第21話 ミリヤムを探せ

 公都ラグニアは入り組んだ路地裏が結構多くてちょっとメインの大きな道から狭い所に入ると迷路みたいになってしまうから


「おい、シーラ!お前まで迷子になるなよ!?仕方ないから俺の服でも掴んどけ!」

 と言うと


「服伸びちゃうから手がいいの…だめ?」

 と上目遣いで言われかあっと赤くなる。


「……お前が迷子になると困るからだからな!」

 と手を握ってやると嬉しそうにシーラはコクコクとうなづく。


「そっ、それにしてもミリヤムのやつどこ行ったんだ!?ザシャ達より早く見つかるといいんだけどな…面倒なことにならないように」


「うーん…シーラはどっちでも良いけど…やっぱりザシャくんかな?」


「だから男子寮潜入は…」


「違うよう!それ抜きで考えても普通にザシャくんやフェイトくんが振られた所を想像したら…フェイトくんが振られてもナタリーちゃんがなんとか慰めるかもしれないけどザシャくんは…私達がいるとは言え…心の均衡を失って自死とかしちゃうかも」


「えっ…」

 絶句した。確かに俺とシーラはザシャとは長い付き合いだし…あいつは何考えてるか読めないし…一人で思い詰めて自死…ぎゃっ!あり得る!流石に青くなったらシーラが


「流石にないかな?」


「自分で言っといて!とにかく探すぞ!食べ物屋で聴き込みだ!」

 そして片っ端から食べ物屋を当たるがそんな子は見ていないとの証言が多い。


「食べ物屋じゃないのかな?屋台にもいないし」


「ミリヤムが飯を求めないなんておかしいだろ?」


「もしかして悪い人に攫われたとか?」


「いや、ミリヤムなら襲われそうになったら自分でボッコボッコに殺るだろうな。あいつ攻撃魔法は完璧だしな」


「でも…眠らされてたりしたら…」

 一応ミリヤムはアスカ様の娘だしな…。世界で魔法を使えるのがアスカ様とミリヤムだけとなればその力を欲しがる国は多いかもしれない。


 実際ミリヤムには軍隊隊長のお誘いとかがよその国からもバンバン来ているし、軍事利用しようとそういう系のガチムチの男との見合い話も来ているっぽい。ミリヤムは食い物にしか興味ないから食の美味しい国じゃないとお断りされるだろうな。


 そこへ

(おっ?金持ちそうな坊ちゃんと嬢ちゃんじゃねぇかっ!二人とも上玉だな!人買いに売ったら高く値がつきそうだ!)

 と流れ者なのか男が近づいてくる気配。


「なぁ君達…」

 俺は髪を無数の剣に変えて男の服を切り刻みパンツだけにして


「何?おじさん?そうだ、女の子見なかった?俺たちくらいの黒髪で三つ編みの普通の顔でよく食ってる子だ」

 と言うとおじさんは


「知らねえよっ!」

(なんなんだこのガキ!髪の毛を剣に!?どっかで聞いたような…ああ?あの三つ編みのガキを探してる?)


「知ってる?これは驚いたね、おじさん…変態として兵士に突き出されたくなかったら居場所吐けよ?次はそのパンツごと斬るぞ?」

 と言うとおじさんは青ざめて


「ひいいいっ!」

 俺は逃げ出そうとするおじさんの片足に髪の毛を巻きつけてそのまま宙吊りにして脅す。


「おいおっさん、このまま地面に落下したくなかったらさっさと吐きな!」


「そ、そいつならさっき!灰色髪で黒目の同い年くらいの普通の男と仲良く歩いて行ったぜ!!?シャツは清潔そうな白に黒いカーデに白いラインの入った…」


「は?」

「へ?」

 思わず変な声が入る。それはザシャだ!間違いなく!今日の服とも一致する。

 あっ、あの野郎!!どう言うつもりだ!もうミリヤムと合流してたのか!?


 するとどこかの路地から破壊音がボンボン上がる。あれって…。


「ねぇヴィル…あれは間違いなくフェイトくんの破壊して周る音だね?」


「そうだな」

 と男を下ろして俺たちはそちらに向かう。

 音を聞きつけて途中でサブリナとユストゥスとナタリーも合流したがユストゥスはサブリナと手を繋いでいた!!


(は!サブリナ先輩の手柔らかい!はぁはぁ!女の子柔らかい!)

 と興奮している。ばかめ!そんな場合か!


「ヴィルくん!シーラちゃんあそこっ!」

 とサブリナが指を指すとフェイトが壁に向かい思い切り拳を叩き込み壁にヒビが入り建物が揺れた!!奥には破壊された後が惨たらしく残骸になっている。やり過ぎだろ!


「フェイト!!何やってんだ!お前正気かよ!?」

 と髪の毛でとりあえずフェイトを押さえつける!フェイトは


「ヴィル兄!離せよっ!ザシャの奴が!ミリヤムねーちゃんと転移魔法でどっかに行った!!」

 え!?

 逃避行!!?

 フェイトはもはやショックでこれだけ破壊して暴れまわっていたようだ!!レーナおばさんの青い顔が過る。


「フェイトランス様…」

 ナタリーは泣きそうだし。ザシャ…何してんだ!?


 *

 いち早くミリヤム様が甘いケーキ屋にいるのを発見した私は声をかけた。


「ミリヤム様、勝手にフラフラしたら皆心配しますよー?」


「うん…ごめんザシャくん…。皆の分のケーキ買ってお祝いしようと思って。ここのケーキ美味しいから。うちの国は素朴だけど楽しんでくれたらいいな」

 とクリクリした可愛らしい目で言われると私も心が躍り出しそうになりますね。


「お優しいですね。でもここら辺りは暗い路地が多くてちょっと変な人もいますから一応ミリヤム様はこの国で有名だし誘拐されてもね?」

 とこちらを見ている男を少し見る。


「ミリヤム強いから平気だし!」


「ですよねー。ミリヤム様、ケーキがぐちゃぐちゃにならないように先にお屋敷に置いてきて皆に後でサプライズとしてお出ししたら喜ぶと思いますよー?」


「サプライズ??」


「驚かせるってことらしいですよ。昔陛下から聞きまして。皆にバレないようにね?今さっさとお屋敷に行って戻って来ましょう!」


「うん、そうだねザシャくん!行こう!」

 と転移魔法が発動されるが、向こうから凄い形相で走ってくるフェイト様が。


「ザシャー!こらー!ミリヤム姉とどこ行こうとしてんだよー!!」

 と破壊しながら来てます!


「わっ!フェイトだ!」


「ミリヤム様お早く!見つかったらサプライズになりません!」


「うん!」

 とうなづいて私とミリヤム様はお屋敷に転移した。はぁ、後で殴られるかもしれないな。


 キッチンでシェフにケーキを冷やしてもらうように渡してミリヤム様とまた戻ろうとしたが転移魔法は魔力を消耗するので私達…主にミリヤム様は補充の為にまた食べ始めて私はそれを見守り待った。ここはお屋敷の中庭部分の芝生の上で後ろには大きな木がある。まるでピクニックのようだ。

 そう言えば2人きりだけどミリヤム様は私には関心ないだろうな。


 食べていると口にクリームがついていて私は


「ついていますよ?クリームチーズですかね?」

 と指を伸ばして口元についたものを取り思わず自分の指についたのを舐めた。するとミリヤム様はそれを見て


「ん?美味しいでしょ?」

 と無表情を少しだけ和らげた!!私の方がドキリとしました。不意打ちですね。

 私もニコリとして


「はい、とても甘くて美味しいですね!」

 と言う。この時だけとても幸せだと感じました。

 すると食べ終わったミリヤム様は少し眠そうです。


「ミリヤム様少しだけお昼寝します?私のお膝でも肩でも良ければお貸し致しますよ?」


「ふみゅ…ならちょっとだけね、起こしてね。ちょっとだけね…」

 と私の肩に頭を預けクウクウと寝始めた。

 瞬間幸せの鐘が鳴り響いた気がします。すっかり寝入ったミリヤム様の髪の毛を少しだけ撫でて私は髪の毛にソッとキスをしました。

 幸せです。もちろんバレてません。相変わらず寝ています。起こすのが勿体無い!

 しかし、戻らないと王子達も心配するでしょうね。


 頃合いを見計らい優しくミリヤム様を起こす。


「ミリヤム様…」


「んあっ?ザシャくん?なんれ?」


「ほら観光。サプライズ。ケーキ」

 と単語だけ言うとミリヤム様は思い出した。


「あっ!そうだった。戻ろう!」

 とミリヤム様と転移魔法で王子達の所に戻るとフェイト様はぶち切れて私は素直に殴られて吹っ飛ばされましたね。痛いっ。


「ええーっ!?何で殴るの?フェイト!?」


「ミリヤムねーちゃん!何もされなかった!?良かった!!」

 とどさくさにフェイト様はミリヤム様を抱きしめてらっしゃいます。………殺す。


 それに王子とシーラ様がビクリと私を見ました。ああ、少しだけ心の声が漏れましたかね?ふふふ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る