第23話 ここの巣では安眠できない

 結局セキリュウ一家の巣穴の人間用の部屋で一晩寝かせてもらうことにした。

 ちゃんと父上が一応バスルームやトイレも置いといてくれて良かったわ。


 風呂から上がり俺はゴロンとベッドに横になるとなんか柔らかいものが手に触れた。

 …………この展開…


「シーラ…何してんだ!?」

 ベッドには当然のように人間のシーラが可愛らしいネグリジェで寝転んでいた。


「ヴィル…だって人間用のお部屋はこの巣穴で一つしかないんだよ?」


「ああ…そうだ。だからお前はドラグー化して巣穴で寝ろよ!ボコボコ空いた穴がたくさんあるだろ!?」

 するとシーラはぷうっと膨れた。


「ヴィル!酷い!私これでも公爵令嬢だよ!?お母様だってお父様と出会ってからほとんど人間で過ごしててすっかりこっちの生活なのに!シーラなんて産まれた時から人間と同じように生活させられてこっちの方がむしろ慣れているんだよ?ドラグー化する方が少ないでしょ!?」


「うぐっ!」

 確かに!人間の方が圧倒的に多くシーラはそっちに慣れている。だからといって…


「じゃあ俺はソファーで寝…」

 と言うと寝巻きをガッシリ持って離さない。

 ギギギと逃れようと頑張る俺。離さないシーラ。


「やだ!ヴィル王子様だし、シーラの背中乗って疲れたでしょ?柔らかいベッドでちゃんと眠って!お願い!」


「あほめ!!んなことできるかっ!!離せ!!」


「そ、そんなにシーラが…嫌いなの??」

 くっ!そ、そんな目で見るな!あほめ!俺とお前が結ばれるのはもっと先…。こんな所で一緒に寝るとか無理!!どうする!?

 シーラのことだから俺が寝入ったら絶対に襲う!!もういろいろとローマンおじさんみたいに流されるだろう。


「嫌いとか好きとか以前の話だお前は!もも、もっと慎め!」


「でもセキおじさんがいつやるの?今でしょ?って言うから…。」

 言うなよっ!!そんなこと!!言ってたけど俺にも!!


「くっ!仕方ない…」

 と俺はシーラに一度キスして力が弱った所でパッと離れるのに成功し、


「あっ…」

 とシーラがまた掴む前にソファーに移動して自分の髪を自分にグルグル巻きにして繭みたいになって眠ることにした。俺の髪は奇跡の力もあり伸縮自由なので他の赤髪の血を引く奴等とは違い、切らなくて済む。流石にこれではシーラも手が出せなくてむくれた。


「ああっ!ヴィルのバカ!折角のチャンスが!折角可愛いネグリジェ着たのに!ヴィルに興奮してもらいたかったのに!!ばかあ!」

 とポカポカ叩かれるが気にせず眠る。

 すると目が覚めると女神界にいた。


 *

「おやヴィル…チャンスやったのにね、はい」

 とザスキア様が現れる。


「………まだ2年ありますので」

 と赤くなる。


「まぁあんまりガツガツしてる肉食女子は好かんよな?」

 とザスキア様はニヤニヤ笑うが


「シーラはな、神獣として子を早く作りたいと言う想いが強い。本性には逆らえないのです、はい。ハクリュウもそうですが、雌ドラグーは子を作るのが生まれついての使命と感じ、それを真っ当することに全力を注ぎます」


「そう言うのは獣としての本能で恋とは違うのでしょうか?」


「似て非なりともね…。番とは運命ですから。もしヴィルがドラグーであったならシーラとの子はとっくに出来ていてもおかしくないでしょうね。後2年で結ばれますが、お前も大変ですね、はい」


「は…はい…」

 やはり赤くなり俯く。


「まぁ…そんなに困るなら一時的にシーラの発情を押さえる薬を飲ませたらいいぞ、はい」

 とザスキア様が謎の小瓶を出した。


「おおっ!ありがたい!」

 それを受け取った。


「まぁたまにはヴィルにもいい薬だね」

 と言い、どう言う意味か判らないがとにかく視界は白くなり俺は自分の髪の中で目覚めた。手には小瓶。


 繭を解くとシーラが目を赤くして俺の側で床に座り頭だけこちらにもたれかかり眠っていた。

 こいつは!こんなとこで!

 まだ夜中だった。


 俺はとりあえずシーラを抱えてベッドに運ぶとシーラは


「う…ん…」

 と言い、いきなりガシリと俺の首を掴まえる!!


「ぎゃっ!」

 凄い力だ!寝ぼけてやがる!!

 このままでは締め殺される!神獣の力を舐めてはいけない!!

 何とか髪の毛で引き剥がそうと頑張る。

 格闘しながらも何とか離れて息が上がるわ!

 シーラのネグリジェが乱れて白い脚が見えてドキリとして慌てて布団を被せた。

 心臓に悪い!!


 ……ザスキア様の言う通り、シーラの発情を抑えた方がいいなこれは。

 俺は小瓶を開けてシーラにソッと近づいて…開いた口に流し込んだ。

 コクリと喉を通るのを見るとやっと安堵した。

 そのまま俺も疲れてパタリと眠った。


 そして朝になり


「きゃっ!!」

 と小さく悲鳴がしてシーラを見ると青ざめて


 壁際にシーラは寄る。


「ヴィル!シーラに何もしなかった?」


「は?してねぇよ!」

 昨日襲ってきたのはお前だ!と思うが様子が変だ。


「ふーん…良かった…着替えるからヴィルはお風呂場で着替えて!レディーファーストよ!」

 とシーラは俺を風呂場に追いやった。

 これは…薬が効いてるのか?


 シーラは着替え終わったから出てきていいと言って扉を開けると俺に興味ないように横を向き


「おはようヴィル…」

 と素っ気なく言う。こんなシーラ初めて見た!

 その後も朝食でセキリュウさんが、


「おやシーラ?どうしたんだね?王子と喧嘩かい?それともベッドの相性が悪かったのかな?」

 と聞くとシーラは怒った!


「セキおじさん!変なこと言わないでっ!シーラ達まだ子供なの!!」

 とプリプリ怒りセキリュウさんもポカーンとしていた。


「ど、どんなプレイをしたんだ、王子よ」


「いやしてませんよ!!」

 と言って、ミリヤム達の公爵邸に帰ることにした。


 シーラは


「茂みで服脱ぐから音も聞かないで!エッチ!」

 と言い、脱ぎ終わったら紙袋に入れて俺に投げて渡した。扱いが随分と違うな。


 ドラグー化したシーラの背に乗ると


「変なとこ触ったり想像しないないでよね!」

 とまたプリプリ怒る。何だこいつ?

 昼になり途中で休憩の為にまた湖に降り立ち、人間化して一緒に食べるバスケットを取り出すがシーラは自分の分を取り、俺から距離を取り食べた。昨日はベッタリ距離が近かったのに。


 凄い効果だけどなんか…嫌われてないかこれ?

 発情しなくなったから??


 それからもシーラの背中に乗って帰る途中もシーラは無言だった。話しかけると


「うるさい!!」

 と言われる。うーん…まぁそういうものなのかもな。

 夕方に到着して人間に戻ってもシーラは俺から離れて歩いた。………何なんだこの態度は。いくら発情しなくなったからって…。気軽に話してくれてもいいのに。


 もやもやするなぁ!!

 と思って皆の所に戻るとサブリナが駆けてきて


「ヴィルくん!!大変なの!すぐに2人を治して!!」

 と青ざめる。


 戻ってきて見たのはフェイトとザシャが共倒れしてボロボロになった姿だ。特にザシャの傷は酷くて骨は折れてるし!!フェイトの奴は鋭い爪で流血が凄い!


 ミリヤムを巡り闘ったらしい。当のミリヤムは


「止めようとしたら2人共止めるなって強く言われて怖かった。男の勝負に女が水差したらダメって言って…お母様もそういうものよって言うし。お父様はおろおろしてるだけだし」

 と言った。


 帰る早々俺は2人に治療を施すことになった。

 俺とシーラがいないとこいつらを止める奴がいない。


 そのシーラは俺と目が合うと逸らす。

 はあ…どうなってんだ、全く。

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