第50話 遭難した1

 スキー合宿2日目の朝…。天候は少し雪が降る程度で午前中だけなら問題ないだろうと皆は朝食を食べてスキーウェアを纏いスキー板をレンタルしに行った。シーラはもはや朝から顔色は悪い。力を使おうとしたら


「い、いい!何度もヴィルの力は使わせられない!倒れたら困るし!」


「いや、お前が倒れそうだぞ?」


「いいの!やめて!!シーラの為に祈らないで!」

 とだーっと俺から離れた。

 大丈夫かあいつ?


 ザシャとミリヤムはイチャイチャとソリで滑ったりしていた。

 幼児が滑るような場所でミリヤムは後ろからザシャに抱えられながら滑るという保護者付きソリをしていた。


「怖い!!ザシャくん!!怖いよう!こんな怖いの!?スキー!!」


「これはソリですよ?ふふ…。私が後ろにいますから大丈夫です!」


「本当に離さないでね!!」


「もちろんです!!離れませんよ!!」

 とらぶらぶオーラが相変わらずすげえ…。


 今日は雪に慣れるということで簡単な基本をインストラクターから教わった後は自由に過ごしていいとの許可を得て俺は早速例のスノーボードを持ち込んだ。


 こっそりと一人でどっかで練習するかな。

 フィンケ先輩とレーム先輩は


「しょ!勝負よ!!フェルディナント!!先にあの初級コース滑り降りた方が勝ちで勝った方が何でもいうことを聞くって言うのはどうかしら?」


(勝ってフェルディナントと交際してもらうんだから!)


「いいだろう!!リーゼロッテ!!今日こそ決着をつけてやる!!俺の方が優れてることを思い知るがいい!」


(勝ってリーゼロッテに一生俺と離れない権利を突きつけてやる!!)

 相変わらずだな。


 シュッツェ先生とユストゥスは何か訓練みたいなことをしている。雪の壁を作りお互い雪だるまみたいなのを敵と称して


「ユストゥス一等兵!!敵は油断しているぞ!」


「は、はぁ…。投げればいいですか?」

 と雪玉を作っている。


「いや、敵はこちらの気配を探っている!しばらく大人しく様子を見るんだ!頭を低くして!)

 と動かない雪だるま相手に何やってんだあいつら。


(グフフ…ユシーと密着する訓練ごっこは楽しいなぁ!)


(シュッツェ先生…凛々しい!僕も頑張って男を見せないと!)

 とか心の中は丸わかりだ。


 ロホス先輩はスキーがど下手くそでどうやったらそうなるのか判らないが座りながらM字開脚して頭と背中は完全に雪の上につきながら上に本を掲げて滑っていた。


「きゃあああー!!変な人がいるーー!!」

 と女子は逃げていく。


「おかしいな?立つまではできたのに」

 とブツブツ言っている。


「ロジーナ様素敵!!見てあの滑り!初心者とは思えないわ!!」

 と誰かが言い、見ると颯爽と滑り降りるロジーナ嬢。確かに中々やるな。ディーバー家だけはあるのか。体術にも自信ありか。


 ロジーナ嬢は俺に気付くと


「ヴィルフリート王子!!見まして?私の滑り!!一緒に中級者コースでも行きませんこと?私と王子でしたら行けますわ!」


「そ、それはダメえええ…」

 とシーラがパチパチ黄金の光を纏い現れた。

 もはやスキー板など付けていない!!こいつはスキー自体滑る気がないようだ。


「あら?シーラ様。スキー板は?どうなさりましたの?」


「必要ない!!邪魔だからね」


「あら…滑れないと素直に仰ったら?ほほほほ」


「くううう!」

 とバシャンとシーラはロジーナ嬢に雪玉を投げつけ怒ったロジーナ嬢も投げ返した!

 こんなとこで雪合戦かよ!

 おっと、二人にかまけてる場合じゃない!俺はスノボをしにきたのだ!!


 とりあえずこっそりとシーラ達から離れて良い所を探る。するとコースに無い自然のスノボにピッタリな山がある!


「よしっ!ここだ!」

 しかし…


「何がですの?王子」


「ロジーナ嬢!!待ちなよ!!」

 とシーラとロジーナ嬢が追いかけてきていた!!くっ!!


(邪魔な小娘だわ!!ヴィルフリート様と二人きりになるのは私だと言うのに!!)


「ヴィルと二人にはさせないからね!!」

 考えを読んだシーラは青くなりながらも反撃する。シーラ…寒さに弱いのに。


「王子…その板は何ですの?」

 ロジーナ嬢が気付くとシーラも


「ソリの新しいやつ?」


「これはスノーボードだ。こっそり練習しようと思ったんだよ…」


「まぁ…新しいスキー具の一種かしら?どこで売ってますの?私もやりたいですわ!」


「ロジーナ嬢だったらもしかしたらできるかもな」

 と言うとシーラがむくれた!


「シーラもできるし!!」


「いや、お前スキーもまともにできないだろ!?」

 呆れると泣きそうになったからやめておこ。


 俺はともかく上に登りスノーボードをはめて滑ってみた。ザザザと映像で見たヤツを参考にして滑り降りた。


 ロジーナ嬢とシーラは感動して拍手した!!


「凄い!カッコいい!!スキーとも違う!!ヴィルカッコいい!!」


「素敵ですわ!!ヴィルフリート王子!!何をしても素敵です!!惚れなおします!!」


「いや…滑り降りただけだから…」

 まぁ、スキーとは少し違うからな。でも練習したら空中で一回転出来そうだがな。こいつらに見られてるとどうも集中出来ない…。


 しかしその時近くの山から雪崩が起こったようでアナウンスがスキー場に流れた。


『お客様にお告げします!雪崩れ発生の為至急ロッジにお集まりください!』


「こらからだったのに…」

 仕方ないかと片付けようとすると


「ヴィルフリート王子!よろしければ私もそれで一度滑りたく思います!戻る前に!!」

 と興味深々なロジーナ嬢。


(新しいすのぼ?やってみたい!!身体が疼きますわ!!)


「………判ったよ。でも危険なスポーツだから一応気を付けろよ?骨が折れることだってあるらしいし」


「まぁ!私の心配を!!ヴィルフリート様!!」

 と感動するロジーナ嬢にまた膨れるシーラ。

 とりあえず上に登りロジーナ嬢は手を振り装着した時だった。ゴゴゴっと更に上の方から雪の塊りが落ちてきた!!

 雪崩れだ!!ヤバイ!!


「ロジーナ嬢!!」


「ヴィル!!危ない!!」

 シーラは俺を抱え上げ逃げ出した!!


「待ちなさいいいい小娘えええ!どさくさに紛れて何王子を連れ去ろうとしてますのおおお!!」

 雪崩れと共に器用にスノボを乗りこなしながら追いかけてくるロジーナ嬢はもはや天賦の才でもあるのか、何と一回転しながらも雪に乗りながら追いかけてくる!!


 それ俺がやりたかったやつうううう!!


 *


 雪崩れが何とか収まり被害の及ばないところまできたがコースからかなり外れてしまったようだし、シーラがめちゃくちゃに走るから方向も失い俺たち3人はつまり……。


「これ遭難したぞ…どうすんだよ」

 と言う。ロジーナ嬢はここぞとばかりにシーラを責めた。


「あなたがめちゃくちゃに走るからですわ!」


「だって雪崩れと怖い女が追いかけてくるんだよ?方向なんて気にしてる場合じゃないもん!いざとなったらし、シーラがドラグー化して二人をロッジに連れ戻ればいいもん!」

 だが…震えているシーラがここで裸になれるか?それこそ死ぬぞ。


「落ち着け二人とも!シーラも!この天候見てみろ!さっきよりだいぶ視界が白い。吹雪いてる!上空からでも見つけにくい。余計迷うぞ?


 ロジーナ嬢も俺の婚約者を虐めるな!シーラを虐めていいのは俺だけだ!」

 と言うとシーラは赤くなり


「ヴィルうう!」

 と抱きつこうとしてロジーナ嬢が止めた。


「ともかく!まずは雪を凌げる場所を探さないと本当に死んでしまいますわ!!」

 と睨む。


「その通りだ。まず…本格的に降る前にシェルターを作る」


「シェルター???」


「そうだな、あの辺りに穴を開けて3人が入れるように出来るかシーラ?中に空洞ができるようにするんだ」


「うう、やってみる…」

 とシーラは頑張って震えながらも雪を殴り雷撃の拳でガボっと空洞を作り上げてみた。中を覗きいい感じに入れそうな空洞ができて細い換気穴と目印にストックとスノボ板を立てて置いた。


 皆で中に入る。とりあえず固めておくがシートもないしともかく体力を温存するしかない。何とロジーナ嬢がストックの一本を剣に変え木を切り刻み椅子のようなものをこしらえた。この女中々器用じゃん!!

 入り口も切り刻んだ木の板で塞いだ。


「寒いけどとりあえず吹雪収まるまでここにいるしかない!食べ物もないからな!雪は食べるなよ!!体温が余計に低下して死ぬぞ!」

 するとシーラは俺に引っ付いた。ロジーナ嬢もだ。


「シーラの婚約者に引っ付かないでロジーナ嬢!」


「そんなことを言ってる場合ではありませんの!死んでしまいますもの!!」


「離れろ!お前ら!!」

 と俺はキレた。


「こんなとこで喧嘩すな!!遭難してんだ!寒いのは俺の奇跡の力で何とかしてやる!!」

 と俺は力を使った!!3人分!どれだけ保つかわからんが!やるしかない!


「ヴィル!また力を!昨日も使ったのに…。倒れちゃう!」


「そんな直ぐには倒れない!何とか収まるまで保たせる!!」


「ヴィルフリート様…」

 とロジーナも反省し大人しくなった。

 元はと言えば俺がスノボをしに来たからか。巻き込んだのは俺だ。生き残って見せる!!絶対に!


 それに…ロッジにはザシャもいる。あいつなら頭も切れるし何とか俺たちを見つけてくれるかもしれない…。


 頼んだぞザシャ!

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