第2話 先見のキスの日
俺は学院に向かう馬車の中でも向かいに座るシーラを無視して隣りに座る妹のステファニーと喋っていた。
(ヴィル…妹に優しいお兄様で好き。私にも優しくしてほしいな…)
シーラの心の声が聞こえてくるが無視。意識したらやばい。
「ステファニー?初等部で虐められてないか?まぁそんなことする奴いたらお兄様黙ってないけどね?」
「大丈夫ですの!お兄様…ステファニーは王女様だからそんなことする人いないもんっ…で、でもシーラお姉ちゃんは大丈夫?」
とステファニーはシーラが虐められてることを悟り心配している。
「あ…わ、私はその…本当のことを皆に言われてるから大丈夫」
シーラはうつむいた。こいつはっ!
「シーラ…お前…心が読めるだろう?何故反論しない?やられっぱなしだろう?お前は公爵令嬢だし神獣だろ?本来ならもてはやされてもいいはずだ!」
「でででも、あのね?いろいろと男の子たちのお誘い断ってたら悪女とか思われたり女の子からも私の好きな人が悪女にそそのかされたとか聞こえてきて…ほんとに…私って悪女かも…捌きを受けなきゃって思って」
「あほか!それで好き好んで虐められるあほがどこにいる!?」
(ううっ!ヴィルが守ってくれたらなぁ…でも学年違うし辛い…)
と心の声が泣いている。
俺ははあっとため息をつく。
シーラの頭にビシっと垂直に手を叩き下ろす。やや軽めだが。
「まぁ…今日は何かあるかもな…いや、何でもない…それよりたまにはやり返せよ!」
「むっ…無理ぃ」
とシーラは涙目になる。はあああっ。やっぱり今日か!!
俺は知っている。
今日間違いなく俺はシーラとキスするんだ…。
*
予知の力の奇跡まで持っているといろいろと厄介だ。避けられることはできるが未来がその分、分岐して新しい未来が作られる。
だから俺は命の危険性のない限りは出来るだけ回避してこなかった。
だが、今日はシーラを妬んだ女生徒が階段からシーラを突き落とす日であり、その下を俺が偶然通りかかり助けた後シーラは嬉しくて俺に衝動的に飛びつきキスされてしまう…のだ。
「ここまで見たんだよな…」
生徒会室でボヤいていると同い年の黒髪の三つ編み無表情チート女が食物を片手にリスみたいにモグモグ頬張りながら
「ふぁには?」
と聞いた。
「俺にはお前が何言ってるか解らん。ていうか生徒会室に食べ物を持ち込むな!会長に見つかったら怒られんだろ?」
この女はミリヤム・リーンハルト。
エルネスタ公国の公爵の娘で普通顔だが食欲旺盛で母親の魔女の攻撃魔法を受け継ぐチート娘だ。因みにこの世界で唯一魔法が使える魔女の娘だ。いつも何か食ってるが太らない。
ミリヤムとはまぁ幼馴染みたいなものだ。こいつは別に俺に惚れたりはしていない。むしろいつも
(ヴィル…なんか食えるもの持ってないかなー?)
くらいしか頭にない!
「そうだ…これ渡された」
とミリヤムが報告書みたいなのを渡した。校舎の破損箇所が書かれている。
「ああ…あいつか…フェイトか!!あの馬鹿力のバカ」
初等部3学年のフェイトランス・バルシュミーデだ!まぁ俺の従兄弟だ。
母上の弟の叔父さんとレーナおばさんの子供のフェイトは俺と同じく赤髪で赤目の一族の力に馬鹿力を足した奴で可愛い顔つきの男の子だがマジで何も考えてないところがあるバカであった。頭の中はレーナおばさんに似てると思う。喧嘩するのが三度の飯より好きなので不良とやり合い校舎がボコボコに破壊されることがある。
9歳のくせにニコニコ笑いながら
「俺最強だから!この学校でテッペン取るから!俺の名はフェイトランス・バルシュミーデ!覚えておけ!雑魚ども!!」
と上級生までブン殴る始末だ。頭が痛い。
たまに俺にも勝負を仕掛けてくる厄介な奴だ。
まぁいい、修繕は仕方ないが
「はぁー…放課後かあ…ほんとに…偶然か?でも行かなかったらシーラは怪我をする…そりゃすぐ治せるが………」
そう、俺は奇跡の力を持ってる!階段で落ちて痛がってるシーラを治すことなんか造作もないだろう。……でもやっぱり階段から落ちると痛いだろう。
学年が違っていつもは直接的には助けてやれないでもどかしいがこんな風に外傷を負わせるやり方を俺は先見で初めて見た。女子生徒はそれまでは陰口に陰湿な物による破損や外傷までとは言わずともせいぜい上からバケツの水をかけるくらいだ。
シーラも避けないのが悪いがあいつは人の心の悪意に触れすぎて自分が悪いと思い込んでいる。だからイジメを受け入れる。はあっ…。
別にシーラとのキスが嫌なわけがない…。だが、その先は見なかった。
それに…分岐を無理に変えてもシーラを助けられなかったことを悔やむかもしれないと思うとやはり無視できなかった。
「なんか悩んでる?串カツお食べよ」
とミリヤムが鼻先にいつの間にか串カツを差し出す。これも父上が広めた前世料理だ。
「いや、いらんお前が食べろ!てか食べ物持ち込むな!」
「アイアイサー」
とミリヤムはパクリと食べた。
*
放課後に私は図書室の本を返そうと階段を降り始める。本…素敵な王子様と令嬢が結ばれるお話で良かった…。私もヴィルと結ばれたい…。朝もヴィルはカッコいい…二つ下だけどカッコいい…。私ちょっとだけ胸も膨らんできた。女の子らしくなったかな?ヴィルはどう思ってるかな?き、嫌われてないかな?いつも…顔逸らされるけど。
と考えてると私は誰かの悪意を感じて背中を押された。
私は…皆から嫌われてる。だからこれも仕方ないこと…。怪我しちゃうけど…ヴィルかジークヴァルト様に治してもらえばいい。痛いのなんて一瞬!
と目を瞑って衝撃に耐えたが、私は下で誰かに受け止められて目を開くとそこに私の王子様がいた!!突き飛ばした生徒はすぐ様逃げたようだ。
「くっ!!…おもっ…」
「ヴィル…た、助けてくれたの?」
まるでこの本の王子様…す、好き!どうしよう!嬉しい!!
そして私はヴィルに抱きついて…
「ヴィル!助けてくれてありがとう!!」
と思わずキスした。
「んっ!」
ヴィルは受け止めてくれたのか私を突き飛ばさない…。それどころか優しく背中を抱きしめた。…えっ?私ヴィルに好かれてるかな?
キスが終わるとヴィルの綺麗な澄んだ青い目と目が合う。
「うーん……シーラ……学院でキスなんてするなよ…」
と言われた。ガアアアアン!!ヴィルに振られた?するとヴィルはため息をついて言った。
「シーラ…俺の婚約者になる?もう虐められなくなるかもな…」
「ふあっ!!?いっいい…いいの?」
ヴィルは少し赤くなり
「仕方ないだろ!?お前は俺がいないとダメな奴なんだからっ!お前に俺のファーストキスも奪われたし責任取れあほ」
と言われた。
「う、うん!シーラ!責任取るよ!ヴィルと婚約する!!嬉しいーーっ!」
と私はヴィルを抱きしめた。私の方が少し背が高いからヴィルの顔は丁度私の胸に埋まった。
「うがっ!しし、シーラ!くるしっ!…てかお前いつの間にこんな育って…」
とブツブツ言うが私はヴィルと婚約できて凄く嬉しくて仕方ない。ヴィル大好きっ!!
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