第34話

教室を出てからの私たちは、

向かう先も決めずに校舎を歩いた。



窓の外を見ると、

少しだけ太陽が傾き始めている。



レンアイ放送が始まってから、

もう何時間が経ったのだろう。



何日にも、何か月にも感じる長い時間だった。




「安藤と連絡取れないの、

なかなか不安だよなあ。」




榊原は息を吐いてそう話す。



太陽に照らされて、

少しだけ横顔が白く輝いて見えた。




「うん……私のこと待ってるって言ったのに、すぐに教室を離れるのも不自然だし、無事かどうかも確認できないのが不安で仕方なくて。」



「しかも、もう安藤の放送終わってないか?」



「え?本当に?」



「うん、聞いてみろよ。」




榊原にそう言われて耳を澄ますと、今はC組4番の飯塚匠が放送されているようだった。



いつの間に、2番の美咲の放送が終わってしまったのだろう。



教室で少し瑠香たちと話していただけなのに、こんなにも美咲を心配している私が放送を聞き逃すだなんて、あまりにも不自然だ。




放送されない理由はたった一つ……



その人が、もう死んでいる場合。



わざわざ○○さんが死にました、だなんて放送しない。



人の生死が放送されるとしたら、あげはちゃんの時みたいに、ギリギリで生還した時くらいだ。




もし美咲の放送が聞き逃したわけではなく本当にされていなかったとしたら……



本当に、不安で仕方がない。




私が唸りながら考えこんでいると、

榊原が口を開いた。





「とりあえず、職員室にでも行ってみるか。」



「え?職員室は始まってすぐに見に行ったけど、本当に誰もいなかったよ?」



「いや、誰もいないことは分かってんだけどさ。俺らが探すのは人じゃなくて手掛かりだろ?


こんな学校全体を巻き込んだ放送が先生たちの協力なしに出来るわけないし、職員室になら企画書とか、生徒の情報をまとめた紙とか、そういうのがなにかしらあると思うんだよな。」




榊原は、まっすぐに前を見据えてそう言った。



その眼には一切の不安を感じない。



闘志に満ちた目をしていた。




……確かにそこまでは考えていなかった。



先生たちもいない、電波もない。



そんな中で手がかりをつかむなんて不可能に近いと思っていたけれど、榊原となら、できるかもしれない。




そんな期待を抱いて、

私たちは職員室へと向かった。






職員室は、不気味な程に静かだった。



放送開始時はあんなに人で溢れていたのに、今では人っ子一人いやしない。



みんな諦めたのか、

それとも死んでいったのか。



そんなこと、考えたくもなかった。





「うわ、パスワードとか知らねえよ……」





その声に振り返ると、榊原が何度もキーボードを叩いてはエラーを起こしている。



榊原が座っているのは入り口から三番目のデスクだ。



もう既に、何台かでログインを試していたようだった。




「今時、紙媒体でデータなんて残さないよね。」



「うん、あるとしたらやっぱりパソコンだと思うんだよな。メールから共有ファイルでも開けたらいいんだけど。」




榊原はそう言って色んなパソコンにログインを試みていたが、流石にパスワードが設定されていないパソコンなどどこにもないようだった。



パソコンから情報を得るのは不可能なようだ。



これは潔く諦めるしかない。




もうあまり時間もないので、私も何かしなければ、と思い職員室内をぐるりと見渡した。



そこで、中心部のあたりに置かれた大きな青いファイルが目に飛び込んでくる。



私はそれを直感的に手に取り、

おもむろに表紙をめくった。


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