第30日目 消えたアイテムを求めて ⑤ 砂漠越え

「いただきま~す。」


あ~んと大きな口を開けて・・・スライムの欠片を食べようとした時だ。


「馬鹿ッ!よせっ、エリスッ!死ぬ気かっ?!」


突然タリク王子が私の手からスライムの欠片をひったくると、大きく振りかぶって砂丘の向こうへと投げてしまった!


「ああっ?!な・何するんですか?!折角のスライムを・・・っ!」


タリク王子を見上げて抗議をすると、両肩を強く掴まれた。


「うるさいっ!それはこっちの台詞だっ!エリス、お前は何を考えているんだっ!何処の世界にスライムを食する人間がいるんだっ!死にたいのかっ?!」


タリク王子は私の肩をガクガク揺さぶると言った。


「そ、それではお尋ねしますけど・・・今迄スライムを食べた人はいるんですか?」


肩を揺さぶられながらも必死でタリク王子に尋ねた。するとピタリと止まるタリク王子。


「・・・いや。聞いた事が無い。」


「それではスライムを食べて死んだ人がいるって話も無いわけですよね?」


「う・・う・うむ・・・。言われてみれば確かに・・・。」


「なら食べてみましょうよ。」


新たにスライムの欠片を拾い上げ、タリク王子にも差し出す。


「な・・何ぃっ?!お、お前・・・こ・この俺にもスライムを食せよと言うのかっ?!」


タリク王子が露骨に後ずさりながら怯えた目つきで私を見る。


「ええ。是非ご一緒にスライムを食べてみましょうよ。」


「断るっ!」


タリク王子は即答した。


「チッ!」


「お、おい・・・エリス。お前・・・今俺に舌打ちしなかったか・・・?」


タリク王子が震えながら私を指さした。


「いいえ、まさか王族であらせられるタリク王子に只のメイドが舌打ちなんて出来るはずがありません。気のせいではありませんか?」


笑顔でほほ笑む私。


「う、うう・・・俺の気のせい・・なのか?」


どうにも納得がいかない様子のタリク王子だが・・流石は好感度500のMAX。


「そうだな?愛しいお前が俺に対して舌打ち等するはずがない。」


腕組みをして、ウンウン頷き勝手に納得するタリク王子。


「それならタリク王子、せーので食べっこしませんか?」


再びニッコリ微笑んでスライムの欠片をタリク王子に手渡す私


「い、いや・・・駄目だっ!やっぱりお断りだっ!」


顔を背けるタリク王子。

・・・チッ!先にタリク王子に毒見でもさせようかと思ったのに・・その手には乗らなかったか。

こうなったら・・・・。


「いいですよ、では私は食べますのでタリク王子は見ていて下さい。」


そう言って私はスライムの欠片を持って口を大きくあ~ンとした時・・・・。


「待てぃっ!エリスッ!お前に先に食べさせるわけにはいかないっ!大切なお前に何かあっては大変だっ!俺が先に食してみるっ!」


タリク王子は足元に倒れているスライムをスパアッ!と刀で一口大にカットすると、それを手でつかみ、目を閉じた。


「でやああああっ!」


掛け声と共にスライムゼリー?を口に放り込みタリク王子。

モグモグ・・ゴキュン。


おおっ!つ、ついに飲み込んだよっ!

するとタリク王子は・・・。


「う・・・・・。」


「う?」


「旨いっ!旨すぎるっ!」


そして何を思ったか足元に転がっているスライムに直にかぶりつくでは無いかっ!

さらに物凄い勢いでスライムを食い始めるタリク王子!

おおっ!

王子がモンスターを食べているっ!ある意味凄い光景だ・・・・。


でもそこまで美味しいのなら・・・最早私も食べるしかないでしょうっ!

私も足元に転がっているスライムの頭?を押さえて一口かじって食べてみる。

すると途端に口の中にトロピカルゼリーの様な甘みのひんやりしたゼリー?が口の中に広がる・・・。

おお~これは・・・何と言う美味っ!

おまけに水分もたっぷり?含まれているのか喉の渇きも癒される。


そして・・・私とタリク王子はその後一言も口を聞かず、一心不乱にスライムゼリーを食べ始めた。


傍から見ると、モンスターを食べまくる恐ろしい人間に見えるかもしれないが・・・ここは砂漠のど真ん中で、食べ物も飲み物も存在しない世界。

私とタリク王子は生きる為?必死でスライムを食べ続けたのだった。



 それは7匹目のスライムを食べ始めた後の事だった。

8匹目のスライムを食べようと、むんずと手元のスライムを引き寄せた時・・・・。

私は我が目を疑った。


何と驚くべきことに、そのスライムの身体の中に私の命の次に大事な液晶腕時計がうめこまれていたのだっ!


「う・・・嘘・・・っ!ま、まさかスライムのお腹の中?に入っていたんなんて・・・!」


私はズボッ!とスライムのお腹に腕を突っ込むと大事な腕時計を掴み、自分の左腕に装着した。

そしてチラリとタリク王子の様子を確認すると、彼は未だにスライムゼリーを夢中になって食べ続けている。足元にはほとんどスライムが残っていないので、恐らく10匹以上は食しているな・・?

よし、今の内に・・・・。

私は液晶パネルをタップして、この砂漠を超えるのに何か良いアイテムは無いか物色し始めた。

すると・・・・。


『空飛ぶ魔法の絨毯』というアイテムが目に飛び込んできた。


おお~っ!こ、これは・・・アラジンと魔法のランプに登場するアレか?!


「ポイントは?!どれくらいあれば交換できるのっ?!」


私は交換ポイントを目にして、愕然した。

そこに表示されているのは「80000ポイント」と記されているでは無いか!


「う・・・嘘でしょう・・・?そんなにポイント私持っていたっけ・・?」


恐る恐る自分のポイントチェックしてみると、何と100000ポイントも所有していた。


「え・・・?ど、どうしてこんなにたくさんポイントがたまっているの・・?ひょっとするとベソとノッポがポイント増やしてくれたのかな・・・ん?何?何か下に書いてあるなあ・・?」


すると私のポイント表示の下にはこう記されていた。


『コンピューターウィルス「スライム」を倒し、体内に取り入れた為経験値として大幅にポイントが増えました。』


何と私はスライムを食べる事により、経験値としてポイントが加算されていたのだ!

な・・・なんて素晴らしい。

出会ったコンピューターウィルスが美味しそうなスライムで本当に良かった・・・。これがこの間の水クラゲだったら死んでも食べたくないものね。

よし!では・・『魔法の空飛ぶ絨毯』迷わず交換だっ!


私は液晶パネルをタップした。

すると途端に目の前が眩しく光り輝く!

思わず眩しさに目を閉じ・・・次に目を開けた時には・・フワフワと宙を浮いている畳1畳分ほどの『魔法の絨毯』が目の前に現れていたのだ。


「よしっ!これで砂漠を抜けられるっ!」


喜びでパチンと指を鳴らし、タリク王子をふりかえり・・・私は絶句した。

未だにタリク王子はスライムを食べ続けていたのだ。しかもあれ程彼の足元にあったスライムは最早1匹も残ってはいなかった。

ま、まさかタリク王子が・・・ここまでスライムゼリーの魅力に取りつかれるとは・・・。



「タリク王子、タリク王子っ!」


肩を揺さぶり、ようやく我に返るタリク王子。


「あ、ああ。エリスか。いやあ~本当にスライムは美味いなあ。病みつきになりそうだ。」


満足げに言うタリク王子。


「それは良かったです・・・。ところでタリク王子、砂漠越えにぴったりのアイテムが見つかりました。あれに乗って帰りましょう。」


私はフワフワと浮いている魔法の絨毯を指さすと言った。


「な・・何だ?あの乗り物は・・・?魔法で浮いているのか?」


「ええ。まあそんな所です。でもタリク王子・・・あれを何処で手に入れたのかは聞かないで下さいよ・・。もし追及するのであれば・・・。」


私は凄みを効かせた?顔でタリク王子に話しかける。


「つ・・追及するのであれば・・?」


タリク王子はごくりと息を飲んだ。


「ここに置いて帰ります。」


「そ、それだけはやめてくれっ!!」


タリク王子は悲鳴を上げると私の足に縋りつき、懇願して来た。

う~ん・・・すっかり私とタリク王子の立場は逆転したようだ。


「分かりました・・・。それではタリク王子・・・乗りましょう。」


そして私とタリク王子は『魔法の絨毯』に乗り込んだが・・・どうやって動かすのだろう?

ええい、こうなれば自棄だ。


私はMJ(魔法の絨毯)に命じた。


「MJよっ!私達を王都へ連れて行きなさいっ!」


すると・・・

ヒュンッ!

耳元で風を切る音が聞こえたかと思うと・・・一瞬で私達は王都の町のど真ん中に立っていた。


「す、すごい・・・こんな一瞬で砂漠越えを・・・。」


呆然としている所を背後からタリク王子が声を掛けてきた。


「ところで・・・エリス。MJとは何の事だ?」


え・・?追及するのは・・・そこですか・・・?


私はあきれ顔でタリク王子を見つめるのだった—。


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