第二章 第三話「ましろ、甘雨に濡れそぼつ」

 暖かなシャワーが肌を濡らす。

 汗でベトついた体はすっきりと洗い流され、疲労感も抜けてくれた気がする。


 部活に入るまではシャワー室の存在すら知らなかったけど、八重垣やえがき高校のシャワー室はとてもきれいだった。

 さすがは部活に力を入れてる学校だけのことはある。


 そして大事なのは、パーテーション。

 扉こそないものの、シャワーごとに区切られて個室のようになっていた。

 この構造なら、裸になってもあまり恥ずかしくない。

 今までのインドア生活のせいでお腹あたりがプヨプヨしてるので、先輩たちに私の裸を見られないのはありがたかった。

 ほたか先輩は見るからにアスリート体型だし、千景さんは胸が大きいので想像するだけで破壊力があるし……。

 二人に挟まれたら、恥ずかしさで死んじゃうなぁ……。



 私は一人でリラックスをしながら、今日のことを思い返す。

 雨のせいで校舎の中はジメジメして気持ち悪かったけど、だからこそのシャワーの気持ちよさだと思うと、雨も悪くないかもしれない。


 その時、降り注ぐシャワーの音に交じって、ほたか先輩の声が聞こえてきた。


「ましろちゃん、シャンプーどうぞ~」

「あ、はい。ありがとうございます~」


 私はシャワーに打たれながら、声がする方に手を伸ばす。

 体の汗はだいたい流せたけど、髪の毛は少しベトついてたので、シャンプーはありがたい。

 私は頭を泡立てながら、ほっと息をついた。


「……って、ほたか先輩? なんで入ってきてるんですかぁ~!」


 ほたか先輩は私のすぐ後ろで、シャンプーとコンディショナーの大きなボトルを持って立っていた。

 もちろん裸で。

 しかも、体の半分は私の個室に入り込んでる。


「ああ、ぅ……。恥ずかしい……」


 私は自分のたるんだ体が恥ずかしくて、個室の隅でちぢこまった。


「ええ~? 女の子同士なんだから、恥ずかしいことなんて、ないよぉ」

「あぅぅ。先輩はスタイルがいいけど、私は恥ずかしいんです! お腹なんて見せられませんよぉ」

「ふわふわも、いいと思うよ?」


 そう言って、ほたか先輩は私の二の腕をつっついてくる。

 あまりに恥ずかしくて、顔が火照ほてってきてしまった。


 ほたか先輩といえば、想像した通りのアスリート体型だ。

 何よりも素敵なのはお腹!

 おへそのあたりはしっかりと引き締まってるけど、筋肉が割れているわけでもなく、ちょうどいい。

 憧れのお腹がそこにあった。


「ん? ましろちゃん、どうしたの? お姉さんの体で、何か気になるの?」

「うひゃぁっ! ……い、いえ! 引き締まったきれいなお腹で、うらやましいなって!」


 まじまじと見つめすぎてしまった。

 私は恥ずかしくて、顔から火が出そうになる。

 すると、個室の外から千景さんがのぞいてきた。


「……騒がしい。何?」

「千景さんも、のぞかないでくださいよぉ!」


【挿絵】

https://32031.mitemin.net/i454961/


 それぞれに個室があるのに、なんで私のところに集まってくるのかなぁ?

 これも、もしかして自分で騒ぎすぎて自業自得ということなの?


「ほたか、また筋肉ついた? 僧帽筋そうぼうきんがいい感じ」


 私が一人で悶絶していると、千景さんがつぶやいた。


「えへへ、わかる? 日ごろの成果だよ!」


 そう言いながら、ほたか先輩はダンベルを握るような感覚でシャンプーのボトルを掴み、ゆっくりと肩を上げ下げし始めた。


「あのぅ……ほたか先輩、何してるんですか?」

「ん? これ? 筋トレだよ?」


 いたって普通のことをしているだけだよ、と言いたげな感じで、平然とボトルを上げ続けている。ほっそりとした首の左右から、たくましく美しい起伏が盛り上がってきた。


「お……お好きなんですか?」

「うん! 体を動かすと頭もスッキリするでしょ? 筋肉はすべてを解決するんだよ!」


 ほたか先輩は太陽のような素敵な笑顔で答える。

 筋肉は……すべてを解決する?

 女子高生らしからぬ言葉が飛び出て、私は目を丸くして驚いた。

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