第14日目 連休2日目 そうだ、スーパー銭湯へ行こう 前編

 今日もメイドの仕事はお休みだ。本当に仕事が休みで良かった!

何せ昨日は鬼コーチのアドニスによって、『害虫駆除』の特訓をさせられて、体中が筋肉痛だったからだ。

こういう日は・・・。

「やっぱり温泉だよね~。」


 この世界には日本のように「スーパー銭湯」なるものが存在する。

ゲーム中では1度だけヒロインが対象キャラとデートでこのスーパー銭湯に行く描写が描かれていたっけ・・・。

あそこなら他にも色々な施設が充実しているから1日いても飽きないだろう。

よし、そうと決まれば・・・。

「すぐに出かける準備をしてスーパー銭湯に行こう!トビーやダンに見つかる前に!」

そしてボストンバックに着替えや洗面用具一式を詰め込むと、私は戸締りをして宿舎を後にした。

ちなみに今日の私の服のコンセプトだが・・ずばり『和』だ。

今着ている服は和装のように見えるワンピース。

ワンピースはカシュクール風のデザインで、上半身の柄は紫の矢絣で着物のような袖、ボリュームのあるスカート部分の柄は紺色のスカート、仕上げに別添えの太いリボンをウェスト部分に巻けば・・・大正時代の女学生の出来上がりっ!

編み上げブーツを履いて、日傘をさして・・・。

うん、今日のエリスもばっちり決まっているね。


「確か、スーパー銭湯がある場所って・・・『クロレンス』の駅だったよね・・?」


日傘をさして、着物の様なデザインのワンピースは流石に人目を引くのか、学生達がこちらに注目している事に気が付いた。

はっ・・・!ま、まずい・・。私は今目立っているっ!

知合い達に会ってはマズイ!日傘で顔を隠す様に私は学園の敷地を通り抜け・・・ようやく駅に到着した。


「そ・・・それにしても宿舎から駅まで遠すぎるっ!帰りは自転車を何処かで買って帰ろうかな・・・?」


日傘をパチンと閉じて、電車の路線図を見上げて切符を買っていると・・・。


「あら?もしかすると・・・エリス様かしら?」


背後から女性の声が掛けられた。ウッ!そ、その声は・・・・。

恐る恐る振り返ると、ああ!何て事だろう・・・。そこに立っていたのはオリビアとアンディだったのだ。


「オ・・オハヨウゴザイマス。オリビア様、スチュワート様・・・。」



「おや?ベネット。今日は随分変わった衣裳を着ているな?中々凝ったデザインだ。うん、いいんじゃないか?」


アンディが私の着ているワンピースに注目して来た。その様子にオリビアがピクリと反応する。


「あ、ありがとうございます・・・・。」


言いながらオリビアを見ると、私の事を何だか睨んでいるような目で見つめている。

あああ!バカバカッ!恋人の前で他の女性の洋服を褒めたら駄目じゃ無いのッ!


「あら、本当に・・・。斬新な洋服ですね。やはり小柄な方が着るとデザインが生えます事。」


チクリとさり気なくエリスの背が低い事を小馬鹿にしたような言い方に感じるのは・・・私だけだろうか?

「あの、そ・それでは失礼します。」


「待て、ベネット。」

頭を下げて立ち去ろうとするも、何故かアンディに呼び止められた。


「は、はい。何でしょうか?」


オリビアの手前、なるべく愛想笑いをしないように至って真面目顔で振り返る私。


「お前・・・凄い荷物だが、一体何処へ行くつもりだ?」


「はい、今日は『クロレンス』にあるスーパー銭湯に行ってくるつもりです。」


「お前1人でか・・・?」


不思議そうな顔で私を見る。

はいはい、そうでしょうね。普通そういう場所は友達や家族、もしくは恋人なんかと行くような場所だから・・・。


「ええ、そうですが。でもあそこは施設が色々揃っていますし、長い時間滞在も出来るので良い場所ですよ。」


「まあ。流石はエリス様。お1人の時間を過ごされるのがお上手なのですねえ。とても私には真似できない事ですわ。」


オリビアはホホホと笑いを含ませながら言う。どうせ、まるで貴女はお1人様で可哀そうな奴と心の中で思っているんだろうな。


「そんな事は無い。1人で色々な楽しみを見いだせる人間と言うのは・・・偉いと思う。いや、むしろ尊敬に値すると俺は思うけどな。」


腕組みをしながらアンディが意外な事を言った。ん?今の台詞・・・私には遠回しにたまには1人きりになりたいと言ってる様にも聞こえたが・・?

すると案の定・・。


「おい、オリビア。お前・・・・俺ばかり誘っていないでたまには違う奴等を誘ってみたらどうだ?例えばアドニスとか・・・。お前は気が付いていなかったかもしれないが、昨日反対側の駅のホームで雑誌を読みながら1人で電車を待っている姿を見たぞ?」


「ええ?!そ、そんな!アンディ様っ!」


オリビアがショックを受けた顔でアンディを見る。


アンディの台詞にも驚いたが・・・おおおっ!ほらやっぱりーっ!!アドニス・・・少なくとも貴方アンディには気が付かれていたよっ!今度会ったら何か言われるんじゃないの・・・?


「では、私はこれで失礼しますね。」


頭を下げて去ろうとした所・・。


「待て、ベネット。」


またしても引き留められた。え~もう勘弁して下さいよ・・・。さっきからオリビアが物凄い目で私を睨んでいるのが分からないの?!この男は・・。


「今度、今から行くスーパー銭湯の感想を俺に教えてくれ。もしお前の感想が良かったら、一度俺を一緒に連れて行ってくれないか?」


ええええ~っ!オリビアの前で・・・何て事を言ってくれるのよっ!ねえ、気が付かないの?オリビアが私を物凄い目つきで睨んでいるのが・・・。命が惜しいからもうそれ以上は私に関わらないでよ・・・。

ん?そうだっ!


「それでは是非、オリビア様と一緒に行かれて下さいよ。お2人は恋人同士なのですから・・・確かそこのスーパー銭湯にはカップルプランというサービスがありまして、色々特典が付いているんですよ!」


早口でまくし立てるように言いながら、チラリとオリビアを見れば、満足げに腕を組んで私を見ている彼女の姿が。


良かった・・・・。これではアンディの好感度がいつまでたっても上がらないだろうが、オリビアの好感度(そんなものがあるかどうかは不明だが)を上げた方がずっとマシだ!


「それではお2人はどうぞ楽しいデートを楽しんで来てください。それでは私はこの辺りで失礼しますっ!」


バッと頭を下げると私は逃げるように去ろうとしたところ・・・。


「ベネット!その服・・・お前に良く似合ってるぞっ!」


アンディが去り際の私に爆弾を投下してくれた。

ああ・・・何て事してくれるのよっ!アンディは・・・やっぱり私に恨みがあるんだ。だからエリスの前であんな事を・・・と思っていたが。、何とアンディの好感度は10減っていて。マイナス90になっていた。

な?何故・・?


 駅のホームで電車を待ちながら私は先ほどのアンディの好感度があがっていた理由を考えてみた。

そこで私はアンディ公式プロフィールを思い出してみる・・・。

そう言えば確かアンディはお洒落な人物で、自身も色々な洋服を集めていたっけな・・・。そう言えば今日の服もお洒落に決まっていた気がする。


「はああ~だけど・・・。」

もうオリビアの前では関わらないでよ・・・。私は溜息をつくのだった。



さて。

『クロレンス』の駅に着いた私。今日は朝から夕方までスーパー銭湯でのんびりゴロゴロしてやるっ!

意気込み勇んで私は銭湯へ向かって足早に歩き、目的地へ急いだ。


「着いたわっ!スーパー銭湯へ!」


駅から歩いて徒歩10分。

ついに私はスーパー銭湯『パラダイス』へやって来た。しかし・・何て安直なネーミングなのだろうか・・・。

入口で入湯料を払うのか・・・・いくらなんだろう?

料金表が何処かに無いか調べていると・・。


「すみません。ちょっと通して貰えますか?」


背後から若い男性の声が聞こえてきた。


「あ、す・すみません。」


頭を下げて素早くその場を避けた時・・・。


「うん・・・?お前・・・ひょっとするとベネットか?」


え・・・?見上げると、そこに立っていたのは何と浴衣姿のフレッド・モリスがそこに立っていたのだ・。

うわあ・・・私と衣装がかぶってる・・・と言うか・・。浴衣姿・・・。


「その浴衣姿・・・とても良く似合っていますね・・・。」

気が付けば、私は無意識のうちにフレッドに向かって言ってしまっていた。

フレッドは呆気にとられた顔をしていたが・・・すぐに顔を赤らめると言った。


「あ・ああ・・。ありがとう。その・・・お前もその着物姿・・・よく似合ってる・・と思うぞ。」


そこで初めて私は我に返った。

ああっ!浴衣姿の男性が・・・つい、日本の事を思い出して私は無意識に・・・言ってしまったんだっ!な・何という失態・・・。


しかし、フレッドはすごく嬉しかったのか・・・彼の好感度は60に上がっているでは無いか。

うん・・・。まあ60ぐらいなら・・・別に構わないか。モブキャラよりは数値が上がりにくいのは助かった。


「どうした?ベネット。さっきから俺の頭上ばかり見ているが・・・。」


フレッドが不思議そうに声を掛けてきた。


「い、いえ。何でもありません。それではモリス様。お先にどうぞ。」


「いいのか?」


「はい、私はその次で構いませんので。」

だから早く施設の中へ入って下さいっ!


そしてフレッドが料金を支払ったので、私もお金を支払おうと思い、財布をだそうとすると・・・。


「あ、お客様。もう先程の方がお金をお支払い済みですよ。」


「え・・・えええっ?!」



まずい、まずい、それはまずい!

慌ててフレッドの元へ行くと、彼は私が来る事を待っていたのか施設の入口の階段付近に立っていた。


「モ・・モリス様っ!」


「ああ。来たか、ベネット。」


「来たか、では無いですよ。何故私の分までお支払いしたのですか?」


「ああ。ついでだったからな。しかも・・・お前の分まで支払いしようとしたら、何故かカップルプランのチケットを渡された。」


言いながら、フレッドはヒラヒラとチケットを振るのだった—。





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