第43話 後夜祭4
気が重いが…そろそろ時間です。
私は作ったクッキーを女子の様に綺麗にラッピングして屋上の鍵を握りしめて男子寮を出ました。
今から振られに行くのです。そして親の決めた普通の見合い相手と婚約しないといけません。
「はあぁ」
今日何度目かのため息です。
時刻はまだ夜の19時でしょうか…。
早めに屋上に忍び込み鍵をかけました。屋上から下を見るとキャンプファイヤーの光りが灯されています。催しもまだやっているようで恋人達や友達も盛り上がっています。
キャンプファイヤーの火をボーッと見ていることにしました。ああ、大文化祭が終わったら少しお休みになるし1人でキャンプに行って過ごすのもいいかと思います。
*
19時頃…寮の部屋で俺はやっと目を覚ました。
するとなんと男子生徒に変装したシーラがいた!!
「なっ…何やってるんだ!?シーラ!!ここ男子寮だぞ!?バレたら…」
しかし飛びついてシーラは泣く。
「ヴィルー!!よ、良かった!こんなに目が覚めないなんて!!うっうっ!…うううう」
と泣かれると辛いな。とにかくここを早く抜けないと見つかると厳罰だ。
「おい、とにかく外に…」
とシーラの顔色が青いのが気になった。
「どうした?気分でも悪いのか?」
「ちょっと…胸が苦しくて…男装慣れなくて思い切り胸締め付けたままで息苦し…」
とクタリと俺にもたれかかる。
「あほめ!!!何で俺が寝てる間に変装を解かないのか!!」
「だって、心配だったから…それに誰か入ってきたらどうしようって…」
くっ!
「とにかく外せ!!それからちょっと治療を…」
と言うとシーラは
「ダメ!!ヴィル目が覚めたばかりなのにまた力を使う気?そんなのダメ!!……とにかく外すね…」
とシーラは胸を縛っていた布をシュルシュル外していくから俺は顔を背けた。
「はぁ…辛い…ちょっとだけ休んだらすぐ出るね…」
「ああ…」
シーラは胸を押さえて気分が悪そうだ。
やっぱり使うか?いや…でもそうしたらシーラ怒るだろうし…。
「ヴィルと後夜祭出たかったけど仕方ないね。また今度デートしてね?」
と言われる。
はぁ…。
俺はシーラを後ろから抱きしめて光りを放った。
「ヴィル!?ダメだよ!力使っちゃ!!」
「ちょっとなら平気だよ…大丈夫か?無理して…」
と言うとシーラはちょっと涙ぐみ
「楽になった…ありがとうヴィル…」
と頰にキスする。だから寮では禁止というか学院内では禁止だって!いや、今日は誰もそれ守ってる奴いなさそうだけどな!
「じゃあ…出るぞ…」
と廊下に誰もいないのを確認して男子寮を飛び出して体育館裏のトイレで女子生徒に戻ったシーラが出てきた。
「何とかバレずにすんだな…」
「うん、ヴィルありがとう!まだしっかり休んでね?」
と心配する。ここからではキャンプファイヤーの火は見えないが音はちょっとだけ聞こえたから手を握って歩いた。
「結局フォークダンスって曲の最後に手を繋いでればいいって事なんだろ!?ダンスは流石に今出来ないけどな…」
「うん!それでも嬉しい!ヴィル…」
とシーラはうっとりと見つめる。辺りに誰もいないのを確認するとこっそりとシーラにキスした。
お互い赤くなる。久しぶりだったし…。も、もうあんまりイチャイチャはしないぞって決めてたのにこいつがあんまり可愛いから悪いんだ…。お、俺もちょっと精神鍛えないと!!
*
気付いたら20時少し前だ。
屋上でボーッとひたすら火を見続けていた。
すると背後が光り、魔法陣からミリヤム様が現れた!!
「あ…ミリヤム様…」
来てくれたのか…。
いつもみたいに無表情だけどミリヤム様は開口1番心臓が飛び出るくらいのことを言った!
「ザシャ君!私と結婚しよう!!」
一瞬石になりかけた。
「は!?」
「あっ、違う…いや、一緒?私ザシャくんのとこにお嫁さんに行くから私にお菓子くれるよね?」
………………!?
いろいろと待ってください?あれ、私が告白して振られる予定だったのに、何ですかこれは?
「ミリヤム様?一体どういうことなのですか?」
一応聞いてみると
「んーとね?何かザシャくんに婚約者ができたらもう私にお菓子くれたりしてくれないってナタリーが言ってて、婚約者がいるなら他の女の子にあんまり近付かないから今まで通りじゃいられないって。だからザシャくんの婚約者には私がなってあげれば今まで通りお菓子もらえる!!」
と言った。
まさか…日頃の餌付けがこんな所まで!?
いや、やはりお菓子目当て!?
「あのミリヤム様?お菓子は誰から貰っても変わりないでしょう?それに私は伯爵家だし、公爵家の貴方をお嫁になど…。本来ならミリヤム様は婿を取らねばならないのでは?…私の家は王族の従者の家系で嫁を取らないといけないし」
と言うと
「うん、だから私がお嫁に行くんじゃん。大丈夫だよ。もうお母様達にザシャくんとこにお嫁に行くから、今から頑張ってお父様と子作り頑張って弟を産んでって頼んだの!もしダメだったら男の養子を取る話を提案したらお母様はオッケーって。お父様はあわあわしてたけど大丈夫なんじゃない?」
「えっ…………」
もはや絶句だった。何でしょうか?これ?どういうことなのか知らないうちにお嫁にくることになっているし、アスカ様やカミル様にももう話しているとか!!?
流石の私もパニックですよ!!
「あ、あのミリヤム様…そもそも…私のこと…好きなんですか?あの…ただのお菓子配り係じゃないんですよ!?」
それなら従者でも雇えばいい話だし。
「ん?だってえ…フェイトくんとナタリーも両思いだし、ヴィルとシーラもイチャイチャだし、ユストゥスと先生もベッタリだし…私達置いてけぼりだよお…」
「そ、それは…」
え?何でフェイト様とナタリー様両思いと言うことになっているのか訳が解りません。
「ザシャくんに婚約者ができたら私もう完全に1人じゃん!!だから私でいいじゃん!!」
とミリヤム様がブーブー言い出した。
「そ、そもそもミリヤム様にもお見合い話は山程来ているのではないですか?」
「うん、来ているみたいだけど、どれも興味ないなぁ…ガチムチが多いみたい。ガチムチあんまり好きくないし、後お金目当てとか権力目当てとか私の力目当てとかばっかり…うんざりする」
と言うから私にもこれワンチャンあるんだろうか?いや、お嫁に来たいと言っているくらいだし…あれ?心がポカポカしてきた。
さっきまで絶望でもう死のうかとかちょっと思ってたのに。い、いやでも…
「ミリヤム様…もし私よりカッコいい人が現れてお菓子を貴方に与えるようになったらそっちに行くんですか?私はその…手の届くお菓子係ですか?」
と言うとミリヤム様はうーんと考えてジッと私を見た。ドキンっとした。
私を見てる!!
こんなこと初めてだ…!
「ミリヤム様は…解ってないですよ!?婚約者とか結婚する相手ならいろいろと…それっぽいことも私とすることになるんですよ!?しょ…将来は子供だって作るんですよ?わ、私と…恋愛するってことなんですよ!!?」
と思い切って言う。私らしくなく汗をかいて真っ赤になった。
「ザシャくん…真っ赤だよ?どうしたの?」
くううう!やはり解ってないようです!
「わ、私は!…ミリヤム様が好きです!!異性として!!もっと小さい頃から貴方しか見てませんでした!!今日は想いを告白して振られる為に呼び出したと言うのに!!予想外の事ばかりです!」
と言ってやった!いい加減私もハッキリ言わないといけない!!
「ん?ならザシャくんも私がお嫁に行くのはいいって事じゃない?私が好きなのよね?」
と何か問題あるのかと非常に簡潔に言われた!!
えええ!?私のこの数年間の想いがあっさりと転がされた気分です!!
やはりお菓子係なのでしょうか?
「ザシャくん…私ね、今までお菓子とか食べ物にしか興味なくてその…恋人らしいことってよく判んない…。シーラとヴィルはたまにイチャイチャしてるし、たまに物陰でイチャイチャしてる人たちも見かけるけど全く判んない。自分もそんな風になるのかとか。……そりゃそうだよね。私…だいぶお子様だから…」
とミリヤム様は無表情だけど少し寂しげになった。彼女にとっては今までお菓子や食べ物が全てで急に恋愛脳になれと言われているものだと私は気付きました。
「ミリヤム様…すみません…一方的な想いを告げてしまい…。でも…本当に貴方のことは大切にしますよ…。許されるなら…、私の側にいつもいてください…お菓子もあげますよ…」
と作ったクッキーを渡す。いいんです、ただのお菓子係でも。もう。
「わっ!クッキーだ!ザシャくんが作ったの!?」
私はにっこりと
「ええ、うちは母がお菓子作り得意なので私も手伝うことがあったんです。母の小説の合間に使用人と一緒に作って持って行ったりね。母方の故郷は砂糖が名産でお菓子作りにはかかせませんから」
「わー、ザシャくんと結婚するとお菓子食べ放題だね!!やった!!」
やはりお菓子かー!!
ミリヤム様は美味しそうにクッキーを頰ばった。
口元にクッキーのかけらが付いていたので私はソッとそれを舐めとるとビクっとして目が合う。
「ザシャくん?今舐めたの?」
「はい…ミリヤム様…これからはお菓子ばかりでなく私のことももっと見てください…。恋愛は私と少しずつしていけばいいです…」
「いろいろ教えてくれるの?ならいいよ…ミリヤム…ザシャくんと恋愛するの…」
と言うので一層心臓が跳ねました。
私は思わずギュウとミリヤム様を抱きしめて神さまありがとうございます!!と願いました!!
これから私はお菓子よりも甘い言葉を使って頑張ろうと思います!!
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