第52話 シーラの敗北と入浴剤

 俺は力の使い過ぎで合宿中ずっと寝ていて…というか女神界でコタツに入りゴロゴロしていた。もちろん魂の状態なので別に暖かさとか感じないんだが…。


 コタツ…。この何故か郷愁を思わせるものはなんだろうか?

 すると父上がやってきた。


「おおーー!!おこただ!!懐かしいーー!!これで蜜柑と猫がいれば完璧だな!」


「フォッフォ!あるで!」

 と女神ザスキア様はいつもみたいに何もない空間からひょいとかごに入れたオレンジの実とふわふわそうな猫を出した。猫の柄…ブチでこんな猫初めて見た。


「おおー!流石ザスキア!徹底しとるな!三毛猫を出してくるとは!!」


「父上なんです?ミケ猫とは?」

 と言うと父上は


「こういう猫だよ。俺の前世の日本猫の代表格みたいなもんだね!!可愛いよね!ぬこ!前世なんてほら猫ちぐらとか猫鍋とか流行ったよなぁ!!」

 とウキウキしている。


「え?猫鍋?まさか食べるんですか!?こんな可愛い猫を!?」

 猫鍋と聞いて父上の前世がちょっと恐ろしくなったが、美しいザスキア様は否定した。


「違いますはい!猫鍋というのはですね、猫は元々狭い所が好きなんで、こういう鍋みたいなのにも習性ですぽりと入ってそのまま寝てしまうのでそれが可愛くて「猫鍋」と呼んでいるのです!はい!本当に食べたりなんかはしませんよ、はい!」

 と言った。何だ。良かった。


「それよりヴィル…何でお前ここにいるんだよ?またぶっ倒れたのか?まさかスノボやり過ぎて?」


「いや…いろいろあって…力を使い過ぎてダウンした」


「あー…やっちゃったな。お前ハイスペックなのに力の配分を考えろよ」


「考えてるけど仕方ないだろ。緊急時とかいろいろあるし」

 と言うとザスキア様は


「まぁ、ジークも似たようなことしてんやろ、はい。人のこと言えんやろ。新しいクラウディア人形の制作に三日三晩かけて奇跡の力を注入とかアホやろ」

 と言ったので俺はギロリと睨んだ。


「父上あんた…また仕事をサボってフィギュア作りか!?まぁ後で予約するのはいいとして、国王の癖にだらけてんじゃねーよ!」

 と叱ると


「いや…だってさ、誰にだって休みは必要じゃんか!!俺だって超頑張ってるよ?たまの休みに新作作っていいじゃん!!クラウディアの恥ずかしがってる顔も可愛いし!」


「な、何いい!?お母様の恥ずかしがる顔なんてみたいわっ!くそう!早く帰りたい!!」

 と悔しがっているとザスキア様は


「まぁ落ち着きなさいヴィル。…というかお前が寝ている間とんでもないことが起きていますよ!」

 とザスキア様はさっきの鍋をどんと置いて水を入れた。横に肉やら野菜やらきのことかがある。


「お前…完全に鍋パーティーの準備してんじゃねぇよ!俺たち食えないんだからなっ!」

 と父上は言う。


「まぁ見てみなさい、はい!」

 と鍋を覗くと…


 雪の中…もこもこの服を着たシーラと同じくもこもこの服を着たロジーナ嬢が睨み合っていた!ロッジの外のテラスだ!


「何だ?あいつら何やってんだよ!?」


「ヴィルをかけて勝負をするようですよ、はい」


「ええっ!?いい加減にしろよ!?まだそんなこと!というかロジーナ嬢もしつけえ!」

 父上は


「流石あのダニの娘…いや、剣の一族ディーバー家の娘!しつこさは伊達じゃない!ダニの野郎未だにうちのクラウディアと浮気しようとか言ってるしな!」


「どうやらこの寒い中…野球拳で勝負するようですよ!これならお互い傷を作ることないですからね、はい」


「ヤキュウケン??」

 父上は


「な、何いいい!?いくら周りが女子ばかりと言っても二人は外のテラスだぞ!?雪山で…死ぬぞ!そんなの芸人しか見たことねーよ!!」

 と父上は突っ込んだ!


「な、なんなのですか?ヤキュウケンとは?」

 俺は聞いた。嫌な予感だ。

 ギャラリーは部屋の中で二人を見守っている。女子ばかりだな。確かに。


「大方、コンかレーナ…ハク辺りに教わったのでしょうね。シーラが言い出したのです」

 と鍋に数分前の状態を映し出した。

 二人とも俺の部屋の前で看病道具を持ち言い争っていた!



『ロジーナ嬢!!ヴィルの調子は私が診るんだからどっか行ってよ!』


『まぁ!シーラ様…そんなことを言って既成事実を作りにいらしたのでしょう?この淫乱女!」

 と言うロジーナ嬢にシーラは激怒した!


『なっ!い、いんら…酷い言葉!!シーラはヴィルの婚約者だからいいもん!ロジーナ嬢なんてただの知り合いでしかないよ!』

 と二人はぎゃあぎゃあ言い出し、次第に周りにギャラリーが集まり出した。


『それならヤキュウケンで勝負しよう!!力で戦うのはもう古いってお母様も言ってたし!ヤキュウケンのがいいよ!』

 と言う。


『ヤキュウケンとは何ですの?』

 とロジーナ嬢が聞いた。


 お外でジャンケンして負けた方は一枚ずつ着ている服を脱いでいくの!最後の一枚になった人が負け!」

 と言った!

 ななななな!!

 何アホな勝負仕掛けてんだあああ!?


「あー…これ俺そろそろ帰るわ。ヴィル…んじゃな!頑張れ!」

 と父上は去る。というか、一足先に目覚めたようだ。


 俺はそのまま鍋を見た。


 *


 地上では寒くて寒くて凍えそうで死にそうな中…私とロジーナ嬢は向き合っている!カイロもたくさんつけたのにやはり私達神獣は圧倒的に寒さに弱い!


「あらあら!震えてますわよ?シーラ様!鍛え方が足りませんわね!私なんて幼い頃よく過酷な修行の旅に出ておりましたの!寒い国にも行きましたわ!お父様は容赦しませんので!」

 とロジーナ嬢は寒さなんかへっちゃらだと言う顔だ!!


 くっ!!


「そんなの、か、関係ないよっ!ガチガチ!さっさとやろう!ジャンケンするだけだよ!!」

 と私は構えると相手も構えた!

 何を出す!?

 グーか?パーか?チョキか!?

 国王陛下のジークヴァルト様…ヴィルのお父様考案のこのジャンケン法は武力なしの決闘にて使われることがここ最近多くなった。


 それこそ昔は血を流す無駄な戦いが続いていてジークヴァルト陛下はそれに嫌気がさして改革されたのだ!これならば女子供で遊びとしても使えるとかで。


 だが今は遊びじゃない!ヴィルの看病をかけての大勝負!負けるわけにはいかない!


「ジャーンケーン…」

 と溜める。

 そしてシュバッと手を出す!


「ポン!」

 と私が出したのはパーで…ロジーナ嬢はチョキだった!!


 *


 うわあああ!!

 あいつアホかっ!

 俺と遊びでジャンケンする時もいっつも負けてた!まぁその時はシーラの頭の中読みまくりだったからだが、あいつは他の奴とする時も何故か弱い!!

 自分が何を出すか精一杯で相手の思考を読むことも忘れているし、俺が


「このジャンケンにおいては頭の中を読むことは反則だから誰に対しても思考を読むのは絶対禁止だ!!」

 とシーラに昔教えたことがあったし父上もそれには賛成して神獣組に注意したのだった。ゲームの意味がなくなるもんな。


 シーラはもこもこのジャケットを脱ぎ捨ていくつかカイロが落ちた。悔し涙を浮かべていた。

 歯をガチガチさせながらシーラとロジーナ嬢はジャンケンしあい、シーラは全敗している!!

 顔色も悪くなってくるし、どんどん薄着になり危険だ!ついにズボンまで脱いでシーラは顔が青ざめた。


「くっ!見てられん!もう戻ります!俺!」

 と俺は覚醒準備に入る!ザスキア様は俺に何かを渡した。


「ヴィル…それは…女神の入浴剤です!身体が温まるものです!目覚めたらバスタブに湯を張り急いでシーラと入るのです!もう服着たままでいいですから、はい!早くしないとシーラが寒さで死んでしまいます!!」


「はっ、はい!ありがとうございました!!」

 と俺は女神界から消えた。


 *

 バチンと目覚め飛び起きたらザシャがいた。


「あっ、王子…起きましたか」


「起きましたか?じゃねーよ!ザシャ!直ぐに風呂に湯を張ってくれ!シーラが危ない!」


「えっ?シーラ様が!何やら女子部屋でわーわーやってるそうですが…」

 男子は入れないからとザシャは言う。


「ロジーナ嬢とシーラがアホなヤキュウケンとか言うのしてるんだ!ジャンケンで負けたら服を一枚ずつ脱いでくっていう!ザシャも知ってるだろ!?シーラがジャンケン弱いこと!


 しかもあいつらどこでやってると思う?外の備え付けのテラスだ!死ぬぞ!シーラが!」

 と聞きザシャは顔色を変えて


「湯を張っておきます!お早くシーラ様をお連れに!この部屋の方が地下の温泉より早いですから!バスタブも有りますし!」


「よろしく頼む!」

 と俺はとりあえず毛布を持ち駆け出した!!


 *


「ほほほ?もう負けを認めたら?残りは少ないですわよ?」


「ううっ…うっ!!ガチガチブルブル…」

 カイロはほとんど落ちて薄いインナーシャツと下はパンティだけだ!しししししし、死ぬっ!凍るっ!!


 能力は使うなと決めたので無理だ!うう!まさか私がこんなにジャンケンに弱いとは!!

 その時部屋の中から声がして見学してた女子の壁が割れなんとヴィルが現れた!!


「シーラ!!」

 ガラリと窓を開けてこちらに毛布を持ち掛けてくる様がまさにもう王子様であった!


 あ、王子様だった!


「ゔぃ…ル…ガチガチ…」

 バサっと毛布を巻き付けられお姫様抱っこされる!!


「こんのアホめが!!!死ぬぞっ!!ロジーナ嬢も!アホな勝負すんなっ!この勝負は無しだ!!」


「そっそんなぁーーー!」


「じゃあなっ!!」

 とヴィルは私を抱えてまた走り出した!!


「ヴィル…さささ、寒い…よう」


「当たり前だろうが!お前神獣の弱点とジャンケン弱いの気づいてないのかよっ!」


「ジャンケンは弱いの忘れてて」


「あほめ!!」

 とヴィルは走り自分の部屋に入る。


「王子!湯は張っておきましたよ!!ではごゆっくり!!」

 とザシャくんが礼をして出て行く!

 え?


「ヴィル…?お風呂は地下…」


「それじゃ間に合わん!お前顔色最悪だぞ!!俺がザスキア様からニュウヨクザイとか言うの貰ったからそれで治す!服着たままでいいって!」

 とヴィルは毛布を剥ぎ取りバスタブに私をそのまま投げ入れニュウヨクザイとか言うのを入れて自分も入り私を抱きしめた!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤髪ハイスペック王子は神獣娘にツンデレです 黒月白華 @shirofukuneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ