第33日目 幻のアイテム
「あ、あの・・あなた方・・・って一体だ、誰の事・・・なんでしょうね・・・?」
ガタガタと震えながらノッポが情けない顔でこっちを見て来る。
「そ、それは・・・・。」
言い淀みながら私はノッポを見た。
ねえ?本気で分からなくて・・・そんな聞き方をするの?それとも自分の考えている事とは違う内容を私に言って欲しくて質問してきてるの?
しかし・・・私はベソとノッポに関しては、思った事を正直に話すと決めている。
ここは・・心を鬼にしても、はっきりと言わなくては。
「そんな事はもう決まっているでしょう?あなた方って言うのは、私と・・。」
「いいですっ!分かってますから言わないで下さいよぉっ!!」
ベソが泣きながら制止する。そして・・・。
「ベソ・・・。」
「ノッポ・・・。」
2人の男は見つめ合うと・・・ガバッと抱き合い、ウォンウォンと泣き崩れた。
チッ・・・!全く・・男のくせに女々しい奴らめ・・・。
まあそれも当然なのかもしれない。自分達は蚊帳の外だと思い油断していただけに、いきなりこんな緊急事態に巻き込まれれば・・・それだけショックも大きいだろう。仕方がない・・・。好きなだけ泣かせてやるか・・・。
しかし、その後彼等は5分経っても10分経っても泣き止まない。
うう〜・・・もう、我慢の限界だ!
「ちょっと!2人供!もういい加減に泣き止みなさいよっ!」
「うっ・・・うっ・・・だ、だけど・・そ、そんな事言われたって・・・・。」
ベソがベソベソ泣きながら言う。
「そ、そうですよ・・・無茶言わないで下さいよ・・・。ウウ・・・な、何故俺達までエリスさんの巻き添えに・・・。」
ノッポの言葉にカチンときた。
「はあ・・・?今・・・聞き捨てならない事を言われた気がするんですけど・・・?」
眉をピクピクさせ、腰に手を当てると私は言った。
「そもそも、巻き添えを食ったのはむしろ私の方なんですけどっ!だって考えてもみなさいよっ!私が元々この世界へやって来たのは乙女ゲームをクリアするのが目的だったはずよ!それが・・気が付けば、今私が置かれている立場は、乙女ゲームどころか、さながらコンピューターウィルスと戦うアクションゲームのような世界に連れて来られた感覚しかないんですけどっ?!」
「うっ!」
「た、確かにそれは・・・。」
ノッポとベソが交互に言う。
「どう?これで少しは私の立場も理解出来た?」
「「はい・・・。すみませんでした。」」
同時に謝罪する2人。そんなベソとノッポを前に私は言った。
「いい?今はそんな事言ってる場合じゃないのよ?何としても1週間以内に『白銀のナイト』達全員の好感度を奪い返さないと・・・私たちは全員・・二度とこのゲームの世界から抜け出すことが出来ないのよ・・・?」
「ひいいっ!そ、それだけはい、嫌ですっ!読みかけの漫画が・・・っ!」
「俺だって・・・まだ全巻制覇していないDVDのドラマが残ってるのにッ!」
やけにリアルな話を持ち出すノッポとベソ。それを言うなら私だってまだ攻略途中のゲームが残っているんだからねっ!
「いい?だから3人で力を合わせて、何としてもオリビアから好感度を奪う事を考えないと・・・。この際、どんな手段を使ってでもねっ!」
私が力説すると、ベソとノッポが何故か顔を見合わせて、小声でぼそぼそと相談を始め、互いに頷き合う。
「え?ちょっと何よ・・・2人だけで話し合って勝手に納得して・・何か良い手段が思いついたなら教えてよ。」
「え・・?」
「い、いいんですか・・・?」
ベソとノッポが戸惑いながらこちらを見る。
「うん、勿論よ。だって後残り1週間で全員の好感度を奪い返さないとならないんだから・・・。何かよいアイデアがあるなら、皆で積極的に出し合わないと。それで?どんな方法を思いついたの?もったい付けないで教えなさいよ。」
「わ・・・分かりましたよ・・・。」
渋々ベソが言いながら私をチラリと見ると、私を手招きした。
「?一体何?」
「いえ・・・エリスさん・・お耳を拝借させて下さい・・・・。」
ベソが遠慮がちに言ってくる。
「?」
何が何だか分からないが、取り合えず言われた通りにベソの傍によると、彼は耳打ちしてきた。
その会話の内容を聞き・・・見る見るうちに激しい怒りが沸いてくる。
「・・・どうですか?エリスさん。」
びくびくしながらベソが言う。
「この方法なら・・・一番確実に好感度を上げられると思いますけど・・・?」
ノッポも言う。
「はあ~・・?ふ、ざ、け、ないでよ~ッ!!な、何で私が・・・彼らに夜這いを仕掛けなくちゃならないのよっ!冗談じゃないわっ!このゲームはそもそも全年齢対象のゲームだったわよね?PCゲームと勘違いしてるんじゃないのっ?!そんな真似するくらいなら3人でこのゲームの世界で一生暮らした方がましよっ!」
「な、何言ってるんですかっ!」
ノッポが悲鳴を上げる。
「俺たちまで巻き込まないで下さいよっ!」
ベソが泣きべそをかく。
「あのねえ・・・そこまで言うなら、貴方達がエリスになって彼らに夜這いを仕掛けなさいよ。仮にも貴方達はプログラマーでしょう?自分たちの画像データくらい、簡単にエリスの画像に変更する事位可能なんじゃないの?私の姿に化けて、代わりに彼等とよろしくやって頂戴よ。」
腕組みをしながらベソとノッポをジロリと見下ろす。うん、自分で言うのも何だが・・・これはナイスなアイデアだ!
「ヒイイッ!お、お願いですっ!どうかそれだけは勘弁して下さいっ!」
ベソが震えあがった。
「そ・そ・そうですよっ!お、俺達はノーマル人間なんですからっ!」
ノッポは顔を青ざめさせている。
恐らく・・・2人共脳内で『白銀のナイト』達の相手をする自分達を想像したな・・・?
私も彼らのそんな様子を想像し・・・。
「あ・・・エリスさん・・。」
ノッポがギョッとした様子で声を掛ける。
「何故・・よだれを垂らしているんですか?」
ベソが不思議そうに尋ねてきた。
いけいない、いけない。またしても私はBLの世界を連想してしまった。
しかし、ベソとノッポもイケメン、白銀のナイト達もイケメン。どうしてもBLの世界が頭に浮かんできてしまう。
ゴホンと咳払いしながら私は言った。
「と、とにかく・・・その方法は絶対に却下よ。もっと建設的な他の手段を考えないと。」
「そうですよね・・・。」
ノッポも腕を組む。
「あ、彼らの好感度が上がるスペシャルアイテムがあるじゃないですか。そのプレゼントを上げればいいんですよっ!」
ベソがポンと手を打ちながら言う。
「それよっ!それはいい考えだわっ!確か全員が大好きなスペシャルアイテムがあったはずっ!」
「「「魔鉱石っ!」」」
3人で声を揃えて言う。
そう、この魔鉱石と言うのはとても貴重な鉱石で、砂漠の国『アルハール』でのみ採掘され、市場には滅多に出回ることは無い。そしてこの魔鉱石は彼等白銀のナイト達のように強すぎる魔力を吸収し、必要な時は吸収した魔力をいつでも放出したり、吸い上げる事も可能で、半永久的に使用する事が出来るのだ。一説によるとこの魔鉱石をプレゼントしただけで、好感度ゼロの相手でも、MAXにする事が出来ると言われている幻のアイテムなのだ。
「魔鉱石・・・魔鉱石はアイテム一覧にあるのっ?!」
私は液晶画面を表示させ・・・必死で6つの目で確認したが・・・無情にもプレゼント一覧には表示されていなかった。代わりに欄外に魔鉱石について注意書きが記されていた。
私達は期待に胸躍らせて、注意書きを表示させる。
『魔鉱石』
※プレミアムアイテム モンスター討伐のクエストのみで入手。
アルハールの迷宮「マターファ」に住む魔鉱石を守るモンスターの巣窟内にて採取可能。
「「「・・・・。」」」
私達は・・・無言で互いの顔を見つめ合うのだった―。
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