第42話 後夜祭3

 私はザシャ・フーデマン。伯爵家子息。

 シーラ様を男子寮に導き、こっそりとヴィル王子の部屋に押し込んで置いて自分は部屋で時間まで寝ていることにしました。


 ユストゥスはシュッツェ先生と待ち合わせをしていると言ってソワソワして出かけて行きました。私は昨日のことでとてもお祭りに参加などできません…。

 フェイト様に落とせとか言われたような気がしますが…私…どの道振られるの確定なんですから。ミリヤム様が私に恋愛感情を向けてくれることはないでしょう。


 そりゃね、いろいろ餌付けてきたつもりです。好みのお菓子の味、美味しそうなもの。幸い母様がお菓子作りが好きだし母の実家の領土は砂糖などが名産だ。昔から甘いものには少し詳しかった。

 でも…


「私じゃなくて目的はあくまでお菓子しか目に入っていないでしょうし」

 振られるのは確定。

 辛くなってきた。フェイト様と2人で振られるのもいいのかも?友情復活できそうですし。


 そういえば私にも見合い話が来ていたな。うちは王族従者の家系だから一人っ子の私は家系を守る為、絶対に嫁を取らなければならない。

 この点からしてもミリヤム様は公爵令嬢であることから無理難題である。しかもあのチート魔女アスカ様の娘で欲しがる国や軍事関係のお見合い話が向こうにも来ているのだから、ますます私の入る隙は無いに等しい。


 いくらこの学院が身分は関係なくとも…こと、結婚においては家同士の問題もあるし…。絶望的だ。はぁ。


 お父様は普通にお母様とお見合い結婚したと聞いた。私も普通の令嬢と結婚して普通に家を継ぎ、産まれた子に普通に王家の侍従として育てて行くのかな…。


 きっとそうだろうな。

 今日できっと最後だ。キッパリ振られてきてミリヤム様を忘れよう!!そしてただの幼馴染として一線引けばいい。

 私は覚悟を決めてどう告白してどう振られるかを考えて振られた後、穏便に済ますにはやはり菓子を持って行くのがいいだろうと寮のキッチンで1人クッキーでも焼き始めた。


 *


「フェイトー!?いつまで寝てんの?文化祭3日目は生徒の祭りだろー?行ってこーい!」

 とお母様がうるさい。

 昨日の今日で行けるか!っての!気分も悪いし。


 …ナタリーを殺しかけたなんて…。

 それなのにあいつは俺と後夜祭一緒にと言ってきた。バカか。ほんと!生徒に変装までして俺を待つとか!行かねーし!

 俺はザシャにミリアム姉を譲ったんだ!

 し、失恋ってやつだ!ハートブレイクだ!!


「おーい、フェイトー!いい加減にしないと殴るぞ?」

 と部屋の外からお母様がうるさい。

 しかし、


「フェイト…どうしたんだい?何か悩みがあるのか?お父様が話を聞こうか?」

 と言うので俺はガチャリと鍵を開けてお父様だけ入れた。お母様は


「ええっ!?母親のこと何だと思ってんのよ!きー!」

 と喚いていた。


「お父様…好きな人を諦めなければならない時…俺はどうしたらいいのか判らない」

 するとお父様は赤い目でジッと俺を見た。


「フェイト…まさかお前が恋をしていたなんて…普通なら諦めるなと言いたい所ですが、お前は諦めなければならないと言ったね?それほどまでにライバルは大切な奴なんだね?」

 と言われて俺は震えた。


「う…お、俺…友達を本気で殺しかけた…。力なら誰にも負けないからって!赤髪も使ったけど…俺は扱いが下手だから拳に頼って…しまった。もっと赤髪の力を引き出したいのに!ごめんなさい、お父様!俺は赤髪の一族失格だ!!誇り高き一族なのに!!」


 お父様は俺を慰めて背中を撫でた。


「フェイト…確かにお前は赤髪で戦うのはまだヴィル王子には敵わないだろうね。赤髪での戦闘センスはどうしてもヴィルの方が飲み込みがいいしな。でも、レーナ譲りのその拳は…破壊することだけにあるのかい?本当に使うべき時に使うものじゃないかな?」


「……はい…」

 お父様は頭を撫でて


「あのレーナもね、子供の頃から力が強くてね?いろいろと破壊しまくって怒られてばかりだったらしいよ…。だから避けられて友達は出来ないどころか逃げて行く。お姉様とも最初は最悪な関係だったけど次第に打ち解けてきて…今ではとても仲が良い」

 俺は黙って聞いた。


「だから例えそのフェイトの友達と喧嘩になってしまってもきっと普通に仲良くできるはずです。フェイト今は辛いかも知れないけど好きな人の幸せを願うことは案外悪くありませんよ。しばらくは苦しいでしょうが…」

 とお父様は昔を思い出しているのかちょっと苦い顔した。それでもきっと大丈夫だと言ってくれた。


「お父様…俺、頑張るよ!!剣も!強くなって一族を継げるように立派になるね!!」


「フェイト…!」

 お父様は嬉しそうに頭を撫でた。

 それから部屋を出てお母様にもう大丈夫ですと説明して廊下を遠ざかった。


「ナタリーにも謝らないと…」


『フェイトランス様…私貴方様をお慕いしてます!後夜祭は私と出ていただけないでしょうか?』

 急にナタリーのあの言葉が思い出された。

 お慕いって…俺のことを好きってことか…。散々女にも同じようなこと言われたから解る。


 昨日ザシャが去った後にナタリーは一応待ち合わせ場所を言ってシーラ姉と女子寮に帰った。見つかったら厳罰なのに。あいつも変に度胸があるよな。


「はぁ…」

 失恋であまり祭りには行きたくないけどナタリーはたぶん俺が行くまで待っているだろうし、あんな人気のない暗がりで待ち合わせとか…変な奴が来たらどうするのかと思う。


 俺はのろのろ支度を始めた。学院に着く頃には午後を少し過ぎていてそこかしこに恋人とかがゴロゴロいやがる。文化祭効果…。

 ああ、こいつらみんなぶっ飛ばしていきたい衝動を抑えつつ、俺は恐らくまだ早いだろう待ち合わせ場所に向かった。


 *

 私ナタリーは既に賑やかな雰囲気の学院の表通りの広場から抜けて人目に着かない待ち合わせ場所にいた。なんとなくもうずっとここにいようかな…なんて思ってしまって。昨日のこともあるし。フェイトランス様はきっと来ないだろうけど…。と持ってきた漫画を読んだりすることに決めた。すると…


「あれ?こんなとこに女の子1人どうしたの?」

 ?誰?この人…何でこんな所に…見たところ上級生だわ…。


「俺はメルヒオール・デッセル…子爵家の子息だよ?君こんな所で何をしているの?お祭りには参加しないの?」

 不味い。


「あ、あの…ちょっと人酔いして休憩というか…」

 と誤魔化すとニヤリとその上級生は笑い


「そっかあ、俺もなんだよね?後夜祭でも誘う子が取られちゃって寂しいんだ。ねぇ、君俺と出ない?君も相手居なさそうじゃないか?…なんなら」

 と上級生は舐め回すように私を見てゾクリと悪寒がした。


「俺と後夜祭までここで時間を潰そうか?君…凄く可愛いね?俺はラッキーだ。君と出会えて…。ふふ、怖がらなくても優しくするよ?」

 と私の髪を持ち上げてキスする。

 ひっっっ!!

 何この人気持ち悪い!!やだ!これ、漫画で良くある悪い雑魚キャラだわ!!でもこれ現実だし、フェイトランス様との約束時間は先だし、そもそも来ないって思うし、助けを呼ぼうにも人気のない場所だし…!


「や、やめてください!!私は…」

 すると抵抗虚しく壁に手を拘束される。痛い!


「いいじゃないか?寂しいもの同士、慰め合おうよ?それにしても君みたいな可愛い子を振ったやつを見てみたいなぁ…。まぁいいか」

 と舌舐めずりして顔を近づけるので私は思い切り拒絶して頑張って抵抗をするけどびくともしない!


 いやっ!こんな訳の分からない知らない人に穢されるなんて!!だ、誰か助けて!!

 ムチューとした顔の先輩が迫る!


「ひいっ!いやああああ!」


「…何してんだ?」

 とそこで先輩を赤い髪が包みギリギリ締め上げる。


 え?


 こ、この声!!

 う、嘘!!?だって待ち合わせにはまだ早いのに!!

 いや、来てくれるなんて!!!?


 髪で上級生を締め上げるフェイトランス様がいた!!


「グエッ!モガッ!!」

 と上級生は苦しみフェイトランス様は上級生をそのままぶん投げて木に激突して気絶した!


「……何だあいつ?ていうかナタリー何でこんなとこにいる!?まだ待ち合わせまでだいぶあるのにバレたらだうするんだ!?バカだろ!?」


 えええ!?それはフェイトランス様も同じでは?何故こんなに早いの?というか来てくれるなんて!し、しかも私のピンチを救ってくれたまさに王子様!!漫画ですか!?

 いや、漫画よりカッコいい!!す、素敵!

 ポーッとしていると


「はぁ…ほら行くぞ。まだ後夜祭まで時間あるだろ!?1人でいるとあんなのが寄ってくるから俺が保護しといてやるよ」

 と少し照れながら言うので私は全力で脳内に今の台詞を刻み込みネタに…いえ、嬉しさでニヤついてしまいます!!


「は、はひっ!フェイトランス様ぁ…」


「何だよお前…変な奴だな…はぁ…」

 と言い、私とフェイトランス様は一緒に周ることになりました!!神様ありがとうございます!!

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