第44話 浮かれザシャ

 後夜祭が終わり生徒達は解散していく。


「ユシー!?じゃあ、明日の休みは外出届を出して街へ繰り出そうね!約束だよ?」

 とマル先生が僕と指切りをした。


「はっ…はい…」


「あ、寝る前にスマホにメッセージを送るからね♡」


「はっ…はい…」

 そうしてウキウキしたマル先生と別れて男子寮に戻る。

 まだ、ザシャくんは戻ってきていない。

 今日のことは何となく聞いていたけど…これは…やはりダメだったパターンかもしれない!

 僕はザシャくんを慰める言葉を必死に考える。


 ちょっと練習するか。


「ザシャくん…残念だったね…。今は辛いけどきっと時間が解決してくれるよ…元気だして…」

 うん、こんな感じでいいだろうか?


 その時扉が開いてザシャくんが戻ってきた。

 その顔を見て僕は


「ひっ!!?」

 と引きつった。

 ザシャくんはいつものにこにこ顔を崩して赤くなり憑物が落ちたかのように優しさと慈愛に満ちた顔で目を見開き言った。


「やあ!ユストゥスくん!!神さまはいるんですね!いや、女神ザスキア様の恩恵が私にあったということでしょうか…。ザスキア様に感謝申し上げます」

 となんか聖人みたいになってる!!


「あ、あの?ザシャくん?」

 するとガシっと僕を掴んだザシャくんは


「ユストゥスくん…私…私を殴ってくれませんか?」


「えっ!?な、何で!?」

 ついにザシャくんがおかしくなった!!

 いやだいぶおかしいですって!何か変ですよ!?


「いいから早く!」

 と言われて仕方なく僕の蚊の泣くようなパンチを受けて


「何ですかそれは!?もっと殺すようなパンチでお願いします!!」


「えっ!?む、無理だよおおお!!」


「ああ!ユストゥスくん!私は夢でも見ているのでしょうか!?明日になったら元通りかもしれません!」

 と言うから流石に僕は悟った…。

 告白上手くいったんだ!!…と。


「ザシャくん…おめでとう…何だか知らないけどおめでとう!」

 と言うとザシャくんは


「ありがとうございます!ユストゥスくん!私も何だかよく解りませんがもう婚約をしました!いや、正式にはまだお互いの両親に話さないとですが!!ふふ、ふふふふふふふふふふ!くははははははは!!」

 とザシャくんが!!笑っている!

 いや、いつものにこにこ笑いじゃなく目を開けて頰を染め天を仰ぎ大口を開け笑っている!!ふ、普通じゃない!!


 一瞬振られたショックでおかしな妄想に取り憑かれているのかと思ったけど後日、休み明けにミリヤムさんと話してたり、恋人のように接したりしてるのを見て…あ、これ違うんだ!本当にこの2人そうなってるんだ!?

と思った。


 *

 俺は休み明けに食堂でザシャに会い、ビビった!!


「王子!!おはようございます!!」

 思わず目が点になった。


「おお…おはよう…」

 隣にいたレオンも


「どったの?ザシャくん?な、何その顔??」

 といつもと違うザシャに流石にたじろいだ。


「何がですか?私の顔に何かついてますか!?やだな!王子もレオン様も!!はははは!!」

 と大口で笑っている!!

 まさかこいつ、ミリヤムに振られたショックでおかしくなったのか!?


「ひいいいい!!怖っ!なんか怖っ!」

 とレオンが怯えて、シーラとサブリナもやってきて同じように


「やはり…振られたショックでおかしく…可哀想にザシャくん…」

 と残念な生き物を見るように見ていたがユストゥスがこっそりと


「違うみたいですよ、ミリヤムさんと婚約したみたいだって…」

 は?婚約!?ちょっと待て!?昨日の今日だぞ!?いや告白は判るが、何で婚約になってるんだ!?段階がおかしい!!と思ってるとそこにミリヤムが無表情だがほんのり赤い顔でザシャのとこに来た。ザシャもいつも見せないような赤くなった顔に…


「おはよう…ございます!ミリヤム様…」

 となんと近寄り頰にキスして全員何事かと固まる。

 しかもミリヤムもふむふむとうなづいてザシャの頰にキスし返した!!


「えええええ!?何だよお前ら!?」

 するとミリヤムは


「朝の挨拶?」

 いやそうだろうけど!?


「王子、皆さんこの度ミリヤム様と婚約の運びとなりました。では…僕たちは今日から毎日一緒にご飯を取るので失礼します!行きましょうミリヤム様!」

 と何と大胆にもミリアムの肩を抱いたザシャ!

 ミリヤムもコクリとうなづき一緒に食事を取ると2人で席について、主にザシャがミリヤムの口にスプーンを運んでいる!!


「ど、どうなってんだ!?俺はてっきり振られたのかと…」


(まさか嘘じゃなかったなんて!!ザシャくんおかしくなったのかと思ったのに!?)

 とユストゥスの心の声でようやくあ、これマジのやつか!?

 と思った。

 にしてもすげえ変わりようにもはや周りがついていけなかった!!

 授業の時もザシャは…、俺の隣にザシャ。そしてその隣にミリヤムを呼び寄せていた。ザシャは俺の従者だから必然的に側にいるのだ。

 いや、離れてもいいんだぞと言うといつもの顔になり、


「いいえ、私は従者ですから、万が一王子の身に危険があった時庇わなくては!」

 とピシッとした。そしてミリヤムと向き合い破顔しなから授業を受けていた。

 ミリヤムの方も何か様子がおかしく、ザシャが甘い言葉を耳元で囁くと無表情だけど赤くなりうなづいたりしていた。


 そしてなんとも幸せそうなザシャは


「今度エルネスタ公国にご挨拶に伺う予定です。お父様達と公爵様にミリヤム様をお嫁さんに貰うことお話しなくてはなりません…。ああ、許してくれるか解りませんが…」

 いや、アスカ様はともかくカミル様は優しそうな方だしこれは上手く行くに決まってる。


「お前の両親は何て?」


「あ、はい、休みの間にお話した所普通に驚いて普通に私が言いならとか、お母様はネタゲットに喜んでいましたが、公爵様に反対されたら普通に諦めなさいとお父様は言いました」

 と普通の反応を示す両親のことを語った。

 次の休みに話し合いというか婚約は正式なものになるんだろうなと思った。


 でもちょっと待て?


「ミリヤムはナタリーに継がせるのか?ミリヤムが女公爵になるんだと思っていたが……」

 と言いうとザシャは


「なんか…アスカ様が弟を産むよう今から励まれるそうです。もし産まれた子が男児でなければ男の子の後継養子を取るらしいので」


 はあああああああ!!?

 これも何とも突拍子のない話だ!!


 そしてお昼になると2人はまた食堂に恋人繋ぎで行って2人の世界に入っていた。


「何だあいつ…。凄えよ!流石に先生とかに注意くらいされそうな勢いだ」


 シーラは


「でも良かったね!あんな幸せそうなザシャくん初めてだよ!この前なんかもう逆に死にそうな顔だったのに!!」


「ま、まぁ良かったよ…フェイトの方はどうなんだろう!?何かそっちも心配だけど…」


「フェイトくん死んでないよね?」

 とシーラも青ざめたが後日会った時は意外と普通に


「よお、ヴィル兄、稽古しようぜ!」

 と一緒に稽古していた。流石にザシャとミリヤムの話題を避けたのだった。


 その後、ザシャはあっさりミリヤムと正式に婚約が決まりおめでとうと言うと2人は照れていた。ザシャはミリヤムの手をしっかりと握りもう離さないとでも言うかの様だった。


 ほんと、良かったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る