第30日目 消えたアイテムを求めて ④ スライム!

 階段を上り、外へ出た私は思わず絶句してしまった。

何故ならそこは何処までも砂丘が広がる広大な砂漠のど真ん中だったからだ。辺りを見渡しても町の影どころかオアシスすら見当たらない。

空を見上げれば、茜色から徐々に夜空へと変わりつつある。確か・・・砂漠の夜はすごく冷えるんだっけ・・・・。そして日中は恐ろしい暑さになる・・・。

私もタリク王子も砂漠を超えて歩けるような装備は何一つ持っていない、それどころかラクダもいない。こんな状況でどうやって町まで帰れると言うのだろう?

いっそ、この洞窟の中で助けが来るのを待っていた方が・・・。


「タリク王子!どうしますか?私はこの砂漠をこのまま超えるのは不可能だと思うのですが・・・?」


しかし、タリク王子は私の腕を掴むと言った。


「よし!エリスッ!、町を目指すぞ!」


そして強引に洞窟の外から出されてしまった。


「ちょ、ちょっと待って下さい!こんな状態で町を目指せるのですかっ?!私達砂漠越えの準備が何一つ出来ていないんですよ?」


腕を引かれて砂漠を歩かせられながら、必死でタリク王子に話しかける。


「大丈夫だ。何も心配はいらない。ここ『アルハール砂漠』は俺の庭のようなもの!エリス、安心して俺に任せろ。コンパスの指し示す通りに歩けばいいのだっ!」


おおっ!何とも頼もしい言葉・・・。そこまで豪語するからには余程砂漠越えに自信があるに違いないっ!そこで私は言った。


「分かりました・・・タリク王子。私は・・貴方を信じてどこまでも(砂漠の中を)ついていきますっ!」


すると何を勘違いしたのか・・・タリク王子の頭上のハートが・・・ハートが・・・何と500に達してしまったのだ!!


ギャ~ッ!!な・な・何てこと・・・っ!とうとう、ついに私は好感度を最大値まで上げてしまったっ!

このままでは・・こ・告白イベントへとなだれ込んでしまう・・・っ!!


「エリス・・・・。」


タリク王子は顔を赤らめ、ウルウルした瞳で私をじっと見つめて来る。


「は・はひっ!」


思わず変な声をあげてしまった。


「『アルハール』無事に辿り着く事が出来たら・・・すぐに結婚式を挙げるぞっ!!」


「無理ですっ!!」


私は秒単位で即答した。


「な・何だと・・・・今・・無理だと言わなかったか・・・?」


グラリと頭を傾けるタリク王子。しかし好感度500に変化は無し。

タリク王子はもともとゲーム中に出現する確率は極めて低く、一応攻略対処ではあるが『白銀のナイト』のように重要キャラでは無いので、即答して断ったのだが・・・何故か好感度が変わらない。


「エリス・・・俺と結婚すれば・・・いずれこの国の女王になれるのだぞ?それを・・断ると言うのか・・?」


あ、何だか・・・黒いオーラが見えてきた・・・気がする・・。


「あ、あのですね・・・タリク王子・・・そ、そもそも私達はこんな話をしている場合では無いんですよ?ここを何処だと思っているんですかっ?!」


そう・・・・私達は砂漠のど真ん中で話をしているのだ。最早さっき出てきた洞窟の場所すら分からない状態で右を向いても左を向いても広大な砂丘ばかりが続き、救いのオアシスすら見当たらない。

既に日はとっくに落ち、頭上には大きく輝く満月が浮かび、砂漠に私とタリク王子の長い影が伸びている。



「あ・・・・確かに言われてみればそうだな・・結婚の話どころじゃないか・・。」


タリク王子は頬をポリポリとかきながらコンパスを見て悲鳴を上げた。


「ウワアアアッ?!」


「な、何ですかっ?!今度は一体何があったというんですか?!」


コンパスを見て悲鳴を上げるタリク王子・・・何だか非常に嫌な予感がするっ!


「コ・・・コンパスの磁場が・・・狂っている・・・。」


見るとタリク王子の持っているコンパスが先程からグルグルと回転し続けているではないか。


「あ・・・・。」


な、何て事っ!これでは・・方角が分からない。

タリク王子はガクッと砂漠に膝をつくと項垂れた。


「そ、そう言えば・・・重大な事を忘れていた・・・・・。」


「重大な事・・・ですか・・?」


何だろう・・・嫌だ・・聞きたくない・・・最早タリク王子の次の言葉は嫌な予感しかない・・・。


「この・・・『アルハール砂漠』の砂には・・・あの磁石が含まれているって事をっ!」


まるで天に向かって咆哮?するように叫ぶタリク王子。

ああーっ!やっぱり!

絶対そんな予感がしていたんだよね・・・。駄目だ、こんな間抜け王子と砂漠越えなんて成功するはずが無い。と言うか、タリク王子は私にとって厄病神と言っても過言では無いだろう。

第一・・・。

私は当たりを見渡した。


「ハハ・・こんな周りに砂丘しか見えない場所を・・徒歩で越えられるはずなんて無かったのに・・・。」


思わず乾いた笑い声が出てしまう。


「エリス・・・。」


その時、座り込んでいたタリク王子が私を見上げると声を掛けてきた。


「はい、何ですか?タリク王子。」


「我々は・・今世では夫婦になれなかったが・・・黄泉の国で夫婦になろうっ!」


「はあ~っ?!」


一体何を言っているのだ?この馬鹿王子は。冗談じゃないっ!私はこんな所で死ぬつもりは無いし、あの世でこんな腑抜け王子と結婚するつもりもない。

そこで私は言った。


「いいですか?タリク王子。私はこんな所で死ぬつもりはありません。必ず・・・この砂漠を抜けだして・・・エタニティス学園に戻ってみせますっ!」


そうよっ!あの学園に戻れなければ・・・私はゲームオーバーになってしまうのだからっ!


「おお~っ・・・・エリス・・・お前は・・・なんて何処までも神々しいんだ・・・。まさにこの『アルハール国』の后に相応しい・・。」


タリク王子の戯言はこの際無視して、私は空に輝く星を見上げた。

はあ~しかし・・この先どうしよう。今は夜だからまだ寒さはしのげるけども・・・これが日中になったらこの辺り一帯は物凄い暑さになるに決まっている。その前に何としてでも首都に戻らなけれ・・・それにお腹もすいたし・・。


等と考えていると・・・・。


「で・・・出たっ!モンスターだっ!」


突如タリク王子の叫び声が聞こえた。


「え?モンスターですって?!」


まさかここでもコンピューターウィルスが現れたの?!振り向くとそこには体調1m程の水色のプニプニしたゼリー状の生き物が30匹ほど蠢きながら私たちの眼前に立ちはだかっていた。


え・・・な、なんて・・・・・。私は思わず息を飲んだ。


「エリスッ!これはスライムだっ!俺が倒すからお前は下がっていろっ!」


タリク王子はスラリと剣を抜いた。


「な・・・なんて・・・美味しそうなの・・・。」


私の呟きをタリク王子は聞き逃さなかった。何故かタリク王子は怯えた目つきで私の方を振り返った。


「お、おい・・・エリス・・・い、今・・・何と言った・・?」


「え?美味しそうと言いましたけど・・?」


「な・・何だって?!いいか、エリスッ!これは『スライム』と呼ばれるモンスターなんだぞ?!食べられるはずが無いだろうっ?!」


言いながらタリク王子は剣を構えて雄叫びを上げると、スライムの群れに向かって切りかかっていくっ!

その見事な剣裁きは流石、公式設定で剣術に長けていると書かれているだけの事があり、私達の周りには次々とタリク王子によって一等両断されたスライムたちが積み重なっていく。


「これで最後の一匹だっ!!」


タリク王子はついに全てのスライムを倒してしまった。


「どうだ・・・?エリス・・・少しは俺の事を見直したか・・・?」


タリク王子は剣を鞘にしまい、私の方を振り返った。しかし・・・私はそれどころではない。


「な・・なんて美味しそうなの・・・。」


私はスライムの欠片を拾い上げるとごくりとつばを飲み込んだ。

タリク王子は青ざめた顔で私を見ている。


「お、おい・・エリス・・?お、お前・・・ま・まさか、ほ・本気で・・?ば、馬鹿・・よせ、やめろーっ!!」


タリク王子の絶叫が砂漠の夜に響き渡る―。








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