さて、シャワーでも浴びて来ようかな?」
私の持っている私物は少ない。取りあえずシャワーを浴びる前にこの腕時計を外さなくちゃ・・・。
そこで私は我に返った。
「あれ・・?何だっけ・・・これ・・?何て名前だっけ・・?」
左腕に蒔いてある時計を見ながら私は首を捻った。う〜ん・・・・。
「まあ、いいか。シャワー浴びて来よ!」
腕から時計を外すと、着替えを持って私は自室を後にした。
誰もいなくなった部屋の中、液晶画面が空中に浮かんでいた—。
『多重ループ空間、第30日目。早くこの世界から抜け出してください・・・。』
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