第35話

そこに置かれていたのは、背表紙に「1年生」「2年生」「3年生」と書かれた三つのファイルだった。



私が手に取ったのは2年生のファイルだ。



開くと、A組1番 青木裕太から、

ズラッと生徒の情報が書かれていた。




「榊原!あった!これだよ!」




私は開いた自分のページを榊原に見せる。




C組42番 渡辺瑞季

好きな人:C組15番 榊原悠人

→両想い




私のページには、この他に住所と電話番号までもが書かれていた。



それ以外は、サイトに載せられている情報とほとんど同じ内容。



違うところ言えば、個人情報の有無、それとリアルタイムでの生死が分からないところくらいだった。




「これ、全員分あるのか?」



「うん、多分。」



「住所や電話番号は仕方がないけど、

こんな数の好きな人をどうやって……」




そうだ、その通りだ。



一体、先生たちはこんな情報をどこで手に入れたのだろう。



榊原への想いは美咲以外の誰にも言っていないし、勘付かれるほどに仲の良い人なんて特に誰もいなかった。



だから誰にも知られることなく、ひっそりとこの恋は終わると思っていたのに、一体誰が……?





「榊原は、私のことが好きって誰かに言ってた?」



「いや、一応藤田と付き合ってたし、

そんなこと言えなかったよ。」




そう言ってから、

榊原は思い出したように付け足した。




「……あ、でも神田にだけは言ってた。

藤田のこともよく相談してたし。」



「神田くん、か……」




分からない。



神田くんのことはあまり知らないが、温厚な性格で、そんなことを口外する人だとは思えない。



神田くんしか知らなかったのなら、必然的に情報を流したのは神田くんということになる。



それなら美咲だってそうだ。




二人ともが主催者と繋がっていただなんて、そんなこと、あり得るはずがない。



美咲は義理堅いし、口も堅い。



だから美咲に彼氏がいることは私しか知らなかったし、逆も然りだ。



そんな美咲が協力者だなんて、

ありえるはずがない。



しかも、神田くんはすでに放送されていた気がする。



生死までは確認できていないが、

確かに神田くんの名前は放送で聞いた。



それはつまり神田くんもレンアイ放送に

巻き込まれているということ。



協力者なら巻き込まれる必要もない。



放送は協力者だとバレないための

ただのカモフラージュだったのか?




ならば他の人たちは?



他の人たちの好きな人も美咲と神田くんが漏らしたのか?



でも二人がそんなに他の人の好きな人を把握しているはずがない。



それならもっと莫大な人数の協力者がいないと成立しない。




……分からない。



どんどんモヤモヤだけが募ってく。




そもそもこれが職員室にある時点で、

先生たち全員が協力者なのは間違いない。



まさか、先生たちが主催者……?




……だめだ。



時間だけが残酷に進んでいく。



あまりにも少ないヒントを前に、

私は立ちすくんでしまっていた。


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