知らない犠牲者

第33話

教室へ向かうと、そこには矢崎瑠香と向山真司むこうやましんじだけが残っていた。



二人は向かい合ってのんびりと話している。



クラス内唯一のカップルだからか、二人の間には妙に落ちついた雰囲気が漂っていた。




「ねえ、美咲見なかった?」




恐る恐る声をかける。



レンアイ放送が始まる前、瑠香にスマホを奪われたのが少しのトラウマになっていたのだ。




「……ん、見てないけど。

そこ、両想いになったの?」




瑠香は私たちを指さしてそう言う。



私が答える前に、榊原が



「うん。」



とはっきり答えた。




「へえ、おめでとう。

じゃあもう安泰だね。」




瑠香と向山は涼しげな顔でそう言った。



確かに、もう殺される心配はないし、

これからはお互いのことを守り合える。



だから、誰かから狙われて殺される心配もほとんどない。



安心と言えば安心だった。




「安藤、いないのか。それじゃあ主催者の手掛かりと一緒に探してみるか?」



「うん、そうしよっか。」




私たちがそんな会話をしていると、気を逸らしていた瑠香がいきなり話に食いついてきた。




「手掛かり?何、あんたたち探偵ごっこでもしてんの?」



「うん……?まあ、そんな感じかな。」



「はあ?いや、あんたたち、バカなの?

もう安泰だって言ったじゃん。」




瑠香の声が、唐突に低くなった。




「このまま放送が終わるのを待てば、死ぬことなんて絶対にないんだよ?このバカみたいな殺人ゲームが他人事になるの!だから黙って見てなよ。」




瑠香は心底呆れた顔をしている。



私を心配している、というよりは、

本当に不思議なだけだという表情だった。




「でも、レンアイ放送を止めることが出来たら、これ以上誰も死ななくて済むんだよ?」



「うちらには何の関係もないじゃん。

もうすぐ放送も終わるっていうのに、わざわざ面倒なことするとか、本物のバカ?正義の味方気取り?」



「……でも、このまま指くわえて人が死ぬのを見てるのは嫌なの。だから私が変えたい。私が終わらせたい。」




半分は、瑠香に。



もう半分は、瑠香の言うことに揺らいでしまいそうになった自分に、言い聞かせるための言葉だった。




もう誰も死なせたくない。



もう誰も見殺しにしたくない。



もう誰も、傷付けない。




自分の中で強く根付いている決心を、

自分の言葉で、より一層固くした。



揺らがない、負けない、強くなろう。



レンアイ放送に勝つためには、

そんな生半可な気持ちじゃだめだ。



瑠香の強い物言いなんかに怯んでいる場合じゃない。



戦う相手は、もっと大きいのだから。




「……あっそ、勝手にすれば?

どうなっても知らないよ。」




瑠香は諦めたのか、まだ何かを言いたげだったが口をつぐんだ。



そしてもう一度、


「美咲は見てない。てか瑞季ちゃんがいなくなってすぐにどっか行ったよ。」


と言い直した。




「分かった、ありがとう。

榊原、行こう。」




そう言って私たちは教室を後にした。





……不安だ。



美咲が訳もなくどこかをふらついているのか、それとも誰かに連れ去られてしまったのか。



安否が確認できない以上、

どうすることも出来ない。




けれど、そんな不安を抱いていたって何も始まらない。



こうしている間にもレンアイ放送は着々と進んでいる。




大丈夫、美咲は生きている。



私の親友がそんなすぐに死ぬわけない。



美咲は、何があったって死なないんだから。



レンアイ放送に終止符を打って、

それから美咲に会えればいい。




やらなきゃ。



私がレンアイ放送をぶっ潰すんだ。


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