ミッション 4 攻略キャラを1人選び、好感度を上げろ
『悠久の大地で君を待つ』
このゲームは、得体の知れぬ闇の力によって荒廃した大地を、元の美しい世界に戻す為に各国から集められた18歳~20歳の選ばれた若者たちが『エタニティス学園』で魔術と学問を学び、特殊能力を開花させていく。
そしてゲーム中には秀でた能力を持つ7人の男性が登場する。彼等は『白銀のナイト』と呼ばれるメインヒーロー達である。
そして彼等はヒロインと恋に堕ち、恋仲になったヒロインとヒーローが力を合わせて無事に美しい大地を復活させるまでを描いた恋と冒険の物語・・・。
そして私が演じなければならないキャラクター、エリス・ベネットはヒロインのライバルキャラであり、彼女を徹底的に苛め抜いて学園を追い出そうと目論む、とんでもない性悪な伯爵令嬢だったのだが・・・。白銀の騎士達のお気に入りであったヒロインを虐めるエリスを彼等は当然許すはずもなく・・・。
世界が平和になった後日、メインヒーロー全員から裁判にかけられてエリスは投獄されてしまう。
しかも罪状が「ヒロインを暗殺しようとした疑惑罪」ときたものだから笑えない。
そしてエリスの家族は家の名誉を守るために彼女を絶縁するのだった―。
そんな絶望的な状況の中、「エリス」になって全員の好感度を上げてゲームクリアを目指さなくてはならないなんて・・・!
大体私はこのゲームのヒロインが正直に言うと好感を持てなかった。自分でプレイしておいてなんだが、このヒロインはなかなかあざとい。攻略キャラには良い顔ばかりするくせに、同性キャラ、及びモブキャラに対しては我が儘な態度を取る事もしばしばあった。
中にはそのギャップが面白く、ヒロインが可愛らしいと一部のユーザーからは人気があったが、私はそうはおもえない。
なにしろこのヒロインが狙う攻略キャラの中には、婚約者がいる相手もいた。にも関わらず、彼を自分の魅力で堕としてしまったのだ。しかも婚約者は同じ学園に通う女生徒だったのだから、これまた驚きだ。
それでも許されてきたのは彼女がゲームのヒロインだったからである。
ちなみにゲーム中、そのキャラの攻略難易度が最も高かったのは言うまでも無い。
何はともあれ、このヒロイン。そんなこんなで、ゲームの条件次第では女版ハーレムを作る事すら可能なやり手の女。傍から見れば悪女にも見えるが、それでも周囲から許されてしまうのは、さすが御都合主義のゲームである。
皆がヒロインの味方であった。たった1人を除いては。
その人物こそが今の私、エリス・ベネットだ。
とことんヒロインを虐め抜いたのが悪役令嬢として扱われたエリスである。だが、彼女の方が自分なりのポリシーを持って行動していたので、私はエリスの方が好感を持てた。
実際、自分のブログにエリスの方が素直で可愛いなんて書き込みをした事もあったくらいだし。
・・・だからだろうか?私がこのバーチャルゲームのモニターにされてしまったのは。
通常のゲームなら喜んでプレイしていただろう。
だがしかし、私自身が「エリス」となったバーチャルゲームではそうも言っていられない。何故なら私に課せられたのは自分の命を懸けてゲームクリアを目指す事。
これは大袈裟な言い方かも知れないが、もしクリア出来なければ、一生ゲームの世界に閉じ込められてしまう事になるのだから命がかかっているも同然。
全く・・・何て難易度が高いゲームなのだろう。何しろエリスはメインヒーロー達に徹底的に嫌われている。恐らく彼等の中での私は、居ても居なくても構わない存在どころか憎しみの対象として見られているはずだから質が悪い。でもそれは当然の事だろう。誰だって自分達の大切な女性が執拗に嫌がらせを受ければ、その相手を憎むのは当たり前。
攻略キャラの中には血の気が多いタイプもいる。もし私がその相手の前に現れようものなら剣を抜かれたり、銃口を突き付けられるかもしれない。
それを想像するだけで、背筋が寒くなって来る。
・・・そんな私が彼等の部屋の掃除を許されるはずは無いでしょう?
私の勘では恐らく半径5m以内にも近寄る事が出来ない気がする。
どうせならもっと違うお仕事を増やして欲しかったな・・・。
そう、例えば花壇の手入れとか・・・。第一、攻略対象の好感度を上げない限りはまず部屋の掃除なんて難易度の高い仕事が出来るはずは無い!
すると、そんな私の心の嘆きを察したのか・・・
ピロ〜ン
再びウィンドウが出現し、文字が表示された。
『ミッション4 攻略キャラを1人選んで好感度を上げろ』
出た、出ちゃったよ・・・。このミッションが。
このゲーム、本気で私をゲームオーバーにさせたいのだろうか?
あの単純男のジェフリー・ホワイトの好感度を上げるだけでもあれ程苦労したのに、さらに今日も好感度を上げるミッションをクリアしないとならないわけ・・?
どうしよう。前回はジェフリーから私に会いに来たけれども、今回はそうもいかない。第一、白銀のナイト達は今授業中。そして私はただのメイドで仕事に追われる?生活。私と彼等を繋ぐ接点など無い。
「はあ〜悩んでいても仕方ないか。掃除の続きでもしよっと。」
私は気合を入れると、より一層トイレ掃除に励み、授業の休み時間に入る頃には私が担当した全てのトイレは水垢も無い、ピカピカの見違えるほど美しいトイレへと変わっていた。
うん!我ながら完璧な仕上がりだ。それにしてもあの従業員達は今までどんな掃除をしていたのだろう。ちゃんと掃除すればこんなに綺麗になるのに・・。
その時授業終了のチャイムが鳴った。
「あ!いけない。授業が終わっちゃた!急がなくちゃ。」
何故かこの学園の学生達は従業員達を馬鹿にしている。
まあ、元々は有名な子息、御令嬢揃いの学園だから自分たちの使用人と同じ扱いをして構わないのだと思い込んでいる節がある。
兎に角なるべく学生達の目に触れないように退散しなくては・・・。
私は手早く掃除用具をしまうと、逃げるようにその場を後にした。でも立ち去る間際にこんな会話が聞こえて来た。
「うわあ!何?今日のトイレすごく綺麗なんだけど!」
「本当だ!鏡も、蛇口も光ってるよ!」
等と、女生徒の騒ぐ声が聞こえて来た。フフン?どうよ、この私の掃除の実力は。
内心ほくそ笑みながら私は校舎を後にした。
今は学生達の休み時間。
私はアンと一緒に裏庭の掃除をしていた。
「どうだった?トイレ掃除・・・きつくなかった?」
ほうきで庭を掃きながらアンが尋ねて来た。
「うううん。ちーとも!だって私、トイレ掃除が大好きだから。ねえ、トイレ掃除って他の従業員の人達と交代制なの?」
「うーん・・・。基本、トイレ掃除は私達新人の仕事なんだよね・・・。」
ザッザッ
アンは砂埃を巻き上げながらほうきで地面を掃いている。
「う、うわっ!ゴホッ!アン!強く掃き過ぎだってば!」
咳き込みながら訴える私。
しゃがんで草むしりをしていた私は見事に土ぼこりを浴びてしまったのだ。
「あ!ごめん!エリス!私・・・どうも不器用な所があって・・。」
慌ててアンは謝罪してきたが・・・う~ん・・・確かにこんなに不器用でよく今迄メイドとしてこの学園で働く事が出来ていたなあ・・・。
「それで、さっきの話の続きだけど、トイレ掃除は暫く続けていけるんだよね?」
「うん、そうだけど・・・。でもエリスって変わってるよね。普通ならトイレ掃除なんて皆嫌がる場所をやりたがるなんて・・・。」
アンは首を捻りながら言う。
そうか、アンは知らないんだね?トイレ掃除を綺麗にすると運気が上がるって言われているんだよ?これはきっとどこの世界でも通用する話だと思うんだけど・・・。
「そっか、やれるのか。良かった〜。ねえ、アン。庭掃除は私がやっておくよ。そろそろリネンが乾く頃じゃない?そっちをやってきて良いよ。」
私は立ち上がると言った。だって言っちゃ悪いけど、アンと庭掃除してると返って汚れてしまうからだ。1人でやった方が効率も良いし、何よりスキルポイントが溜まりそうだ。
「本当に?いいの?!」
アンの目が輝く。
あ、そんなに庭掃除嫌だったんだね。
「うん、良いよ。私掃除好きだし。構わないから行っておいでよ。」
「ありがとう、エリス!」
アンは手を振って走り去って行く。私も手を振って見送ると、鼻歌を歌いながらほうきで掃除を開始した。
その時だ。
庭の奥から声がした。
「何・・・?エリスだと・・・?」
え?
私はその声に振り向いて固まってしまった。呆然とした表情で私を見るのは、攻略対象である白銀のナイト、アベル・ジョナサンだったのだ。そして予想した通り、好感度を表すハートのゲージは青く染まり、数値は−100を示している。
カラーン・・・・。
私は思わずほうきを落してしまい、乾いた音が校舎に響き渡る。
ああ、なんて事だろう。木の陰にベンチがあり、そこに人がいるとは思いもしなかった。このアベルと言う人物はヒロインに一番最初に陥落された男性である。スピアの使い手で若干低めの身長を気にしている設定だったっけ・・・。
でもアベルも数値が−100と言う事は・・・うん、間違い無い。この世界はヒロインが作り上げた女版ハーレムのエンディング後の世界だ・・・。
私は頭の中でそれら全ての事を一瞬で、脳内処理をした。
「おい、お前は本当にあのエリス・ベネットなのか?」
その時またしてもピロ〜ンと音がなり、メッセージが表示される。
『1 はい、そうです。と答える
2 いいえ、人違いです。と答える
3 無言を通す』
2も3も選択肢としてはあり得ない。ここは無難に1を選択だ。
「はい、そうです。」
「信じられない・・・顔の雰囲気も性格も全然違うし、何より掃除を鼻歌を歌いながら楽しげにやっているなんて!おい、正直に言え!お前は何者だっ?!」
指さしながらギラつく目で私を睨み付けるアベル。
ゴクリ。
あまりの緊張に息を飲み込む。あ、あの・・・非常に怖いんですけど・・・。
すると再び選択肢が現れる。
『1 ごめんなさい、嘘ですと答える
2 こんにちはと言う
3 証拠を見せましょうか?と言う』
1も2の選択肢も相手の怒りを買うだけでしょ。と言う事は、残りは3しか無いのだが・・・。
ええっ?!証拠?証拠って何?!証拠・・・証拠・・証拠・・・あった!
「おい!どうした。早く答えろ!」
アベルはその子柄な身体に似合わず、大声を上げた。思わず身体が縮こまるが、私は言った。
「なら・・・証拠をお見せしましょうか?」
「ふん・・・ならすぐにその証拠とやらを見せろ。」
「はい、では・・・。」
仕方ない、あれを見せるしか無いか・・・。
「では、少しだけジョナサン様のお側に行く事をお許し下さい。」
こうでも言わなければ、側に行く事も出来ない。
「?あ、ああ。」
私は許可を貰って、アベルに近寄って見上げた。
ふ〜ん・・ゲーム中ではヒロインと身長差が無いけど、エリスよりは背が高いんだね。
そう思いつつ、私は言った。
「では・・・。」
私はメイド服の胸のボタンを外し始めた。
「お?おい、一体お前は何をするつもりだ?!」
アベルの焦り声が聞えるが、証拠を見せなくてはならないのだから仕方がない。
私はバッと前をはだけると、くるりと後ろを向いて背中を見せた。
「どうですか?ご覧下さい。」
私は大きく広げた背中を見せた。下着を見せる事にはなるが、この際やむを得まい。
「な、な、何を言うんだ!お、男に肌を見せる等・・・とんでもない破廉恥な女だ。お前は!!」
へ?何を言ってるのだ?
私は背中を見せたまま、振り返るとアベルが顔を真っ赤にして、視線をそらしている。
「そうではありません。わたしの背中に浮き出ている模様をご覧下さい。」
実はエリスの身体には特別な特徴があった。元々エリスの家系には妖精の血筋が流れており、代々直系の人間には身体の何処かに蝶の模様が浮き出ている。エリスはそれが自慢だった。なので学院主催のダンスパーティーには、いつも背中が大きく開いたドレスを着て、自慢げに見せていたのは有名な話であった。
「どうですか?背中に蝶の模様はありましたか?」
「あ、ああ・・ある・・。た、確かにお前はエリス・ベネットに間違い無いようだ・・。」
戸惑いながらもアベルは納得してくれたようだ。
「信じて頂けたのですね?どうもありがとうございます。」
私はにっこりと微笑むと言った。
「それでは掃除の続きがありますので、これで失礼致しますね。」
深々と頭を下げると、落ちていたほうきを拾い上げて再び掃き掃除の続きを始めた。
その様子を何故かじ~っと見つめているアベル。
「あ、あの・・・何か・・・?」
恐る恐るアベルに尋ねる。お願いだから早く何処かへ行ってよ。緊張してしまうじゃ無いの・・・。
「いや、中々手際が良い掃除だと思って見ていたんだ。」
「ア、ハハハ・・・。左様でございますか・・・。」
愛想笑いをしつつ、何とか心を無にして掃除を続けていると突然アベルが言った。
「ひょっとすると・・トイレ掃除をしたのもベネット、お前か?」
「はい、そうですが・・・。」
「ふむ・・・。女子生徒達が先程、トイレがすごく綺麗だと騒いでいたが・・まさかあの場所を掃除したのもお前だったとは・・・。」
何やら口の中でブツブツ呟いている。
どうでもいいから早く何処かへ行って欲しい。先程から監視されているようで胃が痛くなってきた・・・。
「よし、決めた!」
「はい?」
突然のアベルの大声に私は驚いて振り向いた。
「今度、俺の部屋を掃除しに来い!お前なら他のメイドよりも綺麗に掃除が出来そうだからな。」
え?今何を・・・・。
その時私は気が付いた。
アベルの好感度のゲージが-80になっていたのだ。
嘘!いつの間にか好感度が上がっていた!
その時。
ピロリ~ン。
再び液晶画面が表示された。
『おめでとうございます!ミッションクリアです。』
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