第32日目 ディープキス?!(残り時間40日)

『ミッションです。眠りに就いてしまった攻略対象を今から10分以内に起こして下さい。方法は問いません。なお、10分以内に起こせなかった場合、攻略対象は永遠に眠りに就く事になります。』


そして、無情にも液晶画面は消え去ってしまった。


「ちょ、ちょ、ちょと待ってよ・・・ひょっとして・・ひょっとすると私がこの2人に使ってしまったウィルス駆除は・・・ゲームに登場してくる人物達には使ってはいけない物だったの?あくまでコンピューターウィルスが対象だったわけ?!しかも今からたった10分以内・・・?!ど、どうしようっ!」


頭を抱えながら軽いパニックを起こす私。時間があればベソとノッポの所に助けを求めに行けたの・・・。今から行ったところで、もう既に3分程経過しているからとてもじゃないけど間に合わない。もし・・このままフレッドとエディが目を覚まさなければ・・・彼等の好感度をマックスにする事が出来ず・・・・。


「わ、私は永久に・・・このゲームの世界から抜け出せない・・・?」


そ、それは困るっ!絶対に困るっ!


「起きてくださいッ!フレッド様っ!」


完全に伸びているフレッドの襟首を掴んで引き起こすと乱暴にガクガクと首を揺するも、全くの無反応。一方のエディにも同じことをしてもやはり結果は同じ。


「早く起きましょうってばっ!」


パーンッ!!


青空に響き渡る音―


今度はおもい切り平手打ちをしてみる。念の為に平手打ちで起きた場合のフレッドの反応が怖いので、エディの方を先に引っぱたいてみるものの・・・エディは全く目を覚まさずに、平手打ちされた頬が赤くなっている。


「ああ・・あ・・。どうしようどうしようどうしよう・・・」


もう私には彼等を起こす手段が・・・手段が・・・?


その時、私の頭に何故かノッポの顔が浮かんでくる。


<ヒーロー達を助けるヒロインは好感度アップを狙えるかと思って・・。>


あの時、ノッポはそんな事を言っていたっけ・・・。

そう言えば物語の世界ではヒーローはヒロインをどうやって起こしていた?

白雪姫は?オーロラ姫は?

皆王子様のキスで目が覚めたじゃないの!


ギギギギ・・・・と首から音が鳴るのでは無いかと思う程に首を動かして、フレッドとエディを見つめる私。


ま、まさか・・・私にこの2人とキスをしてみろと・・・?!だ、だけど・・・もしそれでも目が覚めなかったら?!いや、それどころか仮にキスしている時に彼等が目を覚ましてしまったら・・・?痴女扱いされてしまうかもしれないっ!

しかし、背に腹は代えられない・・・。ダメもとでやってみるしか・・・・。

どうする?誰からやる?仮にキスで目が覚めたとして・・・先にフレッドを起こした場合・・・ひょっとすると嫉妬に狂った?フレッドにバッサリ殺られてしまうかもしれない!かくなる上は・・・!


「エディ様っ!失礼しますっ!」


そしてエディの顔を自分の方へ向けて、エディにキスをした!

5秒・・・10秒・・・まだエディは目が覚めない。くっ・・・!かくなる上はっ!

やむを得ず、ディープなキスをお見舞いする私。すると・・・。


「ん・・・。」


エディの眉がピクリと動き・・・頬が真っ赤に染まってゆく・・・。

よし!起きたなっ?!

急いでエディの顔面から顔を引き剥がし、唇を袖でゴシゴシ擦り、次はフレッドに向った。

く・・急がなければ時間がっ!

そしてフレッドの顎を摘まむと、次は遠慮せずにいきなりのディープキスッをぶちかますっ!!


「うわあああああっ?!」


背後でエディの叫ぶ声が聞こえるが、そんな事は構っちゃいられない。

早くおきなさいよ~っ!


すると・・・


「んん・・・。」


フレッドの口からうめき声?が聞こえて来た。よし!目が覚めたなっ?!


急いで身体を起こして、フレッドから顔を上げて離れようとしたその時・・・。突如としてフレッドの腕が伸びてきて、ガシイッと右腕を掴まれた。



「エリスッ!」


背後でエディの私を呼ぶ声が聞こえる。ああ・・「エリス」と呼ばれたと言う事は・・好感度を取り戻す事が出来たんだ・・・。今私は非常にピンチに陥っているのに何故か頭に浮かんだのは好感度の事。


「エリス・・・お前・・今俺に何をした・・・?」


フレッドが手押し一輪車の上で私の右腕を握りしめたまま起き上がる。


ヒイイイ・・こ・・怖い・・・何やらフレッドが相当私に怒っているようだ・・。まあそれは確かにフレッドの許可も取らずにディープキスをしてしまったのだから無理もないかも・・。


「よせっ!フレッドッ!エリスに手荒な真似はするなっ!」


エディが背後で喚いているけど・・・だったら今すぐ助けに来てよっ!


「エリス・・・。」


フレッドがじっと私の目を見る。


「す・・・すみません・すみません・すみません・すみません!!ど、どうしても深い眠りについてしまったお2人を目覚めさせるために・・・やむを得ない措置だったのですっ!」


「いーや、照れる事は無い。エリス・・・お前、それ程俺の事が好きだったんだな?そうじゃ無ければあんな情熱的なキスを俺にしてくるはずが無い。いいだろう、今度は俺からお前にお返しを・・・。」


そう言いながら、グググッと私に顔を近付けてくるフレッド。


「ち、違いますっ!ご・誤解ですってばっ!」


「そうだっ!フレッド!それを言うなら・・。お、俺だってエリスにキスされたぞ!しかも・・・お前より先にだっ!」


何とエディが爆弾発言をしてしまった!


「何だと・・・?」


ドスの効いた声で低く呟き、ジロリとエディを睨み付けるフレッド。そして次の瞬間私の手を離したっ!よし、今の内だっ!

咄嗟に逃げるようにフレッドから距離を置く。


「エディ・・・この間の件といい・・・。やはり貴様とは馬が合わないようだな・・・。」


「そうか?それは都合が良い。俺もお前とは馬が合いそうにないと以前から思っていたんだ。」


不敵な笑みを浮かべて応戦するエディ。う~ん・・・口喧嘩を始めるのは別にかまわないけれども・・・2人供気が付いているのだろうか?未だにお互い、手押し一輪車の上に乗っかっていると言う事にっ!


「フフフ・・・いいだろう。それでは始めようか・・・?」


不敵な笑みを浮かべながら、自然な動きで手押し一輪車から降りるフレッド。


「ああ、いいだろう。望むところだ。」


同じくエディも何の疑問も抱いていないのか、ゆっくり手押し一輪車から降りて来る。そしてお互い向き直ると激しく睨み合う2人。


「大体、ろくに剣も振るわないような奴が常日頃から偉そうに指図されるのが前から気に食わなかったんだよ。」


フレッドは今にも抜刀しそうな勢いでエディに語り掛ける。


「フン。お前のように剣を振り回すしか能が無い男が『軍師』と呼ばれるこの俺に楯突くとはいい度胸だな。」


エディは腕組みをしながらフレッドの事を鼻先で笑った。

う・・・嘘でしょうっ?!あのエディが・・『白銀のナイト』のブレーンとまで呼ばれているエディが・・あんな口を叩く?なんて・・・!


「な・・・なんだと・・?!」


フレッドの身体からバチバチと・・・え?また・・・またこのパターンなのっ?!


「ふん・・・やるつもりか?」


エディの身体からも火花がほとばしり始めるっ!

かくなる上は・・・私は必死で目を凝らし・・・エディとフレッドの好感度を確認する。

・・よしっ!2人供・・・400の数値となっているっ!


身を翻し、私はダッシュでその場を逃げだした。走りに走って十数秒後・・。


ドーンッ!!


激しい爆発音が辺り一帯に響き渡った。


「あ~あ・・・またやっちゃったのね・・・」


エディとフレッドがいたと思われる地点からは黒い煙が立ち込めている。でもあれは私の責任じゃないし・・・好感度も上がっていた。


「疲れた・・・。今日はもう部屋に帰って休もう。」


ポツリと言うと、トボトボと部屋に戻り・・・その日は1日ぐうたらして過ごすのだった—。




『お疲れさまでした。ミッションクリアおめでとうございます。報酬として30000ポイントを加算させていただきます。第32日目が終了致しました。明日も休暇日ですので、ごゆっくりお過ごし下さい。残り時間は40日となります』

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