第22話 黄金竜と空の散歩

 夕食の席でシーラは皆に


「明日はセキおじ様のところにヴィルと行ってきます。皆は自由にしていてね?」

 と言うとカミル公爵が


「我が国を豊かにしていただき大変感謝しておりますとお伝えください、シーラ様!」


「特大のお酒も用意したわ」

 とアスカ様がドラグー化したシーラが首から下げれるような巨大な酒瓶に紐を通したものを用意していると言う。シーラ自身はプッシュバウムでのお土産……主に人間化する時の服をセキリュウ一家の分を丸ごとトランクに詰めて俺に持たせる気だ。


 ドラグー化してほとんど過ごしているセキリュウさん達は人間化するのが少なくて人間の服を持っていないことが多いのだ。人里にあまり降りないからだ。たまに人間化

 してもお互い原始人みたいに素っ裸なことが多いとか。野生だよな。


「明日朝早く出るから見送りはいいです。私ドラグー化するし」

 それにユストゥスがにへりと想像しそうになるからまたゴンと髪をハンマーにして殴っておいた。


 夕食が終わるとシーラは


「ヴィル…明日は早いからよく眠ってね?シーラから落ちないように口の中に入っていてもいいよ?」


「普通に飲まされそうだから嫌だ」

 どんなプレイだ!!

 と横を向くとシーラはすかさずチュッと頰にお休みのキスをした。不意打ちに驚いて廊下の壁まで後退するとシーラはふふっと笑い


「ヴィルおやすみっ!シーラの夢たくさん見てね!」

 と言われて


「み、見るか!!あほめ!!」

 とチョップして部屋に入った。壊れていたドアノブは元に戻っていた。


 *

「………ラ……てる…シーラ…愛…」

 恥ずかしそうなちょっと成長しているシーラがとても可愛く…俺は……………!!!!


 ハッ!!


 目覚めるとまだ夜明け近い。だがもうすぐ時間と悟り起き上がり赤くなる。


「くっそ!何であの夢をまた見るんだ!?昨日シーラが言ったからか?」

 とにかく俺は部屋に備え付けのバスタブにサッと入り身支度を整える。部屋を出て何人かの使用人と挨拶し、外に出て公爵邸のお庭の木陰でシーラと会った。


 なんか逢引みたいで恥ずかしいんだが!


「おはようヴィル!!」

 とシーラが笑顔で挨拶し、ドキッと心臓が跳ねる。あ、あんな夢なんか見たし!くっ!消えろ!!あんなの!!

 と気を取り直し


「おはよう…まだドラグー化してなかったのか?さっさとしろ」

 と言うとシーラは


「脱いだ服をヴィルに渡さないといけないからね?誰もいない?」


「いないから早く脱いで渡せ」

 と俺は後ろを向いた。シーラが着替える音が聞こえて恥ずかしくなる。俺もお年頃だったか…。そういうのはもう卒業しなきゃダメだろ。子供の頃から既に精神的に大人に近かったんだから…。


「ヴィルとりあえず服は畳んだよーっ、こっち来て?」


「こっちってどっちだよ!?お前全裸だろ!?俺目瞑ってんだからな!」


「あ、右。そのまま真っ直ぐ!」

 とシーラが支持するが判らん…。

 するといきなりガバッと抱きつかれる!


「わっ!」

 と思わず目を開けそうになるが開けたら終わりだ。


「ふふふ、驚いた!?」


「抱きつくな!!あほめ!!」

 シーラは俺の手に畳んだ服を渡して

 ドラグー化したようだ。


 キラキラと光の気配がして目を開けると美しい黄金の輝く神獣ドラグーがいる。


「ドラグー化するとヴィルと抱き合えないから嫌だなぁ」

 とシーラはブツブツ言う。

 俺はシーラの服を紙袋に入れようとして気付いた。一番上にわざと見えるように可愛いレースのショーツがあった。

 グハッ!!あほか!!


 サッと紙袋に放り込みトランクと一緒に髪をロープにしてくくりつけた。

 シーラは巨大な酒瓶を首に通した。


「ヴィル乗っていいよ?」

 とシーラが言い、俺はシーラの背中を掴んでよじ登る。髪を使いシーラの角に巻き付け一気に背中に移動した。シーラは


「ああっ!ヴィルが私の背中にっ!!」


「変な声出すなっ!あほ!!」

 と言うと


「じゃあ主発するよー?途中で湖で休憩するから捕まっててね?」


「ああ」

 と返事をするとシーラは黄金の両翼を広げて空へとブワッと舞い上がる。風を感じ目を開けるともうそこは空だ。公爵邸が小さくなる。


「うふふ、ヴィルとお空の散歩楽しいね!シーラも久しぶりだよー」

 と飛びながら言う。


 空の散歩は確かに気持ちがいい。フォルカーとライマーで結構トラウマになってたけど。

 速度を最適に保ちシーラは酔ってないかとか気遣う。


「大丈夫だ。お前も疲れたら言えよ?」


「うん!ヴィル大好き!!」

 と言う。あほめ!


「酒は重く無いのか?」


「大丈夫だよっ!ドラグー化したら全然重く無い」

「お前達ドラグーの色って不思議だよな…遺伝とかあんまり関係無さそうで兄弟も親もバラバラだしまぁシーラは人間の時も髪は金だけど」


「うん、色はね?女神様が決められるんだって神獣達に伝えられてるよ?」


「そんな理由かよ…」


 途中で昼になり目的の休憩の為の湖に降りてシーラはドラグー化を一度解いて服を着て一緒にお昼を取ることにする。俺は敷き布を敷いてお昼のバスケットを取り出して用意した。シーラも手伝おうとするが


「お前は休んでな…」

 と言うと


「ヴィルが優しい!!」

(はぁ、好き!好き好き!!)

 と心の声で言う。こいつ…最近わざと俺に読ませてるよな?いやもっと前からなら確信犯だよな!!?


 バスケットの中は軽いサンドイッチやら鳥の唐揚げにミニポテトパイとデザートの果物が入っている。


「ヴィル、あーんして?」

 とくっついてシーラが言うから


「普通に自分で食うわ!」

 と言うと涙目になり


「ううっ!やっとヴィルと2人きりでイチャイチャできるのに!学校じゃほとんど出来ないしっ!ううっダメなの?食べさせることも?」

 くっ!確信犯め!


「いちいち泣くな!うるさい!俺は赤ん坊じゃないってことだよ!でもそんなに食べさせたいならちょっとだけ付き合ってやるか…」

 と口を開ける。スッゲー恥ずかしいわ!いくら誰もいないといえ…


 シーラは嬉しそうに俺の口に入れる。2人でお昼を全部平らげて後片付けをする。

 シーラはまた服を脱いで渡しドラグー化する。

 そして空の旅を再開し、夕方前にセキリュウさん達が住む洞窟に到着する。

 洞窟だ。ドラグーだから仕方ないが一応人間用の客室みたいなのが何故か洞窟内に作られている。この地を訪れた父上が大工さんを引き連れて昔手作りで作って行ったらしい。

 他は皆洞窟内に空いた穴で眠るようだ。洞窟というかもはやドラグーの巣だな。


 セキリュウさん達に人間用の服を渡して彼等は久しぶりに人間化して服を着て俺と挨拶した。


「セキリュウ様ご無沙汰しております」


「ヴィルフリート王子!少し大きくなられたかな?ジークヴァルト陛下やクラウディア王妃はお元気かな?」


「はい、元気に国を支えております!妹のステファニーも今年で9歳です」


「そうか…懐かしいな…ダモンと戦ったのが昨日のようだよ、お土産も気に入ったよ!この服も酒も!夕飯は妻が人間用を頑張って作るそうだ。楽しみにしていてくれ」


「はい!ありがとうございます!」


「ところでヴィル王子…シーラとは仲良くしたいるかな?そろそろ子作りしても良いだろう?」

 と言われ固まりかける。


「いえいえ!!まっ!まだ!そんな!俺たちは健全にお付き合いをさせていただいております故!!」

 と今朝の夢思い出すからやめて欲しい!!


「何?シーラも成長したからいけると思うんだが、そうか…まだ君のサイズが…」

 うるさいわっ!!!ほんとやめて下さい!!


「いや出来ればほんと雌をシーラには産んで欲しいんだよ。神獣の雌は希少だしね」


「将来の番の為にですか…」


「うむ、まぁ人間の君には申し訳ないが我等神獣は子孫を残して国や世界を豊かにする役目があるからね…それに番というのは特別な存在だ。死しても消して別れない。生まれ変わって同じ相手の魂を求めていくとも言われているから番同士は会った瞬間に恋に落ちるのだ。人間の場合はそれが判りにくくてな」

 なるほど…。


「シーラのことを頼みますよ?王子…あの子は泣き虫ですが…ヴィル王子が番だと感じた時は本当に嬉しかったと話すのですから」

 番なら会えて嬉しい…前世から魂の繋がり…じゃあ俺って前世もシーラと夫婦だったりしたのか?


「まっ、とりあえずシーラと早く子作り頑張ってくださいね?今夜でもよろしいですぞ!?」


「あはは…」

 やっぱ神獣はほんと子作りに夢中だなっ!!

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