第37話

このファイルから得られた情報は大きかった。




1年生の生存者は白石ゆり一人のみということ。



3年生の生存者は二人だが、安藤太一は片想いなのに、なぜか高松玲奈を殺さずして生き残っているため、主催者に近い人間、または主催者本人であると推測できること。




それが分かっただけでも大収穫だ。



少しずつではあるが、レンアイ放送の主催者への道は確実に近づいている。



主催者とつながりのある、もしくは主催者本人だと思わしき人物が見つかった今、あとは芋づる方式で見つけることができるだろう。




しかし、安藤太一へのコンタクトの取り方が分からない。



電話番号と住所は記載されているが、

なんといってもこの電波状況だ。



安藤太一に電話をかける手段などどこにもない。



書かれている住所に行こうにも、脱出しようとすれば黒パーカーの男に襲われて足止めされてしまう。



職員用のパソコンにもログインできないし、安藤太一についての情報はこの紙切れ一枚だけだ。




レンアイ放送の終わりは確実に近づいている。



早く主催者を見つけなければ、

レンアイ放送は止められない。



私の中には焦りばかりが募っていた。




そんな中、榊原が口を開く。




「レンアイ放送が終わるまでもうそんなに時間がないな。せっかく電話番号も載ってるし、電話かけてみるか?」



「え、誰に?」



「安藤太一に決まってんだろ。」



「え!?安藤太一に!?」



「当たり前だろ。電話して、主催者を教えろ!って言うんだよ。」



「いやいやいやいや、そんなこと素直に言うわけないじゃん。てかまずここ電波ないんだからそもそも電話なんて出来るはずもないって。」



「有線なら繋がるかもしんねーだろ。ダメもとでやってみるんだよ、こういうのは。」




そう言って、榊原はファイルを片手に、デスクに置いてある固定電話に電話番号を打ち始めた。




すごいな、榊原の行動力は。



とにかくやってみようの精神は

私にはない。



自己保身ばかり考えて、

考えるだけで行動はしないで。



榊原は、そんな私とは大違いだ。



正反対だからこそ、

好きになったのだろうか。



私もこうなりたいという憧れや尊敬の念から、榊原を好きになったのだろうか。



こうしてすぐに行動に移せる榊原を

素直に尊敬した。




「……あーダメだわ。てかこれそもそも発信音すら鳴らねえんだけど、線抜かれてんのか?」




そう言って榊原は、

辺りをきょろきょろとしだす。




「抜かれてるなら刺せばいいだけじゃないの?」




そう言いながら電話線をたどると、

電話線は途中で切れていた。



しかも、ペンチか何かで切断されたような、そんな故意に切り裂かれた形だった。




「ダメか……すごい徹底具合だな。」



「じゃああっちの電話は?」



「あれは内線だな。

外部にはつながらないやつ。」



「そっかぁ……」




手詰まりだ。



何も出来ない。



せっかく大きな手掛かりを手にしたと思ったのに、そこから何もできないなんてあんまりだ。



安藤太一とコンタクトさえ取ることができれば、確実にレンアイ放送の主催者が分かるのに。



悔しくて悔しくて、仕方がなかった。




けれど、一つだけ、

やはり心に引っかかることがある。



こんなにも徹底して外部への連絡手段をっているというのに、どうしてこのファイルを残しておいたのだろうという疑問だ。



これを見られたら大きなヒントになるというのに、どうしてわざわざこんなところに……?



もしかすると、ただのカモフラージュなのかもしれない。



ここに載っているのは全て偽りの情報で、私たちを惑わすために置かれているとか。




けれど、私は何故か。



誰かに気付いてもらいたくて、このヒントを残したんじゃないか、なんて思ってしまった。



自分でも自分を止めることができなくて、誰かにレンアイ放送を止めてもらいたかった、だとか。




……考えが甘いか。



そんな考えじゃ主催者とは戦えない。



けれど、主催者だって人間なのだから。



そんな繊細な心があったかもしれない。




行く手を阻まれたことを誤魔化すように、私はそんなことばかりを考えてしまっていた。




「あ、今更だけどさ、

放送室に内線してみるか?」



「放送室に?」



「うん、壊された形跡もないし。

内線なら繋がるだろ。」




そう言って、榊原は内線電話の受話器を取り、番号表を見ながら放送室の番号を押した。




ちらりと覗き込むと、「01:理事長室」「02:職員室」といった風に、それぞれに内線専用の番号が割り振られているようだった。




私は放送室がどこにあるのかすらも知らない。



放送室なんてめったに行くものでもないし、放送委員や生徒会でもない限り、きっと大半の生徒が知らないまま卒業していくだろう。



でも放送がされている以上、

放送室に何かがあるのは間違いない。



放送されている場所が本当に放送室かだけでもわかればいい。




それだけでいいから、お願い……



繋がって……!








《C組18番 曽木美雪そぎみゆきさんの好きな人は……(プルルル……)》






放送の後ろから、

微かに電話の着信音が鳴った。




「……聞こえた!?」



「うん、聞こえたな!」




この放送は、

確かに放送室から行われている。



それはつまり、

放送室に行けば主催者に会える……!




「おい、校内地図あったぞ!」



「放送室は、1階の端?」



「1階の端は特別教室だけだったよな。

こんなところ、行ったことも見たこともないけど。」



「でもとりあえず行ってみなきゃ何も分かんないよ!」



「……ふっ、そうだな。

とにかく行ってみようか。」




榊原のとにかくやってみよう精神の真似をすると、榊原はそれに気付いたのかフッと笑った。




やってみないと何も分からない。



こんな一刻を争う場合は特にそうだ。



どんなに小さなヒントでも、

確実に掴みたい。




「じゃあ、行くか。」



「うん、行こう。」




お互いに目を合わせて、

私と榊原は職員室を後にした。



職員室を出る時に、私はこっそり安藤太一と高松玲奈の情報を持ち出した。



なぜこんな行動を取ったのか、

私には分からない。



ただ、どうしても必要な気がしたのだ。





今も一人で苦しんでいる高松玲奈のことなんて。



この時の私は知る由もなかった。


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