第33日目 タイムリミット ①

『おはようございます。33日目の朝が・・・』


そこまで読むと私は液晶画面を無言でタップして消去した。どうせ書いてある内容はいつもと同じ。そして今日も昨日に引き続き休暇日なのだ。たまには何もかも・・ここがゲームの世界だと言う事も忘れて、ゆっくり過ごしたい。過ごしたいのはやまやまだが・・・昨日の今日だ。

私はフレッドとエディを眠りから覚ます為に不本意ながら彼等にディープキスをしてしまった。

フレッドは完全に私が自分に好意を持っていると勘違いしてしまっているし、エディだって分からない。何せあのフレッドにエディは私が最初にキスをしたのは自分なんだと宣言してしまったのだからっ!

このまま・・・ここに残っていれば・・・ひょっとすると『白銀のナイト』達がこの部屋に押し寄せてくるかもしれないし、トビーかダンまでやって来てしまうかもしれない。


「逃げよう。」


ガバッと布団から飛び降りると、クローゼットをバタンと開けた。


「さて・・・今日はどんな服を着ようかな・・・?」


そこで私はふと思った。そうだ・・・いい考えがある・・・。

そして私はある服に手を伸ばした―。


従業員宿舎を出た私の傍を通り過ぎて行く人たちは誰も私の事を気にも留める者はいない。

ふふん、それは当然でしょう。何故なら今日の私は・・・その時、ふと足を止めた。


げげっ!前から歩いてくるのは・・・トビーだっ!

で、でもきっと大丈夫・・・今の私がエリスだと気が付く者は誰一人いないはず・・・。

徐々に二人の距離が近づいてくる、そして高鳴って来る私の心臓。いや、勘違いしてはいけない。この高鳴る心臓と言うのはトビーを見て胸が高鳴っているわけでは決してない。トビーにどうかばれませんように・・・それを心配して胸が高鳴っているのである。後10、5m、3m、1m・・・・。

やった!つ、ついに・・・トビーをやり過ごすことが出来たっ!

その時・・・。


「おや?」


背後でトビーの声がした。

ギクッ!!

ま、まずい・・・まさか・・・ばれたっ?!ど、どうしよう・・・このまま走って逃げようか?いや、そもそもトビーが「おや?」と言ったのは私と全く関係が無いことかもしれないじゃないっ!

なので、そのまま歩調を変えずに歩いていると、再びトビーの声がした。


「靴ひもがほどけたのか・・・・。」


ほ・・・。

な、なんだ・・・靴ひもがほどけて・・・おや?と言ったのか・・・。


セーフ・・・。

ほっと胸を撫で下ろすのもつかの間・・・何と今度は前方から『白銀のナイト』オールスターズがこちらに向かって歩いてくる。


「ま、まずい・・・。彼らが何所へ向かっているかは知らないけれど・・とにかくまずいっ!」


ど、何所か・・・さりげなく隠れる場所は・・・?辺りをキョロキョロと見渡すと、前方左斜め前にカフェを発見!

よ、よし・・・。さりげなくカフェに入る為に進路変更をしよう・・・。

ササササッと素早く左に移動して、カフェの中へするりと入る私。

そしてガラスで出来た入口のドアから彼等の様子を覗き見る。

さて、白銀のナイト達の様子は・・・・んんんっ?!


「見間違いじゃ無いよね・・・?」


私は何度も目をゴシゴシと擦ってみる。

カフェボーイがお客様、早くお席お席に着いて下さいとしつこく言って来ているが、今はそんな事を気にしている場合では無いっ!


「そ、そんな・・・嘘でしょう・・・?」


そこにはオリビアを囲んだ『白銀のナイト』達の姿があった―。




「だ~か~ら~!一体どういう訳なのよっ?!」



私は今『管理事務局』へと来ている。

狼狽えるベソとノッポに文句を言う為にやって来たのだ。


「だ・誰ですか?!貴方はっ!」


ベソが言う。


「そうですっ!部外者は出て行ってくださいよっ!」


あのノッポが私に強気な態度を取っている。



「ちょっとっ!2人共っ!この私に向かって・・よくもそんな口を叩けるわねっ?!」


腰に手をやり、言い返す。


「あれ・・・?その声は・・・?」


ノッポが言う。


「もしかして・・・・エリス・・さん?」


ベソが指さしながら私を見た。


「ええ!そう、エリスよっ!」


そして茶色のショートヘアのカツラをむしり取る。


「うわあああ。何て格好してるんですか。男性用のスーツなんか着ちゃって!」


未だにベソが指をさしているので私は言った。


「ベソッ!いつまでも指をささないッ!」


「はいいいいっ!すすすみませんっ!」


半べそで平謝りするベソ。


「そ、それでエリスさん。何故そんな男装をしているのですか?」


ノッポが至極当然の事を尋ねて来る。


「そんな事聞くまでも無いじゃない。休暇日位ゆっくり過ごしたいからよ。」


「「・・・?」」


ベソとノッポはさっぱり分からないとでも言わんばかりに首を傾げる。


「何・・?本当に私が何故男装をしているか分からないの?」


「いえ・・今休暇日位、ゆっくり過ごしたいからと理由は聞きましたけど・・・?」


ベソに続けてノッポが言う。


「それと男装がどう関係があるのかが分かりません。」


ぐぬぬぬ・・・何という鈍い奴らなのだ・・・。


「あのねえ、エリスの恰好でいると色々な攻略対象が私の処へやってきちゃうのよ。」


「いいんじゃないですか?別に。いや~相変わらずモテまくってますね。」


「そうそう、好感度アップのチャンスですよ。このゲームの目的は好感度を上げてクリアする事なんですから。」


ノッポとベソが交互に言う。


「だけどっ!こんなコンピューターウィルスが連日発生している世界で、果たして好感度を上げて、このゲームをクリアする事が出来るの?」


そう!私が・・・何故好感度を上げるのを渋っているかと言うと・・そもそもの原因はそこなのだ。

現にベソとノッポはウィルスによって現実世界とバーチャル世界の間を行き来出来なくなってしまったし、連日コンピューターウィルスは発生するわ、折角上げた好感度はたった1日で奪われるし・・・って・・・そうだっ!


「そんな事より大変なのよっ!い、今・・・このゲームのヒロイン『オリビア』の元に『白銀のナイト』達全員が集まっているのよ!ひょっとして・・・全員の好感度を奪われちゃったんじゃないのっ?!」


私は近くにいたベソの襟首を掴むとガクガクと揺さぶる。


「お、お、落ち着いて下さいよっ!エリスさん。毎朝画面に表示される1日の始まるを告げるメッセージは読んでるんですよね?今朝は何て書いてあったんですかっ?!」


「え・・・?」


思わずベソの襟首をパッと離し、そのまま床に崩れるベソ。


「今朝は・・・か、確認していなかった・・・。」


何だろう・・非常に嫌な予感がしてきた。


「ええっ?!い、いますぐ画面表示して下さいっ!」


ノッポに言われるままに腕時計型の液晶画面をタップし、空中に画面を映し出す。


「ほら、この右下の部分に文章を再表示させる機能がついているんです。早速表示してください。」


ノッポの説明を聞きながら、文章を再表示してみる。

すると、空中に浮かんでいる画面に、今朝私が流してしまったメッセージが再表示された。


『おはようございます。33日目の朝が始まりました。不測の事態が発生し、『白銀のナイト』の全員の好感度がゲームヒロインである「オリビア」に奪われてしまいました。今から1週間以内に全員の好感度を取り返してゲームクリアを目指して下さい。それでは本日も頑張ってください。尚、1週間以内に好感度を奪い返さない場合は・・あなた方は永遠にゲームの世界から出られませんよ・・・。』



私達はそのメッセージを読み・・・凍り付くのだった―。






 

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