ミッション 3 スキルポイントを貯めろ

 よし、リネン室にあった大量の洗濯物は全部魔法の洗濯機?へ放り込んだ。

あ~それにしても・・・お腹減ったなあ・・・。

そんな私の心を見透かしてか、アンが言った。


「お腹空いたよね。さっきの厨房へ行って朝ご飯でも食べに行こうか?」


「うん!行こう、行こう!」

良かった、やっと朝ご飯にありつける。それにしてもなんてリアルな世界なのだろう・・。バーチャルゲームの世界なのにお腹が減るなんて・・。



今朝の朝食のメニューはトーストにレタスのサラダ、そしてベーコンエッグだった。


「よう、お疲れさん、2人とも。・・・と言っても一番働いているのはエリスだよな。ほら、お前には特別にこれをサービスしてやる。」


言うと料理長のガルシアは私の皿に目玉焼きを1枚多く追加してくれた。


「あ!ずるいな・・・ガルシア。やっぱり所詮あんたも男ね。美人には弱いんだから。」


頬を膨らませて文句を言うアン。


「それは違うぞ、アン。お前なあ・・・いい加減早起きに慣れろよ。今朝だって起きれなかっただろう?エリスがいなけりゃまた大遅刻するところだったじゃないか。」


ガルシアは呆れたように言う。


「何よお・・・そんな事言うならあんたが起こしに来てくれればいいでしょ。」


プイと頬を膨らませるアン。


「お前なあ・・・俺が起こしに行ける立場だと思ってるのか?」


 そんな2人のやり取りをじっと聞きながら朝食を食べている私は気が付いてしまった。間違いない。この2人・・・付き合っているな?!

考えてみれば厨房で食事をするなんておかしな話だ。

恐らく2人は付き合っているので、仲良くここで食事を取っていたのだろう。

と言う事は私は完全にお邪魔虫では無いか。・・・うん、お昼からは私は食堂で食事を頂く事にしよう・・・。

心に固く誓った。


 朝食を食べ終えた頃にアンが他の従業員の人達に挨拶しに行くからと、私を隣の部屋の食堂に案内した。

食堂の中には女性3名、男性4名の若い従業員たちが食事をしている最中であった。

女性はみんなメイド服を着ており、男性は白いシャツに茶色のベスト、同じく茶色のズボンをはいている。


「皆さん、お食事中すみません。本日から一緒に働いて貰う事になったメイドを紹介したいので、顔を上げて頂けますか?」


アンの呼びかけに全員がこちらを見る。


「皆さん、初めまして。私はエリス・ベネットと申します。本日よりこちらでお世話になる事になりました。どうぞよろしくお願い致します。」

そしてペコリと丁寧に頭を下げる。


「ああ・・エリスって確かあの・・・。」


1人の女性がこれ見よがしに大きな声で言った。うん、やっぱりばれてるよね。


「ええ?あのメイドが?!やだあ~確か貴族の令嬢だったはずじゃ無いの?」


「嫉妬に狂った女って言われているよね、確か。」


クスクスと数名のメイド達が私を見て意地悪そうに笑っている。まあ仕方が無いか・・・。でもこれで私は今後いじめられたりするのなかなあ・・?

心の中で溜息をつくと、今度は男性陣が騒ぎ始めた。


「ええっ!嘘だろう、あの女が・・・性悪女の伯爵令嬢エリスか・・?」


うん?エリスはそんなあだ名をつけられていたのか?


「何だか外見が随分変わって分からなかったぜ。」


「ああ、確か前に見た時は、もっときつい顔にド派手な化粧をしていたよな?」


「確か、相当な悪事を働いて、『白銀のナイト』達の怒りを買って牢屋に入れられたって聞いていたがな・・。」


全く・・・本人を前にこれ程堂々と私についての話をするとは・・・なかなか度胸がある人達だ。しかしここでめげていても仕方が無い。

液晶画面が表示されないって事は・・・ここにいる人達はゲームの中のモブキャラの様だし、とりあえずはもう一度きちんと挨拶をして置こうかな?


「はい、私は確かに元貴族の令嬢でした。けれど両親からも絶縁され、今はここにしか居場所はありません。生まれ変わった気持ちで誠心誠意をもって仕事を頑張りますので皆さん、どうぞよろしくお願い致します。」


するとすぐに返事が返って来た。

「あ~はいはい。それじゃせいぜい一生懸命働いてくれよな。」


従業員達のリーダーの男だろうか?

立ち上ると言った。

「それじゃ、全員自己紹介でもしておこうか?俺はトビー・ウッド。勤続年数は3年の一番の古株だ。おい、それじゃ次はお前だ。」


指名されたのは小柄の少年。面白くなさそうに立ち上がると言った。

「ニコル・ストーン。よろしく・・・。」


え?それだけなの?

私がじっと見てもニコルという少年は知らんぷりで食事を続けている。


「よし、次はお前だな。」

トビーが指名したのはニコルとは正反対のがっちりとした大柄の男。


「ダン・スナイダー。・・・ま、せいぜい仕事に精を出すんだな。」

ぶっきらぼうに言うと、ドスンと音を立てて椅子に座る。


「それじゃ、次はお前だな。」

次の男は長い髪を後ろで1つにまとめた男だった。うん、この中では一番イケメンかもしれないし、真面目そうで人間的にもまともに見える。


「俺の名はジョージ・クライス。おい・・お前、俺にはちょっかい出すなよ。」

そう言うとギラリと鋭い視線で睨まれる。

うっ!な・・・何よ。この男。何だか腹が立ってきた。前言撤回、こんな男とは関わらないようにしよう。


「えっと・・・次は・・。」

トビーが迷っていると、ショートヘアのメイドが立ち上った。


「次は私が言うわ。私の名前はジャネット・オーエンス。ねえ・・エリスさん?貴女一体どの男性を狙っていたのかしら?」


え・・・?そんな事言われても・・・。私が応えに窮していると、アンが助け舟に入った。


「それは今関係ない話ですよね。それじゃ、カミラ。貴女の番よ。」


カミラと呼ばれたメイドは立ち上がった。黒髪のおかっぱ姿は何となく日本人を彷彿させたが、その堀の深い顔と青い目が日本人とは異なっている。


「カミラ・サンダース。あまり私に話しかけないでね。ナイト様達に睨まれたく無いから・・。」

それだけ言うと、無言で椅子に座る。


「カミラ、あんたって相変わらずねえ~メイドの身分でナイト様達を狙えるはずないでしょう?大体彼等はみんなあの女に夢中なんだから。」


クスクス笑いながら言うのは最初に声を上げた女性だった。私と視線が合うと彼女は立ち上がって言った。


あの女・・・ああ、きっと彼女の事だ。このゲームのヒロインの・・・。



「それじゃ、最期に私の自己紹介かしら?私はナタリー・ハンプシャー。せいぜい人手不足を補えるように頑張る事ね。」


ツインテールの長い髪の毛をバサアッと手で払うと彼女は言った。


「はい、皆さん。これからどうぞよろしくお願い致します。」


しかし彼等からは無反応。あ~嫌われてるなあ私・・・。何だか前途多難だ・・・。



「挨拶も済んだし、それじゃ行こうか。」


アンに腕を掴まれて言われた。


「え?行くって何処へ?」


するとナタリーがクスクス笑いながら言った。


「あんた達のような末端のメイドはね、学食の食器の後片付けを毎回やらないといけのよ?早く行って片付けないと次の仕事に間に合わないわよ。」


優雅にコーヒーを飲みながら言った。カチンときたが、ここは我慢。


「はい、アドバイス有難うございます。」


するとその場に居た全員がギョッとした顔をしたが、知らんぷりをしておく。


「それでは急いで行ってきます。」


私はアンに案内されて学生食堂へと向かった。


「ねえ・・・。あんな言い方されて何とも思わなかったの?エリスは貴族の令嬢だったんでしょう?」


「う~ん・・・そうなんだけど・・・。」

実感が持てない、と言うか持てるはずが無い!第一私はエリスであって、エリスでは無い。おまけに私がこの世界に送られてきたのはエリスが投獄されてからの話なので優雅な貴族生活をした経験すらないのだ。実感も何もあるはずが無い。


「別に全然気にしていないから私は大丈夫だよ。それよりそんなに沢山食器があるの?」

私は話題を変えた。


「うん、そりゃもう!大変だよ~。」


「それをアンが1人でやっていたの?」


「まさか!ニコルと一緒にやっていたんだよ。でもエリスが入って来たからニコルはもうお役御免だけどね。」


ふ~ん・・・でも本当に人手不足のようだな・・・。

そんな事を話している内に私達は学生食堂に着いた。


「ほら、エリス。こっちに来て。」


呼ばれて学生食堂の裏側に回ると、そこは大きなシンクになっており、汚れた食器が山積みになっている。


「それじゃ、どんどん洗っていくよ!」


アンが腕まくりをして言った。・・・どうやら、アンはようやくエンジンがかかってきたようである。


カチャカチャカチャカチャ・・・・。ザザザザザーッ・・・。

私達は無言で食器を洗い続けた。


「よし!いっちょうあがり!」


最期の食器を洗い終えるとアンが言った。


「それにしても凄い量だったね・・・・。これを毎回毎回洗っている訳?」


食器を2時間以上洗い続ける経験なんて生れて初めてだ。今が初夏の季節で本当に良かった・・・・。真冬に水で洗うなんてまさに地獄だ。


「うん・・・。そうなんだけど・・・・ね。もっとメイドとしてのランクが上がれば食器を自動的に洗ってくれる魔法器具を貰える事が出来るんだけど・・・。」


「え?!そんなものがあるの?!」


私は思わずアンの肩を掴み、揺さぶっていた。


「あ、あるよ!だけど、それを貰うにはメイドのランクが上がらないと貰えない事になっているの。つまりこれは一流のメイドになる為の試練なんだって!」


ガクガク揺さぶられながらアンは教えてくれた。

そうか、スキルポイントとはやはりそう言う事だったのね?だとしたらここはメイドの仕事で得たスキルポイントは全てメイド力アップに回した方が絶対に効率良くこのゲームをクリアする事が出来るに決まっている。


「アン!」

私はアンの肩に手を置くと言った。

「私、もっともっとメイドの仕事を頑張るから、どんどん仕事を言いつけてよね!」


「え・・ええっ?!本気で言ってるの?エリス!」


アンは目を見開いて驚いた。


「うん、勿論!次は確か校舎の掃除だったよね?何処を掃除すればいいの?」

今の私なら何だか校舎の窓ガラスを全て拭く事だって出来そうな気がする!


「それじゃあ、説明するね。学院が授業中にトイレ掃除と廊下の掃除をして、放課後学生達がいなくなった後に教室の掃除、その合間に庭掃除をするんだよ。勿論お昼休み後は学食で食べ終わった食器洗いがあるのも忘れないでね。そして夜も食器洗いがあって・・・。」


 私はアンの説明を一語一句漏らさずメモった。よし、今日中に仕事内容を完璧に覚えて少しでも早くスキルポイントを貯めよう!元々掃除は嫌いじゃ無いし、何とかなるだろう。



「それじゃ、アン。早く校舎の掃除に行こうよ。」

私は張り切って言うと、アンは露骨に嫌そうな顔をした・・・。



 シーンと静まり返った校舎。

学生達は教室で勉強中。

 私はトイレ掃除をしていた。トイレ掃除は嫌いじゃない。何せ、トイレ掃除は運気が上がるって言われているからね。

鼻歌を歌いながら、モップでガシガシ綺麗に磨いていく。流石貴族ばかりが通う学院だけあって、トイレは綺麗で清潔感に溢れているが、私は鏡の曇りすら見逃さない。

掃除用に与えられたウエスで鏡を磨き上げていく。よし、これで綺麗になった。


 こうして学生達の授業中に全てのトイレ掃除を終わらせると液晶画面が現れた。


『おめでとうございます。獲得スキルポイントを500集める事が出来ました。スキルポイントを割り振る事が出来ます。どのように振り分けますか?』


一覧表には、お部屋改造とか、女子力アップ、会話力アップ等色々あったが、ここはもう迷うことなくメイド力アップに全てのポイントを割り振る事にした。

ピロリロ~

突然音が鳴り、再び文字が表示された。

『メイドのレベルが2に上がりました。新しいお仕事が追加されました。』


ええ~っ!

な、何よ・・・これっ!何かメイドの特技が増えるかと思っていたのに、逆に仕事が増やされるなんて・・・・?ん?


次に表示される文字を見て私は固まった。


『新しいお仕事に、メインヒーロー達のお部屋掃除の項目が加わりました』


え・・・?これって・・ひょっとしてメインヒーロー達と接触出来るチャンスが出来たって事??
























































































































































































































































































































































































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