第41話

「残念だって……あなたはレンアイ放送について何か知ってるんですか?」




拳をぎゅっと握りしめながら探るようにそう言うと、安藤太一は顔を歪めて、



「本当に俺のこと、

何も聞いてないんだね~。」



と拗ねたように言った。




「一度も聞いたことがないです。」



「え~残念だなあ。」




安藤太一は飄々とした態度でそう言う。



そして、不機嫌な態度から一変し、

笑顔で私に向き直った。




「じゃあお近づきのしるしに教えてあげる。俺、プログラミングが趣味でさ、レンアイ履歴ってサイトあるっしょ?あれ作ったん俺なんだよね~。」




そう言って、安藤太一は自慢げにレンアイ履歴のサイト管理ページを見せてきた。



私たちに表示される画面とは少し違い、ワンタッチで編集ができそうなシンプルな画面だった。




「まあこんな簡易的なサイト、有識者じゃなくても普通にできるけどね~。独自ドメイン取得してチャチャっとさ。俺にはちょっと役不足だったけど。」



なんて呟きながら、

安藤太一はその画面を閉じた。




何故、安藤太一がサイトの管理を任されているのだろうか。



サイトの管理者ということを知っても、

謎は深まるばかりだ。



高松玲奈と両想いでなくても生き残っているのは、主催者と繋がっているから。



高松玲奈と自分を助けることを条件にサイト作成を引き受けた。



それくらいしか思いつかない。



それは職員室で得た情報と全く同じ考察でしかない。



何一つ前に進むことが出来ていない。




こうなれば、少しずつ探りを入れるしかないな、と思った。




「やってるのは、

サイトの管理だけですか?」




恐る恐るそう尋ねる。




「うん、それ以外は何も知らない。

てか教えてもらえなかった。」




安藤太一は、意外にもあっさりその質問に答えた。



ならば、次。




「……誰に教えてもらえなかったんですか?」



「瑞季ちゃん、俺も馬鹿じゃないんだからさ。そこは自分で考えなよ。」




この流れなら答えてもらえそうだと思ったのに、安藤太一は私の問いをいとも簡単に冷たくあしらった。



自分で考えないと意味がない、とでも言いたげなその態度に私はムッとする。



こんなにも大勢が死んでいるというのに、

まだそんなことを言うつもりなのか。



今ここで安藤太一が教えてくれれば、

この惨劇を止められるのに。




「瑞季ちゃんってさ、ニブいとか言われない?言われるっしょ?」




一人でイライラしていると、

安藤太一が変なことを聞いてくる。




「何ですかいきなり。」



「これ、そんなニブい頭じゃ主催者なんて見つけられないよっていう嫌味なんだけど。それも分かんないの、ニブいね。」




安藤太一の煽るような言い方に、

私のイライラが増幅してくのを感じた。



この人はどこまでも人を苛立たせるのが得意みたいだ。




「頑張ってあなたまでたどり着いたんです。あと少しで分かるんですよ。」



「そのあと少しはどれだけ遠いんだろうね?」



「このっ……」






《D組41番 矢尾板駿介やおいたしゅんすけくんの好きな人は……》






「わぁ、もうD組の41番?

ちょっと来るの遅かったかな~。」




……まずい、もうあと3人だ。



レンアイ放送が、終わってしまう。



安藤太一の物言いに腹を立てている場合なんかじゃない。




「お願い、主催者を教えてください!これ以上人を死なせたくないんです……!」




私は必死に安藤太一に掴みかかった。




「あと少しとか言いながら、結局最後は俺に縋るの?誰が死のうと俺には関係ないんだし、言わないよ。」



「なんでそんな冷たいことが言えるんですか!同じ人間でしょ!?」




この人には、人間の血が通っていないのだろうか。



こんなに血まみれの廊下を見ても何も思わず、自分がレンアイ放送に関わったことを後悔する兆しもない。



こんなにもたくさんの人が死んでいるのに、なぜ自分には関係ないからと見放せるのだろうか。



信じられない。



最低だ。




「もういいです!自分で考えます!」



「あ~ちょっと待った。」




走り出そうとした私の前に、

安藤太一が立ちはだかる。




「ここ、通せないんだよね。」




そう言って、安藤太一はポケットから多機能ナイフのようなものを取り出してくるくるっと回して見せた。



銀色の刃に血の色が鈍く反射して、

それは妙な恐ろしさを放っていた。


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