第50話

「先生たち……

そんなところにいたの……」




その光景を見て思わず漏れた声に、

理事長が小さな声で応える。




「あぁ。あそこで働かせていたんだよ。


理系教師と事務員は、GPSを追跡して、殺し役の社員に生徒たちの居場所を知らせる役割。


文系教師は、盗聴と、学校の防犯カメラを監視して、誰が死んだかをチェックする役割。


副教科の教師は、他の教師たちから結果を受け取ってサイトの更新をする役割。


それぞれに役割を与えて、果たせなかったらクビ。もしこのことを口外したら、家族もろとも抹消すると脅していたんだ。」




理事長は悔しそうにそう語った。




「渡辺さん、君に罪の意識を抱かせてしまってすまない。君は何も悪くない、私だけが悪いんだ。あの子がああなってしまったのも、全て親である私の責任で……」



「いえ、気付けなかった私が悪いんです。

あまり自分を責めないでください。」



「そんな……」




理事長は本当に申し訳なさそうな顔をして、私の目を見ながら涙を浮かべていた。




私が理事長の立場でも、

同じ選択をしていただろう。



いつだって、人を救えるとは限らない。



救いたくても救えない時だってある。



私はこのレンアイ放送で何度もそれを経験したじゃないか。



理事長は、何も悪くない。



あげはちゃんの言葉を思い出して、

そんなことを思った。




「でも、渡辺さん。君は被害者だ。

君にはここから逃げる権利がある。


私はナイフを持っているから、

少しなら美咲を足止めできるはずだよ。

さあ、逃げなさい。」




そう言って理事長は、

私の背中をぽんと押した。



どこまで生徒想いの良い人なのだろう。



こんな人が作った学校に在籍できていたことが、とても幸せに思えた。



今更気付くなんて、馬鹿だなあ。



こんなことがないと、

気付けないことがあったんだ。




けれど。




「ごめんなさい、それは、出来ないです。」



「なぜ……」




理事長は唖然とする。




「ここで逃げても、私の心は解放されないと思うんです。


親友に恨まれて、人殺しゲームを始めるきっかけを私が作ってしまったことは事実なんだから、たとえそれが見当違いの逆恨みだったとしても、私は逃げたくないです。」




私は、理事長の目を見て

まっすぐにそう言った。



理事長は私の言葉に圧倒されている様子だったが、納得はしていなさそうだった。




「だから、ごめんなさい。

私は死にたいです。」



「……説得は、出来なさそうだね。」




ふっと笑う理事長には、

どこか哀愁が漂っていた。



私はむしろ、理事長に逃げてもらいたい。



私のせいで巻き込まれたも同然なのに、

こうして生徒のことばかり思って。



けれど、きっと、理事長のことも説得出来なさそうだと思った。



ともに、死ぬしかない。




「未来ある若者を道連れにしてしまうのは私の道理に反するのだが……こればかりは仕方がないな。」



「いえ、私を逃がそうとしてくれたんですから。理事長は最期まで素敵な教育者でしたよ。」



「ふっ、嬉しいね。ありがとう。」





《早く入ってくださーい!

あんまりトロトロしてると殺しますよ!》





そんなことを話しているうちに、美咲は恐ろしい言葉と共に生徒を体育倉庫へ誘導し始めていた。



決して広くはない体育倉庫だ。



そこに生徒を詰め込んで、

一体何を……?




レンアイ放送が始まった時同様、

私は何か胸騒ぎがしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る