第45話 ユストゥスデートする

 大文化祭が終わった後、学院は休みになり、僕、ユストゥスは出掛ける準備をして寮に外出届を出した。ザシャくんも既に届けを出してミリヤムさんとご両親に挨拶に出掛けた。昨日の今日で早過ぎるよ!!


 未だに夢じゃないかと思う。がザシャくんがおかしくなりウキウキ出掛けて言ったのでもう何も言わなかった。


 僕もこれからマル先生とデートなんだけとさ。

 そう…デートなんて…は、初めてだよおー!!この格好変じゃないだろうか?お洒落には縁遠いよ!!僕なんてヴィルフリート王子くらい完璧なカッコ良さも無ければヘコヘコ頭を下げるくらいしかないのに!!


 寮からは王都への移動用馬車が生徒の為に用意されている。誰でも乗れる。時間が決まっていて何回か往復してくれるのだ。

 最近王都の大きな商会で1人移動用の自転車とかいう乗り物が開発されたらしく、ちらちらと広まっている。女性はズボンに着替えなきゃいけないからあまり乗らないが、男性には人気みたいだった。今は値段が高くて一部の大貴族くらいしか持ってないようだ。


 それにしたってデートか。

 しかも相手は年上である。先生である。失礼になってはいけない。

 それでも待ち合わせ時間より早めに寮を出て王都の中央広場…では無く、人気のないおじいちゃんが1人で店番やってるような本屋さんで待ち合わせた。


 絶対学院の人に見つかると噂になっちゃうから!!

 僕は周りを見渡してさっと本屋に入り込んだ。

 沢山の本が山積みされ、おじいちゃんは…寝ていた。普段あんまりにも客が来ないから。

 客の来ない店は大抵寝ている人が多い。

 防犯どうなってんだよ!?と思うけど、この国は奇跡の力で守られており、あまり悪人がいないのだ!寝ているとちゃんとお代を置いて本を買うという恐るべき善人システムなのだ!

 それこそ、女神様が降臨なさる国として有名ならではである。悪を働いた者は国王陛下と女神様が友達みたいな関係であるから、正直見逃すことなく、一瞬で素性は何故か判り、悪人の居場所も直ぐ判るから悪人は減ったし、真面目に働くと恩恵があるとかないとかいう話が広まったのだ。


 そんなわけで古い本を読んで暫く時間を潰す事にした。しかしそこに【年上の女性との付き合い方】と言うタイトルがあるではないか!!


 僕はそれを読み始めた。

【年上女性は静かで落ち着いてゆったりできる所を好む。あまり賑やかだと疲れる】


 と書いてあった。

 な、なるほど…。静かで落ち着いた所か…。流行りの場所でなく古いカフェとかだろうか…大人だからコーヒーとか飲めるような…。僕はスマホで探して検討を付けてみた。1軒古いカフェを見つけた。


 僕はまた本を開き


「絶対に連れて行くな…という場所は…自宅…」

【年上デートで実家の家なんて絶対ダメ!ドン引きだよ!!】

 とあった。確かに…。

 次は…会話の話題か…。


【仕事・趣味・好きな食べ物・料理・学生時代の話・動物】

 ふむふむ。なるほどね。マル先生のこと僕何も知らないや。その辺を聞いて行こう。


 それからデートの終わりには次のデートの約束も必ずすること、1週間以内。

 と書いてある。


 更に…【デート中はボディタッチを積極的に!】とある!!えっ!!?ど、どこを!!?


「ほほう、何を読んでいるのかなユシー?」

 頭に弾力ある物が押し付けられ本を覗かれそうになり、慌てて本を隠し


「わ、マル先生!!」

 と驚くとマル先生は…


「お待たせ!ユシー!!」

 と胸もさほど出ていなくて露出も少ない清楚なワンピースを着ていて帽子を被っているからあまり誰だか判らない。これなら外で歩いても一瞬でマル先生とは思われないだろう。


「ど、どどどうも…」


「ユシー…今日は先生をつけなくてもいいよ?学院じゃないのだからね」


「え…は、はい…マル…さん」

 と赤くなりぎこちなく僕はマルさんと本屋を出た。


「今日はどこへ行く?」


「あっ、あの…し、静かで落ち着いたカフェがあったのでちょっと古いでしょうけどそちらで…」

 と言うと


「ふーん?ユシーが私の為に調べてくれたのかい?」


「ええと、僕…まだ、マルさんのことあまり知らないのでまずはお話でもと…」


 するとマル先生は嬉しがった。


「そうか…ユシーが私のことも知りたいなんて!いいよ!じっくりと話し合おう!」

 と目をギラつかせている。まるで捕食者の目なんですけど!?


 ともかくスマホで調べてカフェに向かった。人通りは段々と少なくなり、路地を入った所にボロいカフェがあった。

 あれ?思ってたより相当古いんだけど!?だ、大丈夫だろうか?というか店…傾いてない??


「あの…ここみたいですけど…やはり辞めます?」


「別にいいじゃないか?人も居なさそうだし!さあ、ユシー!入ろう!」

 と腕を取られて店に連行される。


 カランと音を立て扉を潜ると

 コーヒーのいい香りがする。


「おや…?物好きな…こんな所まで恋人達がくるなんて久しぶりだね?」

 と中年の背の高いおじさんがやってきた。ここの店主か。


「席なんてガラガラだからどこでも座りゃいい」

 マル先生と僕はこの店のおススメのコーヒーを注文し、マル先生は甘いプリンも一緒に頼んだ。


 店は仄暗く、意外と外からは判りにくく内装は異国の雰囲気を醸し出していた。


 程なくしてコーヒーが運ばれてきておじさんは


「ほい、アルジャーロっていうコーヒーさ。ネーミングはワシ。ブレンドのオリジナルコーヒーだから」


「あっ…ど、どうも」

 アルジャーロって微妙な…。


「それでユシーは私のことを知りたいのだろ?なに?なんでも聞いて?下着の色か?」


「なっなんでですか!!?もう!!…あの…じゃあ…好きな食べ物とか?」


 と言うとアル先生は


「食べ物か?何でも食うね!肉が特に好きかな?騎士は肉を食わなければ生き残れない!!」


「なんですかその変な理屈は!」


「えーと、うーん…あ、料理はどうですか?」


「料理ねぇ…もちろん出来るさ!キャンプで狩で獲った獲物を鍋にぶっ込んだりしてればできるさ!」


「だ、だいぶアグレッシブですね…」


「大丈夫だって!ユシーの為にもこれからは私女らしくなれるよう鍛えていくから!」


 女らしく鍛えるって何!?というかすんごい胸鍛えてるけど!?


「じゃ、じゃあ、あの…学生時代はどんな感じだったんですか?」

 と言うとマル先生は


「学生時代?うん、私にセクハラしようとする上級生をなぎ払い、後は女の先輩とかから胸を揉まれまくったなあ。デカイとすぐそういう悪戯されるんだよ!」


 聞きたいのは別に胸の話ではないのだが、揉まれてるエロイ彼女を想像し赤くなる。


「もっとも…今はこれはユシーにしか触らせたくはないよ?」

 と言うからコーヒーを吹き出しゴホゴホ言った!


「なっななな…そ、そんな!!マルさんのばかあ!」

 と言いつつ脳内ではもはや大変なことになっている!!

「ふふ、ユシー真っ赤だよ?リンゴのようだ…可愛い」


 とほっぺをツンツンされる。

 誰のせいだ!!


「じゃあ、お仕事は?先生は大変ですよね?」


「ああ…仕事か…もちろん真剣に指導している。訓練中私の胸を見て隙ができるから鼻の下伸ばした奴は死刑執行の如くぶっ飛ばせるがね!…もちろんユシーと個人レッスンはしたいよ…レオン殿下がうるさいがね…」

 だからなんでいちいちそう言うことを!と言いつつ僕の脳内はやらしい個人レッスンを受けていた。


 マル先生はスプーンでプリンを救い上げ僕に


「あーん、して?ユシー?」

 と色っぽく言うから震えた。

 しかし、無視できずに一口パクリとすると甘い味が広がる。

 そしてマル先生は次のプリンを救わずに目の前で僕の食べたスプーンを口に含み幸せそうな顔をした。……何してんだろこの人!!


「ああ、ユシーの味は甘いよ…」

 と言うからボンっと全身に熱が溜まった!!


「しゅ、趣味は?やはり剣術?」

 気を取り直し、聞いた。騎士ならあり得そう。

 しかし、次の言葉で絶句。


「ははは、孤児院の子供達にたまに軽い剣術指南に行っているが真の目的は可愛い男の子を観察するくらいさ」


「そ、それはもはや犯罪なのでは?」


「その辺は抜かりない!見るだけだからな!!今はユシーを見て興奮している」


「や、やめてください!!」

 と赤くなりっぱなしだ!

 最後に好きな動物を聞くと僕の手を取り


「好きな動物??ユシー」

 と言い恥ずかしくなる!

 いや、人間も確かに動物だけど!!


「も…マルさ…ん…ふ、ふざけないで!」


「ふざけていないがね」

 とケラケラ笑う。くうううう!

 絶対にからかっている!僕が年下だから!!

 しかしながらマル先生は握った手を恋人同士の繋ぎ方に変えた。ドキリとしておずおずと見ると顔が至近距離だ!ちょっ!こんなとこで!?

 と店長を見るとガーガー眠っている!!

 何でっ!?


 と思う間に顔が近付く。


「マル…さ…んっ!」

 そして僕はこんなとこでいきなりキスをされて更に大人のキスをされてしまう!ていうか、激しすぎてついていけない!!

 ようやく離してくれると息があがる僕を楽しそうに見るマル先生はほんのり赤く、


「ご馳走様…」

 と言う。グハっ!!!


 僕はまだまだ未熟だと思った。この人には敵わない!!


 そう言えばこれ…僕のファーストキスなんじゃないか!?と思い、一気に後悔した!涙目になり、


「マルさんのばかあ!!」

 と言うと


「ふあん!ユシー!可愛い!!」

 と言われる!!

 くっ!この年下好きめ!!

 と同時にいつか僕が先生の背を越したら…もう相手にされず、他の小さい子に走るのではと不安になったのだった。


 その後、寮に戻った僕はザシャくんがまた浮かれて帰ってくるのを見て複雑な思いでいたのだった。

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