全ての元凶

第38話

放送室は1階にある。



それだけは確実だったから、

ひとまず私たちは階段を下りた。




階段には色んな人の死体が転がっていた。



時間が経ったものは、

既に異臭を放ち始めていた。




もうレンアイ放送も終盤だ。



生存者はそう多くはないようだった。






1階に降りると、

龍ちゃんと優実の死体が転がっていた。



あげはちゃんが殺した二人だ。



もうすっかり過去の記憶のようだった。




たった数時間で

本当に色んなことが起きた。



色んな人が死んだ。



あんな短時間で大量の人の死を目の当たりにするなんてことは、この先一生ないだろう。



でも、「この先一生」という言葉が使えるようになっただけでも良かった。



私にはまだこの先の人生があるのだと、

どこかホッとする気持ちさえあった。




私は未だにあげはちゃんが二人を殺した包丁を手に持っている。



阪本の魂や、二人を殺したあげはちゃんの力がこもっている気がするから。



ゆりちゃんも、私に力を込めて包丁を渡してくれた。



絶対忘れないためにも、待っている人のために戦うのだと自分の心に刻むためにも。



私はこの包丁を持って戦い続けなければいけない。



もしかしたら、この包丁で見つけた主催者を刺し殺すかもしれない。



何より自分の精神を安定させるために、私にとって必要不可欠なものとなっていた。






包丁をもう一度強く握りなおしてから少し進むと、阪本やかなめちゃんの死体も転がっていた。




……吐きそうだ。




相当時間が経ったからか、阪本の傷口は見るに堪えないグロテスクさになっていた。



思い出したくないけれど、

決して忘れてはいけない。



その犠牲の上に私たちは立っているのだから。



忘れちゃ、ダメなんだ。




そう思った時だった。




「……なに、これ。」




私の目に飛び込んできたのは、

黄色いシュシュだった。



血だまりの中から拾い上げると、

それにはピンク色の髪が絡まっている。



ピンク色なんて派手な髪色をしている人は、この学校にはきっとあげはちゃんしかいない。



このシュシュは、あげはちゃんのものだ。




「まさか……」




気付いた時にはもう走り出していた。



嫌な予感がする。




『私はここで待ってるよ。

ずっと待ってるから。』




あげはちゃんはそう言ってくれた。



私のことを、

ずっとここで待っているって。



私が生きるために榊原を殺すことだって認めてくれて、私は何も悪くないって言い続けてくれて。



私を暗闇から救い出してくれた。




なのに。




私が。



私が。




私が待たせたせいで……!





走りながら、廊下に引きずられたような血痕があることに気付いた。




違う、違う。



これはあげはちゃんのなんかじゃない。



あげはちゃんがこんな目に遭わされているわけがない。




でも、どうして。



私が向かう先へと続いているのだろう。




違う、違うのに。



違うと言い切れない。




あげはちゃんはあそこにいるんだ。



そして、ゆりちゃんも、あそこに……




私は勢いよく保健室のドアを開けた。



年季が入っているのか、力強く開けても、ギィ、という重い音がした。




血痕はベッドへ続いている。



一目散にベッドまで走っていくと、今度は二つのベッドのカーテンが閉まっていた。



さっきは一つだったのに。



ゆりちゃんの分だけだったのに。



違うって、思いたいのに。




なんで、なんで。




私はベッドの前で立ち止まり、

大きく深呼吸をした。



大丈夫。



きっと、大丈夫。



私が信じなくてどうするの。



私が、二人のために戦うって決めたんだから。




そう思いながらカーテンを開けると。





「イヤァァァァァァァァァァァ!!!」





真っ白だったシーツが、

二人の血の色で真っ赤に染まっていた。


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