魔王
星成和貴
第1話
道を歩いていたら、突然、光に包まれ知らない場所にいた。目の前には変な格好をした見知らぬ女性がいる。
「突然、ごめんね。とりあえず、今から貴方にはとある世界を救ってもらいたいの」
馴れ馴れしく話しかけてくる女性。正直言って、俺の嫌いなタイプだった。けれど、帰る術も分からないから、大人しく話を聞くしかなかった。
「あ、でもね、その世界で仲間にできそうな人って少ないんだ。だから、特別にすっごいスキルをプレゼントするね」
それだけ言うと、変な女はどこかへ文字通り、消え去っていった。
そして、再び俺は光に包まれた。
光が消えると、俺は森の中にいた。それで、俺はこれからどうしたらいいんだ?あの女の言うとおり、この世界を救え、と?いや、無理だろ。帰らせてくれよ。
はぁ、どうしたものか。あぁ、でも、こんな風に異世界に来たときはこう言えばいいんだっけ?
「ステータス」
……何も起きない。そりゃそうか。あんなのはアニメの中だけだよな。いやいや、今の状況がそうじゃねぇか。
「おい、お前。さっきから何をしている?」
突如、背後から話しかけられた。振り返ると、獣人のような見たこともない生物がいた。
「いや、その……」
俺が答えようとするも、その前に獣人(仮)が襲いかかってきた。けれど、気付いたときには足元に獣人(仮)の死体が転がっていた。
……訳が分からない。でも、まぁ、これがすっごいスキルのおかげなんだろうな。俺は何もしていないんだし。
それから半年くらい、様々な場所を回って数多くのモンスターを倒してきた。そして、ついに、魔王のアジトまで辿り着いた。
ここに来るまでに俺に与えられていたスキルは完全に理解していた。チート過ぎて、つまらないほどの。
・オートカウンター、相手の攻撃の寸前に自動で反撃を行う。
・必殺、全ての攻撃に高確率での即死効果を付与。
文字にすると、こんな感じかな。
苦戦なんて全くしなかった。ただ歩くだけ。攻撃を仕掛けてこなければただ殴るだけ。それだけで全てが終わっていた。
アジトへと足を踏み入れ、真っ直ぐと最新部へと向かった。そして、辿り着いた時、そこには五体のモンスターがいた。
とりあえず、ボスっぽい一体を残して瞬殺してみた。残された一体は俺の様子を伺うだけで攻撃をしてこようとはしない。まぁ、してきてもオートカウンターが発動して一瞬で終わるんだけれども。
俺も様子を伺っていると、目の前のモンスターが床に転がっている死体に向けて口を開いた。
「皆、すまない。俺を信じてきてくれたのに。この命に変えても必ず、この魔王を倒してみせる。だから、見守っていてくれ」
は?どういうこと?魔王はお前、だろ?何で、俺が?
訳も分からないまま、モンスターは俺に攻撃をしようとし、そのまま俺のスキルにより即死した。
この世界はモンスターの住む世界、モンスターのみの世界だった。
彼が最後に倒したのはこの世界の勇者であり、本来ならば世界を救うはずの者達だった。そして、本来の魔王とは、彼が最初に遭遇した獣人であった。しかし、それを知らなかった彼はその後も一般人であるはずのモンスターを倒し続け、世界から魔王と呼ばれるようになってしまったのだった。
魔王 星成和貴 @Hoshinari
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