第二話「すみませーん! 診察を受けに来たのですがー!?」
暗闇の中で光る懐中電灯がアスファルトを照らす。昼間に愛車が煙を出していた場所の付近だと思う。今となっては何もないね。
「さすがにここまで暗いと、徒歩で歩く人はいないだろうなあ」
遠くからやってくる目のような光を眺めながら、独り呟いてみる。目のような光が私の横を通りすぎて、それが車だという予想が当たったことを知る。
あの車の運転手からしたら、懐中電灯を持った男が歩いていると捉えるだろう。恐らく、肝試しに来たんだろうと考えて納得しているころ......いや、もしかしたら幽霊と思って震え上がっているかもしれない。
「いずれにしても、余計な妄想をさせて申し訳ないなあ」
消え行く目の光に向かって、そっと語りかけてみた。
昼間は警察の事情聴衆とかその他諸々あって、一息ついた頃にはすでに夕方になっていた。電車で帰ろうとも考えたが、せっかく来たんだからとビジネスホテルにチェックインすることに決めた。この街だって退屈しない観光名所ぐらいはあるだろう。
本当なら噂を確かめるのは明日にするつもりだった。だけど、昼間出会った男の子の話を思い出していたら、いつの間にか懐中電灯を準備していた。お化けが拐ったという女の子。お礼は特に期待してないから、お人好しってことかな?
「......あとはここを曲がるだけでいいな」
懐中電灯が看板を照らす。その看板によると、どうやら元々は病院だったらしい。でもこんなところで客は来たのだろうか。いや、来なかったから廃墟になっているのか。
看板の方向にしたがって歩いていると、古ぼけた建物が現れる。割れたガラスを見た感じ、風通しが良さそうだ。もし昼間だったら日当たりもよかったのに。まあどちらにしても、ここで寝るのなら野宿セットは必須だろう。
玄関から中に入ると、誰もいない受付が見えた。あの男の子とカナちゃんはこんなところに来て病院ごっこでもするつもりだったのだろうか。
「すみませーん! 診察を受けに来たのですがー!?」
私はお客さんになりきって看護婦を呼んでみる。
ガタガタガタン!!
......あれ、いたんだ。遊んでいても仕方ないから、音がした二階の方へ上がろう。
ボロい階段を上がり、廊下から懐中電灯を照らして部屋の一つ一つ確かめる。音の感じでは恐らく床が散らかっていると思うんだけど......
「ダレ......?」
突然後ろから声をかけられた。あんな大声を出したから部屋から出てきたんだろう。
後ろを振り向いて懐中電灯を照らすと、毛布を体に巻いた白いシルエットが立っている。雪のような白さを持つ彼女の肌は、よく見てみると爬虫類のような皮膚に見える。体型は普通の女性の体型。手の爪は鋭く、髪は肩を通り越している。
そして顔を見てみると、"眼球の代わりに目の穴から青い触覚が生えている"。時々、それは引っ込み、瞬きが終わるとまた出てくる。
「......さっき声をかけたのは君かい?」
「......エ? エエ......ソウダケド......怖ク......ナイノ......?」
掠れた声が彼女の口から出てくる。
「うーん、私にとったら、道路の飛び出し以外に困ったことはしていないからねえ」
昼間に女の子の手を掴んだ白い影、そして男の子が言っていたお化けはこの子で間違いなさそうだ。
彼女は私の話を聞いて口に手を当てた。
「......アノ時ノ車ヲ運転シテイタ人ナノ?」
「ああ、あれは飛び出した女の子が悪いけど、おかげで木にぶつけちゃったよ」
「......」
さて、そろそろ本題に入ろうか。
「ねえ、あの女の子......多分カナちゃんっていうんだけど......どうしたの?」
「......夕方ニ返シタケド......マサカマダ帰ッテイナイノ......!?」
「いや、知らない......」
なんだ......彼女の言うことが本当なら、夕方に帰っていると言うことか......だったら明日でよかったかなあ......
「......ネエ、アナタ何者ナノ?」
......確かに、自分のことは何も言っていなかったな......名刺でも渡しておくか?
「私の名前は
自己紹介をすると嫌な顔をされた。ネットに乗せない、個人的な取材と付け加えると余計に嫌われた。別にその意味で言ったわけじゃないけど、少なくとも私は個人的な取材には向かない顔らしい。
だけど、彼女は取材に応じてくれた。まず彼女が教えてくれたのは、昼間の出来事だった。
昼間に二人の子供たちが廃墟に訪れた時、彼女は二人に姿を見せてしまった。二人は驚き、恐怖で逃げて行ってしまったのだという。その時に、女の子の方が財布を落としてしまったらしいが......
「アノ子......キット財布ヲ取リニ戻ラナイトイケナクナルノ......デモ......私ガイルト思イ出スト戻ッテコレナイト思ッテ......」
「それで届けようとしたら、女の子が車に轢かれそうになっていたと」
廃墟の病院の診察室で、私はプライベート用のメモ張片手に話を聞いている。
「ウン......茂ミニ隠レタ時ニ女ノ子ガ気ヲ失ッチャッテ......安全ナ場所マデ運ンデイタラ、男ノ子ニ姿ヲ見ラレテ......」
「それで男の子がお化けが拐ったって言ったのか」
私がそんなことを呟いたせいか、彼女は落ち込むように俯いてしまう。
「ヤッパリ......コンナ姿ニナッタカラ......ソウ思ワレチャウノカナ......」
......!?
「......さっき、
「エ......? ウン......言ッタケド......」
化け物になってから......だとすると......
「......元は人間だった......ってこと?」
「ウン......私......昔ハ人間ダッタヨウナ......気ガスルノ......昔ノコトナンカ......全然覚エテナイノニ......」
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