第24話 思えば告ってない

 俺は怪我の酷いザシャから治療を始めた。

 ザシャは治療中何があったか話してくれた。


「王子達が飛び去ってから…フェイト様に昨日はミリヤム様と何ですぐに戻ってこなかったのかいろいろ聞かれまして…ミリヤム様はサプライズの為に皆様のケーキを買って転移魔法で邸に戻りシェフに冷やして貰っていたのですが…」


「ああ、俺達が出発する前にケーキ食べたなそういや」


「転移魔法が魔力消耗するのを知ってるでしょう?だからミリヤム様は戻る前にまた食べてちょっとだけ眠くなってしまわれてですね」

 そこでザシャは頰を赤くした。


「なんかしたのか?」

 一応聞いてみると


「ええ、まぁちょっとね?私にもたれかかって眠る小動物のようなミリヤム様が可愛くて愛しくてつい…」


「え?つい?」

 まさか寝込み襲ったのか?


「髪にキスを…」


「髪かーいっ!!」

 と突っ込むとザシャは


「王子…シーラ様とイチャイチャして麻痺しているんでしょうけどね?私にとっては異性に…母以外で初めてです!勇気出したんです!寝てる時ですけど!髪ですけど!」

 と怒られて


「ああ…ご、ごめん…。それでお前はフェイトに包み隠さずに言ってこんな大怪我させられて?よく生きてたな」


「はぁ…まぁね。でもフェイト様だってあの後戻ってきた僕をぶっ飛ばして、どさくさに紛れてミリヤム様を抱きしめてたじゃないですかっ!?私より酷いと思いませんか!?」


「ああ、そうだな…まぁフェイトは頭の中単純だからな…全く考えずにキスって部分だけ拾って髪って部分聞いてなかったんじゃねぇの?」

 と言うと


「私もそう思います。腹立ちます。何で私がこんな目に…と思って柄にもなく爪伸ばして抵抗精一杯しましたけどね」


「ああ、まぁお前も頑張ったよな。フェイトには力じゃ無理だろうしな…」

 ザシャの治療が終わり、


「当分は喧嘩すんなよ?俺が全力で止めることになるんだからな?」


「判りました。フェイト様の挑発は無視します」

 とザシャはお礼を言い部屋に帰る。

 次はフェイトだ。


 フェイトはザシャの爪で肩やら足やらを貫かれ貧血と傷から血を出している。


「全く…ザシャの全力か。お前もちょっとは手加減しろよ!ザシャボロボロだったぞ骨折れて」


「髪の毛は使わなかったからな。ハンデやったんだ!それでも!ザシャが寝てるミリヤムねーちゃんにキスしたって自慢したからムカついて我を忘れて気付いたらあんなことに」


「お前なぁキスって言っても髪の毛だってよ。髪の毛!!」


「へ?髪の毛?え…」

 絶対こいつやっちまったみたいなこと思ってるよ。


「い、いや髪の毛でも許せねえ!」


「そんくらい許せよ!お前だってミリヤムに抱きついたんだろ?そっちのが倍すげえよ」

 と言うと


「ふっ…やった!勝ったぜ!」

 とガッツポーズしている。そんなことで勝ってどうする。ナタリーがまた泣いてんだろうな…。


 フェイトの治療も終えて俺は部屋を出ると丁度シーラもナタリーの部屋から出てきた。


 シーラは俺を見るとフイっと横を向いた。


「ナタリーは?」

 と聞くと


「フェイトくんのことで傷付いていたから慰めた。今は少し落ち着いたみたい」

 とそれだけ言うと後ろを向いて部屋に戻ろうとする。


「おい、シーラ!なんなんだその態度!今朝から!」

 するとシーラは言った。


「別に!?ちょっとヴィルに興味が無くなっただけだよ?あんまりシーラのことエロい目で見ないでよね!」

 と言われて俺はショック受けた。薬効き過ぎというかもはやほんとに嫌われてんじゃねーか!!


「別にエロい目で見てねーし」


「あっそう!?じゃあね!」

 とシーラは部屋に戻っていく。いつもなら可愛く頰にキスとかしていくシーラが俺のこと嫌いって…。


 まぁ俺が飲ませたんだけどな。

 ここまでとはな。


 *


 それからも天文部の皆やフェイトと休暇合宿する為に俺は天体望遠鏡を人数分用意して渡す。

 シーラは俺をどんどん嫌いになっていくようでサブリナ達もついに異変に気付きはじめた。


「どうしたのヴィルくん?シーラちゃんと喧嘩?」


「あっ、ああなんか怒らせちゃってさ…大丈夫だから」

 と苦笑いする。

 サブリナは


「まぁね…ヴィルくんてさ、シーラちゃんがあんなに好き好きと言ってるのに全く返してないもんね?そりゃ怒るよね?鬱陶しがったりさ?一度でも自分から告白したことあるの?シーラちゃんに」

 と言われグサッときた。

 そういえば俺…告白とかしたか?婚約の時も責任取れあほって言ったような…。よく考えたら普通に酷いな。俺。


 ともかく望遠鏡を覗き月を皆で探す。

 シーラはよく見えないらしく、俺が声をかけて


「探してやろうか?月…」

 と言うとシーラは


「いい!自分でやる!ヴィルなんかに頼まない!!」

 と返ってきた。


「ふーん判った…じゃあな」

 と俺はシーラから離れた。


「………」

(何で?……解んない!?意味不明!!)

 とシーラの心の声が泣いてる気がした。


 結局シーラは月を探せなかった。

 皆は探せたようで


「おおっ!凄い!!くっきり模様見えるぞ!」


「凄い凄い!ああなってるんだ!」


「わー!これが拡大した月か」

 と口々に皆感動している。

 シーラはそれを聞いて…望遠鏡を投げつけた!


 ガッツっと土に落ちて破壊された。


「こんなのっ!全然楽しくない!何でシーラ天文部なんか入ったんだろ!?」


「シーラちゃん?どうしたの?大丈夫?」

 サブリナが声をかけるがシーラは


「っっ!」

 と辛そうに走っていく!夜の王都の方へ!


「シーラ!!あのあほ!ザシャ!片付けとお前ら先に戻ってろ!!」

 と言い俺はシーラを追いかけた!


 神獣だけあって足速い!!

 酔っ払いオヤジがシーラに絡んでいるのを発見したが


「お嬢ちゃん?1人かな?おじさんと…」


「エッチなこと考えてる!最低!」

 とビリビリとおじさんに威嚇しておじさんはバタリと倒れた。


「シーラ!!」

 俺は追いかけてようやく路地裏に追い込んだ!!後は壁だ。


「シーラ!お前な!」


「なんなのヴィル!追いかけてこないでよっ!ヴィルなんか嫌いって言ってるでしょ?匂いも嫌い!顔も声も!全部!なのに何でシーラ前はこんな人のことっ!もう全部嫌!!」

 そう言うシーラにゆっくり近づいていくとシーラはビリビリと帯電する。触れたら痺れるなこれ…。


「よく考えたらシーラのこといっつもあほあほ言いまくってるよね?ほんとなんなの?自分がちょっと頭が良くて奇跡の王子だからって赤髪の一族だからって!調子に乗ってさ!」


「そうか…」


「シーラ神獣だよ!?偉いんだからね?ほんとはすっごく偉いんだから!!ヴィルなんか全然凄くない!フェイトくんよりも弱いし、ザシャくんより狡猾さはないし!」


「うーん」


「だから!近づいてこないでよっ!痺れるよ?死んじゃうよ?」


 俺はそれでも距離を詰めた。壁に追い詰めてシーラの逃げ道を無くす。当然バチバチと電気で痺れる。奇跡の力で保護膜をかけてなかったら死んでるよな。


 シーラは睨んで


「ヴィル離れて!殴るよっ!?もうヴィルとは婚約かいしょ…」

 と言う前に唇を塞いだ。

 保護膜貼っててもめちゃくちゃ痺れる!!

 流石にちょっと痛いな…。

 ようやく唇を離して俺はシーラに言った。


「シーラ…ごめん…後…好きだ…」

 と言って俺はバタリと倒れた。

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