第30日目 消えたアイテムを求めて ③ 迷宮脱出編

 私がタリク王子の目をじっと見つめていると・・・ん?何故かタリク王子は薄っすらと頬を染めて瞳を閉じ、顔を寄せて来るでは無いか!


「な・な・な・に・するんですか〜っ!!」


私は顔面に迫るタリク王子の顔を必死で両手で阻止しながら言った。


「え・・?違うのか・・?」


私の激しい抵抗?にあったタリク王子は眼をパチクリさせながら言う。


違う?一体違うって何を言ってるのだ?この王子はっ!!


「何考えてるんですかっ!この非常時に!今私達がするべき事は一刻も早くこの迷宮から抜け出す事なんですよっ?!それに・・・気付きませんか?タリク王子・・・。先程からこの迷宮が・・・何だか暑くなってきている事に・・・。」


どうも先程から何かおかしいと思っていたのだが・・・この場所が先程に比べると暑くなってきている気がする。


「ああ・・確かに言われてみれば暑くなっているな・・・。まさか・・・も、もしかするとこの場所は・・・っ!!」


タリク王子は顔色を変えた。


「な・何っ!何か分かったんですかっ?!」


最早私は相手が王子である事を忘れ、すっかりぞんざいな口を効いていたが・・・・タリク王子も何も言わないので、このままの口調でいこう。


「いや・・ここ『アルハール砂漠』の地下には地下水脈が流れている部分と流れていない部分が迷路のように入り組んでいる不思議な場所があると言われているんだ。そして当然地下水脈が流れている場所は涼しく・・流れていない場所は暑いわけなのだが・・・ひょっとすると我々の今居る場所は『アルール砂漠』の地下迷宮と呼ばれている場所にいるのかもしれない・・・噂では聞いたことがあったが・・・恐らくここがそうなのかもしれない。」


タリク王子は顎に手をやりながら考え込んでしまった。


「え・・?それじゃここが地下と言う事は・・当然上に上がる道があるって事ですよね?!」


「・・・・・ああ。」


タリク王子は明後日の方向を見ながら返事をする。

え?ちょっと・・・何?今の間は?!しかも・・質問に答えた時、私から完全に目を逸らしていたんですけどっ?!だけど、ここでこんなやり取りをしている場合では無い。


「タ・・・タリク王子・・・。」


「な、なんだ・・・?エリス・・・。」


「そ、それでは・・私達が今居る場所は・・・地下水脈が流れていない場所・・・という事ですよね・・・?」


「あ・・ああ・・・。多分・・・間違いは無い・・・だろう・・・。」


いつの間にか、私とタリク王子は暑さでハーハー言いながら会話をしていた。


「と、とに角いつまでもここに留まっていたら・・私達はい、命が危険です・・タリク王子・・私に付いてきて・・・下さい。」


「ああ・・。分かった・・エリス。お、お前を信じよう・・・。」


私とタリク王子は暑さのせいですっかりお互いに悪くなった目つきで頷きあった。


「そ・それでは・・タリク王子・・・私に付いてきて下さいよ・・・。」


そして私は右手の壁に手をついて歩き始めた。


「エリス・・・それは一体・・・何の真似だ・・・?」


後ろを歩くタリク王子が質問して来た。


「はい、これは・・・『右手法』と呼ばれている方法で・・・・今は説明する気も起きないんで・・・取り合えず黙ってついて来て下さい・・・。後・・・体力が奪われるんで・・・・無駄口叩かないで下さいよ・・・。」


「わ・・・分かった・・・。」


暑さのせいで思考力が落ちて、もはや礼儀もへったくれも無い口調になっているのは十分に分かっていたが、それはタリク王子も同様で、私の言葉遣いを咎める事も無く、大人しく頷いてくれた。


 右手に壁をついて歩く・・・これは迷路に迷った時に使われる手法で、立体迷路で無い限り、ほぼこの方法を使えばゴールにたどり着く事が出来る・・・。以前彼氏と2人で遊園地に行って、巨大迷路のアトラクションに臨んだ時・・・教えてくれたんだっけ・・・って、何故こんな時に遠距離恋愛中の彼氏の事を思い出したのだろうか・・・?う~ん・・・これもこの暑さのせいだ・・・意識が朦朧としてくるが・・こんな所でゲームオーバーなんて絶対にごめんだ。必ずこのふざけたバーチャルゲームをクリアし・・・私をこんな目に遭わせたゲーム会社を訴えてやるんだから・・・。

ああ・・それにしても暑い・・暑さのせいで水の流れる幻聴が聞こえて来るなんて・・・・。

そして・・対に私は迷宮に倒れた―。



「・・・リス・・・エリス・・・エリスッ!!」


何度目か名前を呼ばれ、徐々に意識が戻って来た。そしピチャンピチャンと冷たい水の雫が顔に降り注いでいる・・・・って水?!


パチリと目を開けると、そこには私を膝枕して、水を額に滴らせていたタリク王子の姿があった。


「タ・・タリク王子・・・?」


未だ朦朧とする意識の中で私はタリク王子の名前を呼んだ。


「よ・・・良かった・・・っ!!エリス・・・ッ!お、お前・・・意識を取り戻したんだなっ?!」


タリク王子は冷たいおしぼりを私の額に乗せる涙ぐみながら顔を覗き込んできた。

慌てて起き上がろうとするも頭がグラリとして再びタリク王子の膝の上に頭が落ちてしまう。


「無理するなっ!エリスッ!俺は・・・『アルハール』の民だから・・・多少の暑さは慣れてる、だが・・エリス・・・お前は本当に危ない所だったんだぞ?水だって・・・どれだけお前に飲ませた事か・・・。」


「あ・・・そうだったんですね・・・。助けて頂いて・・・どうもありがとうございます・・・」


まさか・・口移しでなんて飲ませてないよね・・・・?ここはどうやって飲ませてくれたのか・・・聞かないでおこう。うん。


 私はまだタリク王子に膝枕された状態で辺りを見渡すと、そこは先ほどの迷宮と様子が変わっており、床から壁、高い天井までそのすべてがゴツゴツとした岩肌になっており地下水が壁から染み出て洞窟の内部には透き通った湧き水が溜っていたのだった。


「あれ・・・?何だか・・・先程歩いていた迷宮とは・・景色が違いますね・・・それに・・・とても涼しい・・・・。」


「ああ。そうなんだ・・・エリス。お前は俺に先程助けて頂いてとお礼を言って来たが・・・それは違う。むしろお礼を言うのは・・・この俺の方なんだ。有難う、エリス。俺達2人が助かったのは・・・お前のお陰だ。」


「え・・?どういう事ですか・・?」


まだ半分意識が朦朧とした状態で私は膝枕されながらタリク王子を見上げた。


「エリス、実はお前の言っていた『右手法』とやらがどうも迷宮脱出に役立ったようだ。ほら、上を見て見ろ。」


タリク王子は斜め上を指さした。するとそこには地上に続く石の階段があったのだ。

そして茜色に染まりかけている砂漠の空が見えていた。


「あ・・・出口が・・・・。」


信じられない・・・まさか本当にあの方法が成功したなんて・・・!まさか本当に彼の説が正しかったなんて・・・っ!


「どうだ?エリス・・・。もう立てそうか?」


タリク王子が突然顔を覗き込んできた。


「立てますっ!立てますから・・っ!そんなに顔を近付けないで下さいっ!」


そして慌てて立ち上がった。


「何だ?照れてるのか?可愛い奴め。」


タリク王子はニヤニヤしながら私を見つめている。・・・全く王子でなければ一発ぶん殴ってやりたいところだが・・・。しかしそんな真似をして、タリク王子を怒らせて万一にでも首を飛ばされる・・・何て事になったらしゃれにもならない。(少々大げさかもしれないが)

「兎に角、タリク王子。さっさとこんな場所ずらかりましょう。」


「ず、ずらかる・・・お・お前・・・女のくせに随分と勇ましい口の利き方をするな?」


顔を引きつらせながら私を見るタリク王子。

私だってこんな口に利き方をしたくは無かったのだが、公式設定ではタリク王子は清楚な女性がタイプとなっていたので、わざとガサツな口を効いているんですよ?等とは口に出す事も出来ず、私は言った。


「いえ。これが本来の私の素の姿ですからね。」


言いながら私はタリク王子の頭上に浮かぶ好感度の数値を見て、愕然としてしまった。何と私を熱い視線で見るタリク王子の好感度はいつの間にか450になっていたのだった—。

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