第13日目 2回目の休日 後編

 よし、多分ミッション?もクリアして、アドニスの好感度もあげた。

朝食も食べる事が出来たし・・・。ここから先は自由行動だっ!

「あの、ブラットリー様。朝食も食べ終えた事ですし・・私はこれで失礼しますね。」

そして立ち上がろうとすると、何故かジロリと睨まれる。


「ねえ・・。僕をここに残して・・・1人で何処かへ出掛けるつもりなんだ?」


何故か恨みの込められた目で私を見るアドニス


「は・・はあ・・・。すみません・・・。少し買い物をしたいので・・・。」

もごもご口籠りながらチラリとアドニスを見る。


「ふ~ん・・・・。それじゃ退屈だから僕も君の買い物について行こうかな?」


とんでもない事を言って来た。


「ええええっ?!ほ・・本気ですかっ?!私なんかの買い物につきあっても退屈なだけですよ?!」

冗談じゃない、どうでもいいから1人にさせて欲しい。


「退屈かどうかは・・・自分で決めるよ。それで?何を買いに行くの?ブティック?それともアクセサリー店かな?」


立ち上がりながらアドニスは言う。

ウウ・・・駄目だ、この人は・・・私に付いてくる気満々だ。もうどうにでもなれ・・。

「本当に・・・つまらなくても知りませんよ?」

取りあえず・・・忠告だけはしておこう。




「え~と・・・お嬢さん位小柄な方ですと・・この辺りの防具ならお勧めですよ。これは最近入荷したばかりで女性に人気が高い商品です。」


男性店員が持って来た防具は肩当と胸元がくっついているプレートアーマーだった。

アルミニウム製なので軽くて中々使いやすい素材で出来ている。


「うわあ・・これって軽いですねえ。これなら私でも装備出来そうです。だけど・・・強度はどうなんですか?」


これだけ軽いと防御力が低いのでは無いだろうか?そこが心配だ。


「ああ。それならご安心ください。ほら、ここの部分。そう胸元部分のこの赤く光る宝石です。これは物理攻撃や魔法攻撃のダメージを減らす守りの石が埋め込まれてるんですよ。」


「おおっ!そうなんですか?てっきりただの飾りの宝石だと思っていましたよ。・・・で、金額なんですが・・・どれくらいお安く出来ますか?」


すると店主はアバカスの玉を弾いて私に見せる。ぐぬぬ・・・。まだまだっ!


「もう少し安くして下さいよっ!」

私は自分の方にアバカスを向けて玉を弾き、店主に見せる。


「お・・お客さんっ!そんなに安くしたらうちの店は潰れてしまいますよっ!」


言いながらさらに玉をはじく店員。


「いやいや、それでは・・・!」


負けじと私も玉をはじき・・・。

そんなこんなで結局通常価格より10%ほど安く防具を買う事が出来た。


「・・・・。」


ふと見ると、アドニスが白い目で私を見ている。


「あの・・。何か?」


「ベネット・・・。君・・中々買い物上手なんだね・・・。」


「ありがとうございます。」

多分アドニスは半分嫌みで言ったのだろうが、ここは礼を言っておこう。


「・・・それで、何で防具屋に来たのさ?」


お店を出るとアドニスが尋ねて来た。


「それはですね・・・どうしても必要だからです。次は武器屋に行きますが・・ブラットリー様はどうしますか?」


「ええっ?!今度は武器屋に行くのかっ?!一体何故・・・?!」


アドニスはグイッと私の腕を掴み、自分の方を向かせると言った。


「ベネット・・・・。誰かと決闘でもするのかい?」


「は?」


「いや。君は・・・いかにも大勢の人達から恨みを買っていそうだからね。誰かから果たし状でも受け取って・・・・近々決闘をするんだろう?それで相手は誰だ?立会人はいるの?」


「あの・・・?」

一体アドニスは何を言っているのだろう?決闘?誰かに決闘を申し込まれるほどエリスは悪女だったのだろうか?


「何言ってるんですか。そんなんじゃないですよ。ただ・・・近々武器と防具が必要な事態になりそうなので・・・それに備えるだけです。」

あーもう面倒くさいなあ・・・。アドニス・・早く何処かへ行ってくれないだろうか・・・?よし、ここは・・・・。

私はアドニスに向き合うと言った。


「ブラットリー様。私といる所を学園の誰かに見つかると、ブラットリー様の評判が落ちてしまうと思うんです。なので誰かに見られない内に私から離れた方がよろしいかと思いますよ?」


アドニスは世間体をすごく気にする性格なので、きっと今の話で納得して立ち去ってくれるはず・・。所が・・・。


「いや。それは大丈夫だと思うな。今のベネットを誰かが見ても・・・あのエリス・ベネットだとは誰も気づかないと思うからね。だって・・・あの頃と今ではまるきり外見が違う別人のように見えるから。その・・・可愛くなったと思うよ。」


はい?今・・・何と言った?あのアドニスが・・・エリスの事を可愛いって言ったの?信じられない・・・。しかし・・・チラリと好感度の数値を見ると・・・えっ?いつの間にか数値が-40になっていた。

まあ・・・確かにエリスは美少女だと私も思っていた。どうしてゲーム中ではあんなにきついメークにド派手な衣装ばかり着ていたのだろう?あれではエリスの魅力も半減だ。

まあ、一応褒められた?のだからお礼位は言っておこう。

「それは・・・どうも有難うございます。」


「うん、と言う訳だから次の店に行こう。」


アドニスが笑顔で言う。


「へ?次の店・・・とは?」


「何言ってるんだよ。君が武器屋へ行くと言ったんだろう?この店の5軒先に僕が贔屓にしている武器屋があるんだ。そこでベネットでも扱えそうな武器が無いか僕が一緒に選んであげるよ。」


そう言うと、アドニスは私の先頭に立って歩きだした。くっ・・・本当は・・1人になりたかったのに・・・。まあでも武器の選び方なんて私には分からないから、ここはアドニスに任せて付いて行こう。

そして私たちは武器屋へ向かった・・・。



「どうだい、ベネット。これは魔法の杖だ。魔力が無い人間でも使える杖だよ。ただあまり威力が無いのが欠点かな?でもコボルトかゴブリン位なら・・・倒せるんじゃないかな?」


アドニスは言いながら杖を渡してきた。

おおっ!何だか・・・これを持っているだけで偉大な魔法使いになった気がする。


「凄いですね・・・。魔法が使えなくてもこの杖から炎とか氷の固まりとかを出せるわけですね?何て素晴らしい・・・・。」


感心したように杖を持った私をアドニスは不思議そうに見つめると言った。


「ねえ。ベネット。一体君は何を言ってるんだい?攻撃魔法を使えない人間がこの杖から魔法を出せると思ってるの?これはね、敵を殴る為の杖の形をした武器なんだよ。ほら、杖の先端に石がちりばめられているだろう?この石に魔力が掛けられていて打撃の威力が上がるようになってるんだ。それにこの魔法石の突起物だって当たると痛いだろう?こん棒よりは軽いし、長い杖だから敵に接近しなくても戦えるだろう?」


アドニスは丁寧に使い方を説明してくれるが・・・はっきり言ってこんな杖・・使えるはずが無いっ!そう言えば・・・この間、ダンゴムシを撃破した時・・・トビーが妙な事を言っていたっけ・・・。こんな杖使えるのか?打撃力も弱そうだし・・と。

これは・・・そういう意味だったのかっ!


「い・・・いえ。折角選んで頂いた武器ですが・・・と、とても私には扱えそうにないので遠慮させて頂きます・・・。」


杖を返しながらアドニスに言う。



「え~そうなのかい?何故なんだい?」


ちょっとっ!それ・・・・本気で言ってるの?!ああ・・・やっぱり駄目だ。『白銀のナイト』には一般人のレベルがどれだけ低いのか・・・理解出来ないのかもしれない。


「杖と言っても長さに限度があるじゃないですか。どう見てもこれは接近戦になってしまいますよ。私には無理です。」

仕方なく使えない理由を語る私。


「そうか・・・。この位の距離なら接近戦になってしまうのか・・。ではベネット。君は鞭を扱えるかい?」


次にアドニスが持って来たのは棘が埋め込まれている長い鞭。


「ほら、持ってごらんよ。」


アドニスに手渡されるも・・・鞭は丸められホースのようにかさばるし、棘がチクチクして持ちにくい。挙句にその重さだが・・・・。


「あ・・・あの・・とても重すぎて私には片手でなんか持てないんですけど・・・。」


両手で持ちながら必死で耐える。


「そうか・・・君は本当に軟弱な身体をしているんだねえ。背だって低いし・・それなのに君より10㎝は背の高いオリビアを虐めていたなんて・・ある意味凄いね。」


何やら変な所で感心されてしまった。


「しかしだとしたら本当に困ったなあ。この鞭がつかえないとなると・・・当然鎖鎌も使えないだろうし・・・。」


鎖鎌?!そんなレベル?の高い武器をこの私が扱えるはずが無い!ああ・・・こんな事ならこの間害虫駆除で使った、あの雷が出てくる杖の方がずっと使える・・。ん?待てよ・・・。そう言えば・・私は肝心な事を忘れていた。

そうだっ!あの『害虫駆除』のスキルはいつでも発動可能とメッセージが表示されたでは無いか・・・!それなら私に武器は必要無いっ!


「あの・・・ブラットリー様。」


私はアドニスに声を掛けた。


「何?ベネット。」


「私の為に色々武器を探して下さってありがとうございます。でも私には特別な武器がある事を思い出しました。なので武器はもう必要ありませんので大丈夫ですよ。」


そして最後にスマイル。よし、これで納得するだろう。



「武器って・・・どんな武器なのさ。この僕がどれ程の威力があるか見てあげるよ。」


疑い深い顔で私を見て来るアドニス。あ・・・もしかして自分を帰そうと思って私が嘘をついていると思っているのかも・・・。なら仕方が無い。


「ええ、分かりました。では・・・お店の中では何ですので・・一度外へ出ましょう。」


店を出たアドニスが言う。


「それで?ベネットが持っている武器ってなんなのさ?」


腕組みしながら尋ねてきた。


「ええ。今お見せしますよ。」

とは言ったものの・・・あの杖・・・・どうやって出すんだろう?ええい、こうなれば自棄だ。


「害虫駆除っ!」


言いながら右手を差し出すと・・・おおっ!何と差し出した私の手にあの時華麗に活躍した杖が現れた!


「うわっ!」


流石のアドニスも突然現れた杖に驚く。


「それでは見ていてくださいね・・・。」


私は数メートル先の地面に杖を向けた。するとたちまち杖からピカッ!と雷が放出され、地面に直径1m程の穴を開ける。



「うわあっ!べ、ベネット・・・君、いつの間に魔法を使えるようになったんだい?!」


アドニスは驚いた様に私を見る。


「いえいえ・・・それ程でも。」

理由は言わず、適当にあしらう。


「う~ん・・・だけど魔法のネーミングのセンスはあまり良く無いね。『害虫駆除』なんてさ。」


グウッ!痛い所を突かれてしまった・・・。


「ま、まあネーミングのセンスなんて大した問題ではありませんよ。でもこれで分かりましたか?もう私には武器は必要ありませんので、それではこの辺りで失礼しますっ!」


脱兎の如く逃げようとして・・・私は腕を掴まれた。


「待ってよ。折角だから僕と戦闘の訓練をしよう!」


ええ~っ!!そ、そんな・・・・。

そしてその後・・・アドニスが投げるボールを私が杖を振るって雷で破壊する・・・という訓練を2時間も受けさせられる羽目になってしまった。



その夜の自室にて・・。


「ううう・・・。腕が痛い・・・。あの鬼コーチめ・・・。でもアドニスの好感度が20にまで上がったから・・・良しとしよう。」


そして私は眠りに就いた―。



『お疲れさまでした。第13日目終了致しました。<害虫駆除>のレベルが10に上がりました。雷レベルが上がりました。新たに「火山雷」を放出する事が可能になりました。是非ご活用下さい。』














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