第37日目 非常識なドラゴン
「な、何なの・・・この光景は・・・。」
アスピダに連れられてやって来たのはエタニティス学園前の駅。駅前周辺には大勢の人々が行きかっているのだが・・何とこれが全員静止しているのだ。
手前に見える女性は今にも転びそうな姿で静止しているし、向こう側に見える男性は空中で止まっている。なるほど・・・あの姿勢から察するに、恐らく猛ダッシュして逃げるように走っている。その証拠に顔色が青ざめているし、さらに後ろを振りむいている。多分何かにおいかけられているのかもしれない。その視線の先を見ると、狂暴そうな犬が男性に向って吠えたてているように静止している。他にも空を見上げれば鳥が何羽も空中で静止しているし、飛ばされた風船は空中で止まっている。
いやはや・・何もかかもが静止している世界は・・・。
「怖っ!ねえっ!怖すぎるんですけどっ!」
私はアスピダをユサユサ揺すぶりながら言った。
「え?何が怖いんだ?今この世界で自由に動き回れるのは俺とおまえだけだ。どうだ?優越感に浸りながらデート出来るぞ?」
アスピダはニコニコしながら言うが・・・冗談じゃないっ!ドラゴンの感覚と人間の感覚を一緒にしないで貰いたい。
「何言ってるのよっ!ふざけないでよっ!こんな何もかもが静止した世界でデートなんて出来るはず無いでしょう?怖いからっ!まるでホラー映画の世界みたいで逆にすっごく怖いから!」
涙目になってアスピダをユサユサ揺すぶり、ようやくアスピダは納得したかのようにため息をつく。
「あ〜もう、分かったよっ!元に戻せばいいんだろう?戻せばば・・・。」
そしてアスピダはパチンと指を鳴らすと、途端に音と動きの世界が戻って来る。
静止していた人々が何事もなく動き出し・・・先程の女性は見事にすっ転ぶし、犬に吠えられていた男性はおしりを噛まれ、悲鳴を上げている。
うん、うん。これこそいつもの日常だ。
「それで、どうするんだ?エリス。デートするんだろう?」
アスピダはあくまでデートとやらをしたいようだが・・。
「兎に角、今日は駄目だってば。最近メイドの仕事を全然していなかったから、これ以上やらない訳にはいかないのよ。だから今日は学園に戻って仕事をしなくちゃ。」
「そうか・・・それは残念だ・・・。」
アスピダは腕組みしながら言う。
「それなら、今日は1人で色々な場所へ遊びに行ってみたらどう?」
「嫌だ。」
何故か即答するアスピダ。
「何故よ?」
「いいか、俺はこの世に生まれて数百年になるが・・・まだ一度もデートの経験がないのだっ!1人でデートなど出来るはずが無いだろうっ?!」
何故かデートにこだわるアスピダ。
「ねえ、アスピダはデートと言う物をしてみたいだけなんだよね?」
「ああ、そうだ。」
「それなら別に相手が私じゃ無くてもいい訳だ?」
「うむ、それも言えるな。」
フフフ・・・それは良い事を聞いた・・・。
「ならさあ、誰か女の人に声を掛ければいいじゃない。つまりナンパよ。」
アスピダ程のイケメンなら、ちょっと声かけるだけですぐにナンパ出来そうだしね。
「ナンパ・・ナンパとは何だ?」
「えっとねえ・・・ナンパとは・・そう、あれよっ!全く面識のない異性に声を掛けて遊びに誘う行為をさすのよっ!」
「ふむ・・・なるほどな。だが・・俺のデートの意味合いとは違う気がするのだが・・・。」
何やらブツブツと呟くアスピダ。よし、それなら彼が誰かをナンパして遊びに行くまで、この親切な私が見守ってあげようじゃないのっ!
「よし、それじゃアスピダ。この町を歩いている女性で、デートしたいな~って思える女性を選んで声を掛けて見なさいよ。」
しっしっと手で追い払う仕草をしながらアスピダを送り出す。そして私は近くのベンチに座って高みの見物を決め込む。
アスピダは町の真ん中に立って、キョロキョロしていると・・ちょど良い所へ若い2名の女性達がアスピダに近付いて行った。おお!これは逆ナンだっ!流石イケメンは違うっ!
「あの〜・・・御1人ですか?」
ロン毛の女性が恥ずかしそうに尋ねて来る。
「ああ、見れば分かるだろう?俺は1人だ。俺と言う存在はこの世界でたった1人しかいないのだ。」
「ああ、そうなんですね?お1人なんですね。良かった・・・。」
セミロングの女性が頬を染める。う〜ん・・・どうも会話がかみ合っていないようだが、互いに意味は通じているようなので良しとしよう。
「それじゃ・・私達と何処かへ遊びに行きませんか?」
おおっ!ロン毛の女性、いきなり先制攻撃かっ?!
「・・・・・。」
すると何故かアスピダはだんまりを決め込む。ええ〜っ!ちょっと!何か話してあげないと・・・!
「あの〜・・どうかしましたか・・?」
セミロングの女性がアスピダに声を掛けてきた。すると、アスピダは2人の顔を交互に見ながら言った。
「いや・・・遊びに行く前にもっと他にやらなければならないことがあるのだ。お前達、どちらか協力してくれるか?それとも2人一緒でも構わないのだが・・・?」
「協力ですか?」
「私達でよければ喜んで。」
2人の女性はニコニコしながら返事をする。それを聞いたアスピダは言った
「そうか・・・ならお前達。俺と交配してくれ。」
「「!」」
途端に真っ赤になる女性2人。しかしそんなの当然だ。私もあまりの爆弾発言に危うく顎が外れそうになった位なのだから。
「どうだ?俺と交配してくれるのか?」
「え・・?」
「あ、あの・・・そ、それはちょっと・・・・。」
にじり寄るアスピダにドン引きの女性2人。あ~っ!!もう見ていられないっ!
「アスピダ〜ッ!!」
私は猛ダッシュでアスピダの元へ向かうと腕をガシッと掴んで呆然としている女性達の前から走って連れ去った。
ハアハアと荒い息を吐きながら、人通りの少ない路地裏へアスピダを連れて来るとわ他紙は言った。
「ちょっとっ!いきなり・・な・な・何て事を言うのよっ!」
「何故だ?何かマズイ事を言ったのか?」
かくいうアスピダは事の重大さに気付いていないのだろうか?
「あ、あ、あのねえ・・・言うに事かいていきなり初対面の女性に言う台詞じゃないでしょうっ!」
「どこがだ?デートと言うものはそう言う物なのだろう?俺の一番の目的は交配して子孫を増やす事なのだぞ?俺達ドラゴンの種族は年々数が減って来ており、もう雌のドラゴンはこの世界に数匹しか存在しないのだ。交配して繁殖させなければ俺達は滅びる。だからこの際、人間の女でも構わないから沢山交配して絶滅を防がなければならないのだ。」
「あーっ!!もう!交配交配って連呼しないでよっ!恥ずかしいっ!!」
すると・・・私の声を聞きつけた人々が何やらひそひそ話をしながら軽蔑の目で通り過ぎていく。
くう〜・・・・こ、こいつのせいで・・。え・・・でも待てよ・・?
「ね・・ねえ・・。そう言えばさっき、アスピダ・・私にデートしようと誘ったよね・・・?」
「ああ、誘ったな。」
「ま、まさか・・・その目的って・・・?」
「当然だろう?エリス。お前と交配する為にデートに誘ったのだ。」
「ああああっ!やっぱりいいいっ!!」
私は顔を覆って絶叫した。
「そ、それじゃ・・・け・今朝・・私のベッドに裸で入っていたのは・・・?」
声を震わせながら尋ねる。
「ああ、勿論交配目的だ。だが、一応これはデリケートな問題だからな。流石に相手の同意なしには勝手な真似は出来ないだろう?」
アスピダはニコニコしながらとんでもない事をいってきたが・・・。
「じょ、冗談じゃないわよっ!!私は絶対にアスピダとは、こ・・交配しないからねっ!!」
こうなったらベソとノッポの所へ連れていくしかないっ!
「アスピダッ!今から学園に帰るわよっ!」
「え?デートはどうするんだ?」
「却下よ!却下!!」
そして私はアスピダを連れてベソとノッポの所へ向かった―。
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