第52話

「理事長、ねえ、理事長……」




力なく呼びかける。



まだ少し息はあるものの、理事長は柔らかい目をして静かに微笑んでいた。




「もう、めちゃくちゃじゃん……」




思わず言葉が漏れる。




どうしてこんなことになったのだろう。



私が死ぬんじゃなかったの?



私と理事長が死んで、

みんな解放されるんじゃなかったの?



みんなへの見せしめみたいに殺されて、その代わりにみんなが助かるんじゃなかったの?




なのに、なんで。



なんで、私だけが、ここに。





もう涙は出なかった。



怒りも収まって、

ただ、何もない感情だけ。




メラメラと燃える炎をじっと見つめた。



確かかは分からないが、

呻き声のようなものが聞こえる気がする。



死に損ねたか。



すぐに逝けたら楽だったのに。



可哀想、本当に。




助けに行く気力はない。



さっきまであんなに息巻いていたのに。



あるのは絶望だけだ。



どうせもう誰も助けられないという絶望。



私じゃ誰も救えない。



時間が経てばもうどうせみんな死ぬんだ。



助けようとするだけ、無駄じゃん。




こんな大爆発が起きたのだから、

きっとすぐ警察が来るだろう。



私は、何て言えばいい?



レンアイ放送を一から説明して、その犯人は私の親友だったんです、なんて。



誰が信じるんだろうか。



なんでお前だけが生きてるんだって、

きっと誰でもそう思う。



学校中の人間が死んで、

私だけが生き残って。



親友に罪をなすり付けているようにしか見えないじゃない。



私が真犯人だと、誰だってそう思う。




死んでしまった人を悪者にはしたくない。



こんな凶悪犯でも、親友は親友だから。



私のたった一人の親友で、

かけがえのない存在。



美咲にとっての私は、

そうじゃなかったみたいだけど。




けれど、やっぱり美咲を悪者にするのは気が引ける。



自分が今まで見たことを全部話して、

傷を抉られるのも嫌だ。




だからと言って、自分がすべての罪を被ってあげようだなんて、そんなことも思えない。



美咲を悪者にしたくはないけれど、

自分も悪者にはなりたくない。




……あぁ。



美咲が嫌いだったのは、きっと私のこういうところなんだろうな。



自分ばっかりいい人になりたくて、誰かを守るために自分が犠牲になろうだなんて思いもしない。



美咲は、きっと今でも私を見て、

嫌いだって、そう言うのだろう。



今からの私の行動を見て絶望するかもしれない。



私はこんな奴とずっと過ごしてたのかって。




あぁ、本当に私は最後までつまらない人間だった。



最低な人間だった。




グラウンドに大の字に寝転がって、

赤く染まる空を見ながらそう思った。




目を閉じると17時のチャイムが聞こえてくる。




私はこの後、どうしよう。



そう思ってポケットを探ると、紙が二枚、くしゃくしゃになって出てきた。




「なんだっけ、これ……」




一人でぽそっと呟く。



その紙を広げると、

高松玲奈の情報が書かれていた。




「そうだ、この人、生きてんじゃん。」




私だけじゃない。



高松玲奈も生きている。



それだけで、心が少し軽くなった。




……会いに行ってみようか。



特に目的はないけれど。




レンアイ放送は終わりましたよ。



あなたと私だけが生き残ったんです。



だから協力して生きましょう。



私たちは何も悪くないんだから。




そう言ってしまおう。




思いついた私の行動は早かった。



校舎に入って、体操服を取り出して、

血まみれの制服は脱ぎ棄てた。



もうこの学校に来ることはないし。



警察が来る前に出発しよう。




そう思って、学校を後にした。


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