第14日目 連休2日目 そうだ、スーパー銭湯へ行こう 後編
そこへピロンと液晶画面が表示される。
『攻略対象とも大分好感度が上がってきたので、本日はフリートークモードで会話を進めて行って下さい。従い、好感度のゲージを今から非表示にさせて頂きます。』
え?嘘でしょう?好感度・・・見えなくしちゃうの?
そして・・・ハートのゲージは無情にも消えてしまった。
「ああっ!そんな!行かないでっ!」
思わず私は誰かが聞けば誤解されそうなセリフを叫びつつ・・・フレッドの頭上目掛けて手を伸ばし・・・彼の胸に飛び込んでしまった。
「・・・・。」
固まっているフレッド。
あ・・・駄目だ。終わった・・・私・・・。今にフレッドが抜刀して・・・
『ベネットッ!貴様・・・っ!』
そう言って切りかかって・・・。
・・・・・・。
ん?。
おかしい。何故だ?フレッドがちっとも動かない。それに周りの人達が私達を見てクスクス笑ってる。
中には
「お似合いのカップルね~。」
等と言ってる、おば様達まで・・・。
ハッ!
そこで私は気が付いた。ハートのゲージが消えたショックで私は未だにフレッドの胸に自分の頭を押し付けていた事に!
慌ててフレッドから飛び退き、頭を下げる。
「も、も、申し訳ございませんでしたっ!モリス様っ!とんだご無礼を・・・。ど、どうか命だけはお許しを・・・。」
「・・・。」
しかしフレッドからは何の反応も返って来ない。そこで恐る恐る顔を上げてみると・・なんと、フレッドが顔を真っ赤にして口元を押さえているでは無いかっ!
え・・?ひょっとして・・・まさか・・このエリスに照れているのかっ?!
しかし好感度のゲージが非表示となった今、それを確認する手段が今の私には無い。
「あ、あの・・・モリス様・・・?怒ってらっしゃいませんか・・・?」
恐る恐るフレッドに尋ねると、フイと視線を逸らせて言った。
「お、怒る?一体何をだ?」
「いえ、ですから・・・いきなり飛びついてしまった事について・・・・ですが・・。」
「な・・・何故?何故そこで俺が怒ると思ったんだっ?!」
するとフレッドがムキになって言う。
「いえ、私は『嫌われ者のエリス・ベネット』ですから。」
「だ・・・誰が嫌われ者のエリスだと言った?別に俺はお前の事を嫌ってなどいないぞ?」
フレッドが顔を赤らめ、視線を逸らせながら言う。
「あ、で・でも別にだからと言ってお前が好きとかそういう訳ではないからな?」
「ええ。そんな事は百も承知ですから。」
笑顔で言うと、一瞬フレッドが残念そうな顔をした・・・ような気がするのは私だけだろうか。
「あ、いやいや・・・そんな事よりもモリス様・チケット代ですよ!私の分まで払ってしまって・・。おいくらだったんですか?半分支払いしますよ。」
すると財布を出す手をフレッドに手を掴まれて止められた。
「いいんだ、エリス。こういう時は男が普通支払うものだ。」
「いえ。ですが・・・私達別に一緒にこちらのスーパー銭湯に来た訳では無いじゃないですか。」
「いいから、俺に支払わせとけっ!これは俺の・・・気持ちだっ!」
おおっ!気持ちだって言いきっちゃったよ!そしてフレッドは何故か未だに私の手を握りしめている。
「あの~モリス様・・・。」
「何だ?」
「そろそろ・・・手、離して貰えないでしょうか?」
「う・・・うわあああっ!す、すまない!」
バッと勢いよく私の手を振りほどくフレッド。いえ、別にいいんですけどね・・・。何故そこまで大袈裟に驚く?
「いえ、私は大丈夫です。・・・すみません。では謹んで本日はお風呂・・・奢って頂きます。ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げる。
「う、うん。最初からそう素直になっていればいいんだ。その方がずっと可愛げが・・。」
そこでフレッドは言葉を切った。うん?もしかして・・・可愛げがあるって言うつもりだったのかな?ハハハ・・まさかね~。
「ところで、カップルプランてどういうのがあるんでしょうかね?」
私が尋ねるとフレッドも首を傾げる。
「さあな・・。実は・・この施設を使うのは今日が初めてなんだ・・・。」
「偶然ですね。私もです。あ、あそこにプランの説明が書いてありますよ。見に行ってみましょう。」
2人で壁に貼ってあるプランの一覧表を見る。
へ~どれどれ・・・。
『カップルプラン』※但し、必ずご一緒に行動お願いします
1 ペアの浴衣プレゼント
2 お食事券(ドリンク1杯無料)
3 お休み処(5時間まで無料)
4 お部屋のアメニティプレゼント
おおっ!これはなんてナイスなプランなのだろう!正に昨日の疲れを癒すには最高の場所だ!
「来て良かったですね。モリス様。」
笑顔で隣に立っているフレッドに声を掛けると、何故か彼は顔が真っ赤に染まっている。うん・・・?何故だ?まだお風呂にも入っていないのに・・。
「それではモリス様。ここで待ち合わせをしませんか?え~と・・・今は9時半ですから、3時間後の12時半にここで落ち合うのはいかがでしょうか?」
私が尋ねると、ますますフレッドは顔が真っ赤になる。
「な・・・何っ?!ベネットッ!お・お前・・・ほ、本当にいいのかっ?!」
「え?何がですか・・・?と言うかむしろその台詞私が言うべきものかと・・・。私みたいな者ですが・・御一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」
ああ・・早く浴衣が見たいなあ・・・。
最早私の頭の中にはお風呂と浴衣の事しか頭に無く、いちいちフレッドの顔など確認してはいられなかった。
「あ・ああ・・・。お、俺は別に全然か・構わないが・・・。」
何故かつっかえつっかえ台詞を言うフレッド。・・・どうしたのだろう?
でも、まあいいか。
「それではモリス様。3時間後にお会いしましょう。」
私はブンブン手を振ると、さっさと女湯へ向かって行った。
「おお~っ!お風呂最高っ!」
広くてゆったりしたお湯がたっぷり張られた温泉・・・。ウウう・・・嬉しいよ・・・。
こっちの世界に来てからはいつもシャワーばかりで味気なかったんだよね・・。
やっぱり日本人は温泉でしょう?!よし!決めたっ!今度から毎週ここの温泉に来る事にしよう。そうだ、帰りに会員証を作って帰ろうっと!
その後は水風呂に入ってみたり、岩盤浴に入って見たりと・・・。お陰でお肌はつるつるピカピカ。石鹸も高級だったのか、身体中からいいにおいがするし・・。
うん、エリスの美貌も2割増ししたかもしれない!
鏡を見るとお風呂で薔薇色に染まった頬の美女エリス・・・。これは・・・・私が男だったら、完全に惚れてるね。
そして脱衣所にある時計を何気なく見て・・・。ま、まずい!待ち合わせの時間まで残り10分しかないっ!
私は慌ててカップルプランの浴衣に手を伸ばした・・・。
慌てて待ち合わせ場所に着くと、そこには既に浴衣に着替えたフレッドの姿があった。窓の方を向きながら、左右の腕を反対側の袖に突っ込んで佇む姿は流石、イケメン。ゲームスチルさながらのいでたちで立つ姿に周囲の若い女性からは熱い目で見られ・・・ってそんな事言ってる場合ではっ!
「す・・すみませんっ!お待たせしました、モリス様っ!」
「いや、別に大して待っては・・・。」
言いながら私の方を振り向いたフレッドの顔が真っ赤になり、口元を押さえてそっぽを向いた。
「可・・可愛い・・・。」
うん?今可愛いって言われた気が・・・?
「あの・・モリス様?」
声を掛けると、慌てたように私を振り向くフレッド。
「あ、い・いやっ!な・・何でも無いっ!そ、それじゃ・・しょ・食事に行くかっ!」
何故か力を込めて言うフレッド。
「はい!お腹ペコペコです!すぐに行きましょう!」
食事はいわゆるバイキング形式だった。
私はフレッドが止めるのも聞かず、ありとあらゆる料理をちょこちょこ取り・・・結局半分残してしまい、フレッドに白い目で見られる羽目になった。
うう・・・それにしてもエリスの身体はこんなにも食べる事が出来なかったなんて・・。だからこんなに細いのか。だけど悔しい事に出てるところはちゃんと出てるんだよね。小柄な体つきだけど、エリスは抜群にプロポーションが良かったのだ。
「ウウ・・・残念です・・・。もっと食べたかったのに・・。」
私が言うとフレッドが注意する。
「おい、ベネット・・・。自分で自分の食べる事の出来る許容範囲が分からないのか?食べ物を無駄にするんじゃない。」
まるでお母さんのような台詞を言う。
「はい、すみません。お母さん。」
「おい、誰がお母さんだ。」
フレッドにコツンと頭を小突かれてしまった。
実はここ数時間でかなりフレッドと親しくなり、冗談を言い合う中までになっていた。現在の好感度の数値は分からないが・・・この様子だと100には至っていないだろう。せいぜい60前後かなあ・・・。
「ベネット、飲み物は何にする?」
フレッドがおもむろに尋ねて来た。
「あ、そうでしたね。フリードリンクの券があったんですよね?ここアルコールありましたよね・・・?」
「おいおい・・お前まさかアルコールを頼むつもりじゃ・・・。」
「ええ、そのまさかですよ。いいじゃないですか。私はアルコールを飲める年齢なんですから・・・。」
「い、いや・・・。そんな事より、お前飲めるのか?」
「ええ、勿論飲めますよ。(日本にいた頃はね)」
と言う訳で、私はかなり度数強めのカクテルを一杯注文し・・・・。
ものの見事に意識を無くしたのである・・・。
う~ん・・・・。頭が痛い・・。なんか床が柔らかいな・・・・。ベッドの上かな?
瞼が重くて開かないな・・・。それよりも喉が渇く・・・。
「み・・・水・・・。」
すると・・・誰かが近くに来たのだろうか、気配を感じた。
そして頭の下に腕を差し込まれ、頭を上げられた・・・?
その直後、何か唇に柔らかいものが押し当てられ・・・水が口の中に入って来る。
ああ・・・お水だ・・・・。
口の中に流し込まれた水を飲み干すと、私は再び満足して眠りに就いた・・・。
「おい、エリス。起きろ。」
誰かが私を揺すってる。う~ん・・・まだ眠っていたいのに・・・。
「おい、エリス。いい加減にしろっ!いつまで眠っているつもりだっ!」
その声に私は一気に目が覚め、ガバッと飛び起きる。見るとそこは見慣れぬ部屋で私はベッドの上で眠っていた。
「あれ・・・ここは・・・?」
「何だ?覚えていないのか?ここはカップルプラン限定の貸し部屋だ。」
何故か背中を向けて話すフレッド。
「あ・・・そう言えばそんなプランありましたよね・・・。と、所で・・お水ありますか?喉が渇いちゃって・・・。」
「な・・何っ?!み・・・水だと・・・っ?!」
振り向くフレッドの顔はまたもや真っ赤になっている。一体さっきから何をそんなに真っ赤になってるのだ・・・?
「はい。コップに水を頂ければ・・・。」
「あ、ああ。そうだな・・・。よ、よし。少し待て。」
フレッドは言うと水差しの水をコップに注いでくれた。
「ありがとうございます。」
それを受け取り、一気飲みする私。
ゴクゴクゴク・・・。
ふう・・・美味しかった。
「所でモリス様。今何時ですか?」
「ああ。夜の7時だ。」
へえ・・そうですか。夜の・・・。
「ええええっ?!よ・・・夜のし・・・7時ですかっ?!」
「ああ。お前がアルコールに酔ってしまったからやむなくここへ連れてきて休ませてやった。一応滞在時間ぎりぎりまで休ませていたが・・・起きる気配が無かったので・・・。」
「それはそれは・・大変失礼な事を・・・。私ごときの為に貴重な時間を・・・。」
「いや、そんな事は無い。・・・今日は久しぶりに・・楽しい休暇を過ごせたよ。何処かで軽く食事でもして帰るか?」
そして私たちはこの施設でパスタ料理を食べ・・・学園へと戻った。
その帰り道―。
「あの、モリス様・・・。」
「モリスじゃない、フレッドと呼んでくれ。エリス。」
あれ・・気付いてみればフレッドが私をエリスと呼んでいる。
「では、フレッド様。聞きたい事があるのですが・・・。」
「うん、何だ?」
「ダンジョンって知ってますか?」
「ダンジョン?何だ、それは?」
奇妙な顔をされてしまった。
「いえ、何でもありません。」
うん、そうだよね。ダンジョンなんてあるはず無い・・・・。
「何だ、気になるだろう?言ってみろよ。」
「い、いえ・・・ゆ・夢の話ですから・・・。」
うん、そうだよ!ダンジョンがこの乙女ゲームにあるはずが無い!
そして私とフレッドはたわいもない会話を続け・・・気付けば、そこは学園の敷地内だった。
「・・・ここから一人で帰れるか?エリス。」
満月を背にフレッドが尋ねて来た。
「ええ、勿論大丈夫ですよ。今日はお世話になりました。それでは失礼しま・・・す・・?」
その時・・・じわじわとフレッドの頭上に好感度のハートが出現し、私はその数値を信じられない思いで見つめた。
好感度・・・・150・・・。
う・・嘘・・・い、いつの間に・・・・?
フレッドの顔を見上げれば・・・。うっ!な・・・何故?何故、そんな潤んだ瞳で・・・わ、私を見つめているっ?!
その時、突然フレッドが口を開いた。
「エリス。実は・・。」
フレッドが口を開きかけたその時・・・。
「あ・・・明日も朝が早いので、この辺で失礼しますねっ!そ、それではおやすみなさいっ!!」
そして脱兎の如くその場を逃げ出した・・・。
マズイマズイマスイ!好感度を上げ過ぎたっ!
明日からはもっと慎重に行動しなければ・・・ゲ・ゲームオーバーだっ!!
その夜—
『第14日目お疲れさまでした。おめでとうございます。攻略対象のフレッド・モリスと初めてのキスを交わされました。これより彼は貴女の味方になります。ヒロインに奪われないように頑張って下さい。明日からメイドの仕事に<ダンジョン探索>が追加されます。怪我にはご注意下さい―。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます