フロイトとユングの犯罪
「ここが殺し屋かー。ウィン」(自動ドアをくぐる)
「いらっしゃいませ」
「あのーお願いがあるんですけど」
「はい。何なりとお聞きしますよ。ターゲットはどなたですか? ひきこもりのお兄さん? 妊娠した彼女? それともいけ好かない先生ですか?」
「いや、殺さなくていいんです」
「はい? 失礼ですがお客様、うちがなんのお店だかわかってらっしゃいますか?」
「ええわかってます。わかってます。それがそのー……」(聞き取れない声でしゃべる)
「なんとおっしゃいました?」
「殺しちゃったんです」
「え?」
「殺しちゃったんですよ!」
「えっ! 殺したって人を? 人を殺したんですか?」
「おどろかないでくださいよ。あなた殺し屋でしょう」
「ええ、失礼しました。それではもう殺しは終わってると。そうしますとうちになんの御用で?」
「人を殺しちゃったんですよ。どうしたものか。途方にくれています。
「聞いてください。殺すつもりはなかったんです。これ今朝の新聞です。読みますね。〈埼玉県で15才の少年Aが集団から暴行を受けて亡くなった事件で、当時の状況が明らかになってきた。この暴行はグループを抜けるときに必要な『制裁』として、少年たちが定めた『ルール』だったという。少年Aは『ルール』にしたがって、数分間にわたり殴る蹴るなどの暴行を受けた。『制裁』が終了した後、グループのメンバーである少女Bは、『大丈夫?』とAを気づかい、缶入りのウーロン茶を手渡した。Aが『うん』と微笑んでウーロン茶を受け取ると、これが『甘えてる』ということになり、Aはまた殴られることとなった。そうして、Aが次第にぐったりして動かなくなったため、暴行は終了された。少年らのグループはしばらくAの様子を見守っていたが、Aの心臓が止まっていることを確かめ、泣きながらAを埋めたという。〉
「ぼくもこのグループのメンバーだったんです。ぼくもこの少年Aを殴ったんですよ。
「Aを埋めたあと線香をあげようということになって、コンビニに行きました。
「コンビニには線香が売ってなかったんで、代わりに花火を買いました、線香花火も入ってたから。
「ぼくたちはAの追悼のためにみんなで花火をしました。
「そして誓ったんです、時効まで逃げ延びて、亡くなったAのぶんまで生きようって。
「でもメンバーがつかまっちゃったんです。きっとぼくももうすぐつかまります。
「ぼくが逮捕されても亡くなったAは帰ってきません。Aのことよりも生きているぼくの人生を考えてほしいんです。
「ねえ殺し屋さん教えてください。ぼくはどうしたらいいでしょう? Aのことは申し訳ないと思っています。でもこれで逮捕されてぼくの人生がめちゃくちゃになるなんて納得できません。
「そうだ。ぼくを殺し屋の仲間に入れてください。なんでもしますから、助けてください」
(ユングはフロイトの腹にナイフを突き立てる)
「ご安心ください。お客様は神様です。どうも、ありがとうございました」
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